記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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最終章 それが俺達の絆

第458話 慈愛と栄光の真実

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 それは今より数年前のこと。
 ユメがジョウインと結婚し、その間にミライという娘を授かった頃。
 ユメは一人、ルクガイア王国の領内に足を運んでいた。

「お久しぶりです、ジャコウさん。こちらから連絡を入れられなくて、申し訳ございません」
「イヒヒヒ。構わないですじゃ。あの【伝説の魔王】の下にいては、ユメ様もさぞ苦労されておいででしょう」

 ユメは一人の男と会っていた。
 その男は自らのパーティーの一員でもあった魔術師――ジャコウ。
 ユメはジャコウから秘密裏に連絡を受けたため、こうして一人で会いに来たのであった。

「皆さんが思う程、魔王城での生活も悪くありませんよ。ジョウインさんも優しくしてくれますし、毎日楽しく過ごしてます」
「それはそれは……。して、小耳にはさんだ話なのじゃが、ユメ様は"人と魔の共存"を目指すため、あの【伝説の魔王】とご結婚されたとの噂があるのじゃが?」

 ユメは笑顔でジョウインとの生活を語るが、それに対するジャコウの反応はどこか冷ややかだった。
 言葉の影にユメの思想を読み取ろうとする魂胆が見え、笑顔を作ってはいるがどこか悪意のようなものが見え隠れする。

 ユメもそんなジャコウの思惑を感じ取りつつ、言葉を紡いだ。

「……おっしゃる通りです。私は人も魔の者も、手を取り合える世界を望んでいます。絵空事かもしれませんが、私は本気でそんな世界を目指しています」
「ほうほう。では、【伝説の魔王】もその目的の為に、今はユメ様の手駒となっているわけですじゃな?」
「……あの人を悪く言わないでください。私がジョウインさんに抱いている思いは本物です。目的や策略に関係なく、私はジョウインさんを愛しています」

 ユメは密かな怒りを滲ませながら、ジャコウの問いに答えた。
 自らが結婚した【伝説の魔王】と呼ばれる男性は、決して人々が思うような傲慢な存在ではない。
 ユメは本気でジョウインを愛し、ジョウインもまた、本気でユメを愛していた。
 二人の娘であるミライは、その証明とも言える存在だった。

「……ジャコウさん。私は仲間であるあなたの要望だったので、こうして一人でここに来ましたが、そもそも何故私を呼んだのですか?」

 ユメはジャコウを警戒しながら、その本心を問おうとした。
 腰に携えた刀に手をかけ、いつでも刀を抜ける準備をする――





 ――バシュンッ!





「ううぅ!?」

 ――そうしてジャコウに対して身構えていた直後、ユメの肩に激痛が走った。

「こ、これは……針? し、しかも……毒が……!?」

 ユメは自らの肩に手を当て、痛みの原因となっていたものを抜き取った。
 それは手で握れるほどのサイズの針。しかも毒が込められた毒針だった。

「【慈愛の勇者】ユメ様よ。貴様の思想が実現してしまっては、迷惑をこうむる人間も多いのじゃよ……!」
「え……?」


 バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ!


「ああぁあっ!?」

 突然の攻撃に困惑し、毒で体の自由が利かなくなったユメに対して、さらに毒針が三本突き刺さった。
 一本は目の前にいるジャコウが放ったもの。
 普段のユメなら躱すことができたが、最初の一発目で毒を受けたユメに、それを回避することはできなかった。

 そして、残りの二本を放ったのは――



「よくやった、ジャコウ。お前の望みである王国騎士団軍師の役職への口利き……僕も考えてやろう」
「これが勇者としての使命を忘れ、【伝説の魔王】と結婚した"裏切り者"……。【慈愛の勇者】ユメなのですわね?」

 ――その当時、神聖国から選別された次期勇者候補の一人。後に【栄光の勇者】と呼ばれる少年レイキース。そしてその仲間の賢者リフィーの二人であった。
 物陰からユメを狙っていた二人が姿を現し、毒針で弱ったユメを蔑むような目で眺める。
 最初の一本をレイキースが不意打ちで放ち、そこへ追撃として二人が毒針を放ったのだった。

「曲がりなりにも、【慈愛の勇者】と呼ばれるだけのことはあるな。僕が作った<光毒針>を四発食らっても、まだ息があるのか」
「あ……あなた達は……何を考えて……?」
「あら? そんなことも分かりませんの?」

 レイキースとリフィーはユメに刺した毒針――<光毒針>を構えながら、ユメへと近づいていく。
 その表情には笑みが浮かんでいるが、ユメにもはっきりと奥底の殺意が感じ取れる。
 ユメは必死にその場から逃げようとするも、体は言うこと聞いてくれない。

 立っているのがやっとの状態のユメに抵抗する術はなく、ただ黙ってレイキース達の言葉を聞くしかなかった――





「勇者の使命は"魔王を倒すこと"だ。お前はその使命を忘れて魔王と結婚するどころか、"人と魔の共存"という、この世の理にあまりに反する危険な思想を抱いている」
「だからこうして、わたくし達が処刑に来たのですわ。ここにおられるレイキース様こそ、次期勇者に相応しいお方ですわ」
「ユメ様には悪いですじゃが、わしもこの二人の意見に賛成じゃからのう。ルクガイア王国の貴族からの依頼でもありますじゃ……!」

 レイキース、リフィー、ジャコウ。
 その三人はこれまで続いてきた思想を盾に、各々の欲求を満たそうとしていた。

 レイキースはユメを裏切り者として始末することで、次期勇者の座に就く。
 リフィーもその仲間として、次期勇者パーティーの一員となる。
 ジャコウはその二人に協力することで、王国騎士団軍師の地位を手に入れる。

 ――言葉から感じ取れる思惑を、ユメもはっきりと理解した。
 貴族の権力を後ろ盾にし、私欲を満たそうとする三人の思惑を――



「くうぅ!」
「チッ!? この状況でまだ逃げようとするか!? だが無駄だ! お前達! <光毒針>を放て!」

 ユメはなんとかこの窮地を脱しようと、ただひたすらに逃げ出した。
 全身をめぐる毒で、自由の利かない体に鞭打ちながら、必死に走り出した。


 バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ!


「ウグゥウッ!?」

 そんなユメの背中に<光毒針>が何発も撃ち込まれる。
 レイキース達もユメを逃がすまいと、<光毒針>を連続で投げつける。

「ハァ! ハァ! ハァ!」
「しぶとい奴だ……! もう十発は刺さっているというのに……!」

 それでもユメは走り続けた。
 自身がこの罠に嵌められたことへの浅はかさも悔やんだが、それ以上にユメはこの事態をジョウインとミライの二人へ伝えたかった。

 このままでは愛する家族にまで被害が及んでしまう――
 それだけは避けるためにも、ユメは必死に逃げ延びようとした。





「……逃げられてしまいましたわね。追いましょうか?」
「いや、必要ないだろう。あれだけ<光毒針>を食らっては、どのみち先は長くない。それよりも今はこのことを依頼主の貴族に報告し、次の一手を進めるぞ」

 遠のいていくユメの姿を見て、レイキース達は追うことはしなかった。
 すでにユメは瀕死の状態。これ以上手を出さなくても、もう助かることはない。

 そう判断したレイキース達三人はその場を後にした――





「ユ、ユメ様!? ユメ様ですよね!? どうされたのですか!?」
「そ……その声は……ロギウス……殿下……」

 ユメは逃げ延びた先で、ロギウスと出会った。
 ロギウスはユメの状況を見てすぐさま自身に使える回復魔法を施したが、すでに遅かった。



 ユメの命は<光毒針>によって、風前の灯火となっていた。



 その後もロギウスはなんとかしてユメを助けようとした。
 ルクガイア王国で唯一医学の知識を持つ当時のバクトにもすぐ駆け付けてもらい、なんとか治療を施したが――



「……すまん。俺の手にも負えない……」



 ――手の施しようがなかった。

 ロギウスもバクトも、ただユメの死に目に立ち会うことしかできなかった。

「ユメ様……。どうか僕達にできることがあるなら、何なりとお申し付けください」
「最期に言いたいことがあるならば、俺とロギウス殿下だけでも聞いてやる」

 ロギウスとバクトはユメを助けられない悔しさから、せめて最期の言葉だけは聞こうとした。
 もうすでにユメは目も見えておらず、かすかに声を聞くことしかできなかった。

 思うことは多々あった。
 夫ジョウインと娘ミライへの思い。父であるイトーへの思い。
 だがその時のユメは、最期に己の愚かさを悔いた。
 "人と魔の共存"という、自らの願い――
 そこに行きつくまでの過程を、浅く見ていた己の愚かさを――

 そんなことを思いながら、ユメは最期の言葉を呟いた。





「私は……一度に大勢の命を……守ろうとし過ぎたのかな……?」
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