BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい

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トーラス side. 揺らぐ独占欲

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トーラスside.

朝。
俺はベッドの端に腰を下ろしながら、いつもの声を喉まで出しかけて――やめた。

「……」

いつもなら「起きて、アリー」って言う。
眠そうに布団をかぶって「あと五分……」って返されて。
それでも何度か声をかければ、結局は俺の手を借りながら起き上がる。
三年間、ずっとそうやってきた。

でも今日は――黙って靴を履いた。

(……たまには起こさなくてもいいだろ)

そう思ったのは言い訳かもしれない。
本音は違う。
昨日、一日中アリーがシリウスと一緒にいたこと。
その無邪気な笑顔を、あいつに向けていたこと。
胸の奥に引っかかって、どうしようもなくざらついていた。

(……俺がいなくても、平気そうだったから)

ほんの少しだけ、意地を張ってみた。
もし困れば、俺の大切さに気づいてくれるかもしれない――
そんな子供じみた期待まで抱きながら。



結果は、予想もしなかった形で現れた。

アリーは寝坊して、慌てて飛び込んできた。
息を切らして、シャツははだけ、頬を赤くして。

……教室中の視線が、あいつに集まった。

シリウスも、スコーピオも、そして先生まで。
誰もがアリーに目を奪われていた。

(……しまった)

胸の奥で鈍い後悔が広がる。
俺だけに向けてほしかったその姿を、逆に皆に晒してしまった。



休み時間。
前の席のやつらが、ひそひそと話しているのが耳に入った。

「なぁ、シェスタークって……あんなに可愛かったっけ?」
「走ってきたとき、顔めっちゃ赤かったよな。……肌も白いし」
「息切らしてるの、なんか色っぽかったな」

……瞬間、視界の色が変わった。

机の上で組んだ手に、自然と力がこもる。
体ごと振り向きはしなかったが、わざと椅子を強く引いて立ち上がる。

「……何か言った?」

低い声。
教室の空気が、一瞬で凍った。
さっきまで笑っていた連中は、慌てて顔を伏せる。

「い、いや……別に」

「そう」

短く返して席に戻る。
けれど胸のざわめきは収まらなかった。

(……俺のせいだ)

今まで当たり前だと思っていた。
毎朝の声かけも、隣で笑うことも、俺が自然にしてきたこと。
それがどれほど特別なことだったのか――ようやく分かった。

(……俺、アリーが好きなんだ)

気づきたくなかったのに、もう誤魔化せなかった。
自覚した瞬間、胸の奥に焼きつくような熱が広がっていった。

(だから次は、絶対に俺が一番近くにいる)

静かな決意を胸に、俺はアリーの背中を見つめ続けた。
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