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変化への布石
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編入二日目の昼休み。
チャイムが鳴ると同時に、教室はざわめきで満ちていった。
弁当を広げる者、食堂へ駆け出す者、机を寄せ合っておしゃべりを始める者――活気に溢れた空気の中で、ただひとり、席に残っている生徒がいた。
キャンサー・ユラーク。
彼はノートを几帳面に閉じ、それを机の端へ揃える。
けれど弁当を取り出す気配もなく、所在なさげに視線を宙へ漂わせていた。
周囲の輪には加わらず、ただ静かに座り続けるその姿は、かえって孤独を際立たせているように見えた。
(……やっぱりな。昨日ちょっと話した時からして、友達おらんタイプや。このままやと、ほんまに“ぼっち枠”にされてまう)
胸の奥がざわつく。気づけば俺は弁当を片手に、自然と彼の机へと歩み寄っていた。
「なぁ、キャンサー」
呼びかけに、彼は驚いたように顔を上げた。
眼鏡の奥の瞳がわずかに揺れ、息を呑む音がかすかに響く。
「え……はい」
「よかったら一緒に食べよや。俺の友達もおるし、紹介したるわ」
思いがけない言葉に、キャンサーはきょとんとした表情を浮かべる。
「僕が……ですか?」
「そうや。せっかく編入してきたんやし、このまま一人は寂しいやろ? 気楽に来ぃ」
短い沈黙のあと、彼は小さく息を吐いて、かすかに頷いた。
「……お願いします」
その声に安堵が広がり、俺は自然と笑みを浮かべた。
⸻
食堂はいつも通りの賑わいだった。
学生たちがトレーを手に行き交い、ざわめきと食器のぶつかる音が響き渡る。
「アリー、こっち!」
手を振ったのはシリウスだ。
その隣では、スコーピオが腕を組んで座っている。相変わらず不機嫌そうな顔。
俺はキャンサーの背を軽く押して席へと近づき、笑顔で言った。
「みんな、紹介するわ。キャンサー・ユラーク。昨日から俺らのクラスに編入してきたんや。まだ友達少ないみたいやし、仲良うしてやってくれ」
「……よろしくお願いします」
キャンサーは眼鏡を押し上げ、少し緊張気味に頭を下げた。
シリウスがにこやかに微笑む。
「もちろん。一緒に食べよう。ここ、空いてるよ」
その一言に、キャンサーの耳がほんのり赤く染まる。
「……ありがとうございます」
一方でスコーピオは「ふん」と鼻を鳴らすだけだった。
視線だけは鋭くキャンサーを値踏みしている。
その無言の圧に、キャンサーは一瞬ひるんだように肩をすくめたが――それでも席に腰を下ろした。
(……よし、とりあえず一歩は踏み出せたな)
⸻
そこへ。
「お? 見ない顔だね……新入りの子?」
軽快な声とともに現れたのはラスだった。
トレーを片手に笑みを浮かべ、当然のように隣の席に腰を下ろす。
「自己紹介ん時から思ってたけどさ……前髪、重すぎじゃね?」
「……えっ」
突然の指摘に、キャンサーが固まる。
「もったいないって。顔立ち整ってんのに、隠してどうすんだよ。俺だったら明日にでもすぐ切るね」
その言葉に、キャンサーの耳まで真っ赤になった。
(……出た、トーラスの“モテアドバイス”。第一声からこれかい)
思わず俺も苦笑し、昨日のカフェで声をかけたときのように軽く相槌を打つ。
その一方で、キャンサーはうつむき、眼鏡を押し上げた。
指先がわずかに震えているのが、かえって彼の動揺を物語っていた。
そこでシリウスが柔らかい声を重ねた。
「僕もそう思うよ。キャンサー君、きっと似合うと思う」
一瞬、時間が止まったようだった。
シリウスの真っ直ぐな笑顔を受けたキャンサーは、目を大きく見開き、そして――顔を真っ赤にしながら、かすかに微笑んで頷いた。
「……考えてみます」
⸻
(……うん。キャンサー、ちゃんと輪に入り始めてる。
しかもフラグも順調に立ってるやん。ええ感じや)
俺は心の中でそう呟きながら、弁当の蓋を静かに開いた。
チャイムが鳴ると同時に、教室はざわめきで満ちていった。
弁当を広げる者、食堂へ駆け出す者、机を寄せ合っておしゃべりを始める者――活気に溢れた空気の中で、ただひとり、席に残っている生徒がいた。
キャンサー・ユラーク。
彼はノートを几帳面に閉じ、それを机の端へ揃える。
けれど弁当を取り出す気配もなく、所在なさげに視線を宙へ漂わせていた。
周囲の輪には加わらず、ただ静かに座り続けるその姿は、かえって孤独を際立たせているように見えた。
(……やっぱりな。昨日ちょっと話した時からして、友達おらんタイプや。このままやと、ほんまに“ぼっち枠”にされてまう)
胸の奥がざわつく。気づけば俺は弁当を片手に、自然と彼の机へと歩み寄っていた。
「なぁ、キャンサー」
呼びかけに、彼は驚いたように顔を上げた。
眼鏡の奥の瞳がわずかに揺れ、息を呑む音がかすかに響く。
「え……はい」
「よかったら一緒に食べよや。俺の友達もおるし、紹介したるわ」
思いがけない言葉に、キャンサーはきょとんとした表情を浮かべる。
「僕が……ですか?」
「そうや。せっかく編入してきたんやし、このまま一人は寂しいやろ? 気楽に来ぃ」
短い沈黙のあと、彼は小さく息を吐いて、かすかに頷いた。
「……お願いします」
その声に安堵が広がり、俺は自然と笑みを浮かべた。
⸻
食堂はいつも通りの賑わいだった。
学生たちがトレーを手に行き交い、ざわめきと食器のぶつかる音が響き渡る。
「アリー、こっち!」
手を振ったのはシリウスだ。
その隣では、スコーピオが腕を組んで座っている。相変わらず不機嫌そうな顔。
俺はキャンサーの背を軽く押して席へと近づき、笑顔で言った。
「みんな、紹介するわ。キャンサー・ユラーク。昨日から俺らのクラスに編入してきたんや。まだ友達少ないみたいやし、仲良うしてやってくれ」
「……よろしくお願いします」
キャンサーは眼鏡を押し上げ、少し緊張気味に頭を下げた。
シリウスがにこやかに微笑む。
「もちろん。一緒に食べよう。ここ、空いてるよ」
その一言に、キャンサーの耳がほんのり赤く染まる。
「……ありがとうございます」
一方でスコーピオは「ふん」と鼻を鳴らすだけだった。
視線だけは鋭くキャンサーを値踏みしている。
その無言の圧に、キャンサーは一瞬ひるんだように肩をすくめたが――それでも席に腰を下ろした。
(……よし、とりあえず一歩は踏み出せたな)
⸻
そこへ。
「お? 見ない顔だね……新入りの子?」
軽快な声とともに現れたのはラスだった。
トレーを片手に笑みを浮かべ、当然のように隣の席に腰を下ろす。
「自己紹介ん時から思ってたけどさ……前髪、重すぎじゃね?」
「……えっ」
突然の指摘に、キャンサーが固まる。
「もったいないって。顔立ち整ってんのに、隠してどうすんだよ。俺だったら明日にでもすぐ切るね」
その言葉に、キャンサーの耳まで真っ赤になった。
(……出た、トーラスの“モテアドバイス”。第一声からこれかい)
思わず俺も苦笑し、昨日のカフェで声をかけたときのように軽く相槌を打つ。
その一方で、キャンサーはうつむき、眼鏡を押し上げた。
指先がわずかに震えているのが、かえって彼の動揺を物語っていた。
そこでシリウスが柔らかい声を重ねた。
「僕もそう思うよ。キャンサー君、きっと似合うと思う」
一瞬、時間が止まったようだった。
シリウスの真っ直ぐな笑顔を受けたキャンサーは、目を大きく見開き、そして――顔を真っ赤にしながら、かすかに微笑んで頷いた。
「……考えてみます」
⸻
(……うん。キャンサー、ちゃんと輪に入り始めてる。
しかもフラグも順調に立ってるやん。ええ感じや)
俺は心の中でそう呟きながら、弁当の蓋を静かに開いた。
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