BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい

文字の大きさ
36 / 46

放課後の邂逅

しおりを挟む
キャンサーは空いていた席に静かに腰を下ろすと、すぐにノートを開きペンを走らせた。
黒板の文字を追う視線は一分の迷いもなく、整った字が几帳面に並んでいく。
その几帳面さに、近くの生徒が思わず小声で「真面目そうだな」と囁いたのが耳に入った。

(……やっぱり“インテリ枠”やな。見た目どおりきっちりしとる)

だが――ときおり、その冷静さにほころびが生まれる。
視線がふと横に流れ、シリウスの方で止まるのだ。
眼鏡の奥の瞳がわずかに揺れ、ペン先が一瞬止まる。
次の瞬間にはまた表情を引き締め、何事もなかったようにノートを埋めていく。

(……出た。これや。筋書き通りの“一目惚れ”反応。
 けど教室全員の前で堂々とやられると、想像以上に目立つな……)

授業は淡々と過ぎていった。



昼休み。ざわつきが落ち着いたころ、ノートを整理していた俺の机の横に、遠慮がちに影が差した。

「……あの、シェスタークさん」

顔を上げると、キャンサーが立っていた。
真面目な眼差しはいつも通りなのに、その奥にはためらいが覗く。

「昨日は……その、本当に助かりました。ありがとうございました」

「気にすんなって。たまたま居合わせただけやし」

そう笑い返すと、キャンサーはしばし唇を結び――やがて意を決したように言った。

「……あの、もしよければ今日の放課後、近くのカフェで少しお話しできませんか?
 シリウス君のこと……もっと知りたくて」

「えっ、俺と?」

思わず聞き返す。まさかこんなに早く恋愛相談役を振られるとは思わなかった。
けれど、その真剣さに押されて、俺はすぐに頷いていた。

「ええよ。時間も空いてるし。俺でよければ」

キャンサーはほっとしたように表情を緩め、小さく頭を下げた。



放課後。
いつもならラスやシリウス、最近はスコーピオも一緒に帰るのだが、その誘いを断り、キャンサーと並んで夕暮れの商店街を歩く。
赤く染まる並木道を抜け、静かなカフェに腰を下ろした。

シリウスの話を中心に、会話は思った以上に弾んだ。

「……シリウス君、入学してすぐなのに、もうみんなから信頼されてるんですね」
「まぁ、あいつは素直でまっすぐやからな。惹かれるのは見た目だけやなくて、放っとかれへん空気があるんや」

俺が笑いながら答えると、キャンサーは真剣に耳を傾け、時折頷きながらノートを開いてメモまで取っていた。
几帳面で、どこか研究者みたいな姿勢。

けれど話題が逸れると、思いがけず柔らかな表情を見せる。

「……僕、暗いってよく言われるんです。だから、あまり話しかけられることもなくて」

「え? そんなことないやろ」
思わず首を振った。垢抜けた後の姿を知っている俺からすれば、むしろ驚くほどのポテンシャルや。

「キャンサーくん、絶対かっこいい顔してると思うで。前髪とか、ちょっと切ったらもっと映えるんちゃう?」

「か、かっこ……っ」

真っ赤になった顔。
眼鏡の奥の瞳が大きく見開かれ、次の瞬間には俯いてしまう。

「……そんなこと、言われたの……初めてです」

その声は小さく震えていて、普段の冷静さとはまるで別人のようだった。

(……あぁ、褒められ慣れてへんのやな。可愛げあるやん)

自然と笑みがこぼれる。心からの笑顔に、キャンサーはさらに顔を赤くしたまま、それでも少しだけ微笑み返した。



カフェを出ると、夜風が心地よく頬を撫でた。
別れ際、キャンサーは立ち止まり、深く一礼した。

「……今日は、本当に楽しかったです」

「こっちこそ。あ、そうや」

拳を軽く握って、彼の肩をぽんと叩く。

「これから大変かもしれんけど――頑張れよ! 応援してるから」

「……っ」

驚いたように目を瞬かせ、次の瞬間には胸の奥に灯がともるような顔をして、そっと微笑んだ。

(……優しい人だ。友達のことを本気で思って、背中を押してくれる。
 でも――この暖かさは、シリウス君に向けて抱いた気持ちとどこか違う……)

心の奥で芽生えた感情を、彼自身もまだ言葉にできなかった。

ただ、その夜。
ベッドに横たわっても、アリエスの笑顔が瞼から離れることはなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

魔王様の執着から逃れたいっ!

クズねこ
BL
「孤独をわかってくれるのは君だけなんだ、死ぬまで一緒にいようね」 魔王様に執着されて俺の普通の生活は終わりを迎えた。いつからこの魔王城にいるかわからない。ずっと外に出させてもらってないんだよね 俺がいれば魔王様は安心して楽しく生活が送れる。俺さえ我慢すれば大丈夫なんだ‥‥‥でも、自由になりたい 魔王様に縛られず、また自由な生活がしたい。 他の人と話すだけでその人は罰を与えられ、生活も制限される。そんな生活は苦しい。心が壊れそう だから、心が壊れてしまう前に逃げ出さなくてはいけないの でも、最近思うんだよね。魔王様のことあんまり考えてなかったって。 あの頃は、魔王様から逃げ出すことしか考えてなかった。 ずっと、執着されて辛かったのは本当だけど、もう少し魔王様のこと考えられたんじゃないかな? はじめは、魔王様の愛を受け入れられず苦しんでいたユキ。自由を求めてある人の家にお世話になります。 魔王様と離れて自由を手に入れたユキは魔王様のことを思い返し、もう少し魔王様の気持ちをわかってあげればよかったかな? と言う気持ちが湧いてきます。 次に魔王様に会った時、ユキは魔王様の愛を受け入れるのでしょうか?  それとも受け入れずに他の人のところへ行ってしまうのでしょうか? 三角関係が繰り広げる執着BLストーリーをぜひ、お楽しみください。 誰と一緒になって欲しい など思ってくださりましたら、感想で待ってますっ 『面白い』『好きっ』と、思われましたら、♡やお気に入り登録をしていただけると嬉しいですっ 第一章 魔王様の執着から逃れたいっ 連載中❗️ 第二章 自由を求めてお世話になりますっ 第三章 魔王様に見つかりますっ 第四章 ハッピーエンドを目指しますっ 週一更新! 日曜日に更新しますっ!

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

処理中です...