BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい

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放課後の邂逅

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キャンサーは空いていた席に静かに腰を下ろすと、すぐにノートを開きペンを走らせた。
黒板の文字を追う視線は一分の迷いもなく、整った字が几帳面に並んでいく。
その几帳面さに、近くの生徒が思わず小声で「真面目そうだな」と囁いたのが耳に入った。

(……やっぱり“インテリ枠”やな。見た目どおりきっちりしとる)

だが――ときおり、その冷静さにほころびが生まれる。
視線がふと横に流れ、シリウスの方で止まるのだ。
眼鏡の奥の瞳がわずかに揺れ、ペン先が一瞬止まる。
次の瞬間にはまた表情を引き締め、何事もなかったようにノートを埋めていく。

(……出た。これや。筋書き通りの“一目惚れ”反応。
 けど教室全員の前で堂々とやられると、想像以上に目立つな……)

授業は淡々と過ぎていった。



昼休み。ざわつきが落ち着いたころ、ノートを整理していた俺の机の横に、遠慮がちに影が差した。

「……あの、シェスタークさん」

顔を上げると、キャンサーが立っていた。
真面目な眼差しはいつも通りなのに、その奥にはためらいが覗く。

「昨日は……その、本当に助かりました。ありがとうございました」

「気にすんなって。たまたま居合わせただけやし」

そう笑い返すと、キャンサーはしばし唇を結び――やがて意を決したように言った。

「……あの、もしよければ今日の放課後、近くのカフェで少しお話しできませんか?
 シリウス君のこと……もっと知りたくて」

「えっ、俺と?」

思わず聞き返す。まさかこんなに早く恋愛相談役を振られるとは思わなかった。
けれど、その真剣さに押されて、俺はすぐに頷いていた。

「ええよ。時間も空いてるし。俺でよければ」

キャンサーはほっとしたように表情を緩め、小さく頭を下げた。



放課後。
いつもならラスやシリウス、最近はスコーピオも一緒に帰るのだが、その誘いを断り、キャンサーと並んで夕暮れの商店街を歩く。
赤く染まる並木道を抜け、静かなカフェに腰を下ろした。

シリウスの話を中心に、会話は思った以上に弾んだ。

「……シリウス君、入学してすぐなのに、もうみんなから信頼されてるんですね」
「まぁ、あいつは素直でまっすぐやからな。惹かれるのは見た目だけやなくて、放っとかれへん空気があるんや」

俺が笑いながら答えると、キャンサーは真剣に耳を傾け、時折頷きながらノートを開いてメモまで取っていた。
几帳面で、どこか研究者みたいな姿勢。

けれど話題が逸れると、思いがけず柔らかな表情を見せる。

「……僕、暗いってよく言われるんです。だから、あまり話しかけられることもなくて」

「え? そんなことないやろ」
思わず首を振った。垢抜けた後の姿を知っている俺からすれば、むしろ驚くほどのポテンシャルや。

「キャンサーくん、絶対かっこいい顔してると思うで。前髪とか、ちょっと切ったらもっと映えるんちゃう?」

「か、かっこ……っ」

真っ赤になった顔。
眼鏡の奥の瞳が大きく見開かれ、次の瞬間には俯いてしまう。

「……そんなこと、言われたの……初めてです」

その声は小さく震えていて、普段の冷静さとはまるで別人のようだった。

(……あぁ、褒められ慣れてへんのやな。可愛げあるやん)

自然と笑みがこぼれる。心からの笑顔に、キャンサーはさらに顔を赤くしたまま、それでも少しだけ微笑み返した。



カフェを出ると、夜風が心地よく頬を撫でた。
別れ際、キャンサーは立ち止まり、深く一礼した。

「……今日は、本当に楽しかったです」

「こっちこそ。あ、そうや」

拳を軽く握って、彼の肩をぽんと叩く。

「これから大変かもしれんけど――頑張れよ! 応援してるから」

「……っ」

驚いたように目を瞬かせ、次の瞬間には胸の奥に灯がともるような顔をして、そっと微笑んだ。

(……優しい人だ。友達のことを本気で思って、背中を押してくれる。
 でも――この暖かさは、シリウス君に向けて抱いた気持ちとどこか違う……)

心の奥で芽生えた感情を、彼自身もまだ言葉にできなかった。

ただ、その夜。
ベッドに横たわっても、アリエスの笑顔が瞼から離れることはなかった。
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