2 / 39
1章
ルシアの生い立ち 両親の死
しおりを挟むルシアは、国王が番にして奥の宮に囲うオメガとの間に生まれた。オメガの番は、正式な側室とは認められず密やかに囲われる。ルシアの母もそのように囲われる存在だった。
国王とルシアの母は、ただの番ではなく、運命の番だった。アルファとオメガの運命の存在は稀なことで伝説とさえ言われた。奇跡的に出会い番った国王とルシアの母。当然その愛も深く大きかった。
深く愛し合う運命の番から生まれたルシア、当然のごとく両親の愛を一身に受けて成長した。
オメガの番から生まれてきた子供は、アルファの場合は非嫡出子の扱いではあるが王子王女として認められた。しかしオメガは認められない。
オメガの子は、たとえ王の子であろうと悲惨な運命だった。いや、むしろ王の子であるので、他国へ貢物にされたり、家臣に下賜品のように下げ渡された。
その後の運命は、相手次第。まれに大切にされることもあったが、奴隷のような状態になることも周知の事実だった。
ルシアがオメガと判明した時、国王はこの哀れな子の将来を憂いた。国王はルシアの母を、運命の番として心から愛した。
愛する番から生まれたルシアも愛しい。母に似て美しく、優しいルシアを国王は心から可愛がった。そのルシアを下賜品のような扱いで他へやることなど考えられなかった。
しかし、存在が明らかになればそれは避けられない。国王と言えど長年の慣習に抗うのは難しい。
故にルシアは、密やかにこの奥の宮で、母と共に暮らしてきた。乳母のセリカ他、少しの使用人、そして時折訪れる父王、それがルシアの世界の全てだった。
外の世界を知らないルシアは、不満に感じることも無く、奥の宮で穏やかに暮らした。オメガ故、華奢で儚げな風情ではあるが、特段問題も無く美しく健やかに成長した。
国王もそしてルシアの母も、美しく成長するルシアの将来を思った。
ルシアは、未だ発情期を経験していないが、十五歳という年齢からするとそろそろかもしれない。
番のいないオメガの発情期は辛い。抑制剤もあるが、やはりアルファが抑えてやるのが一番良い。
ルシアの番をどうするか? 国王そして母も愛しいルシアを手放したくはなかった。手放して国王の眼が届かなければ、どう扱われるか分かったものではない。この奥の宮に通って、ルシアの発情を抑えてくれるアルファが理想だった。
国王は、信頼できるアルファである家臣の誰かにと考え、あれこれと人選を考えてはいたが、まだ先のこと急ぐことでもないとも思っていた。
国王の庇護は絶大で、不安はなかった。壮年の国王の時代は長く続くと国王自身も、そして周りの誰もが考えていた。
そのような中での、国王の突然の崩御。奥の宮に知らせが届いた時の皆の驚愕は相当なものだった。
ことに、ルシアの母の嘆きは大きかった。運命の番の死は、半身をもがれるに等しい。母としてルシアを思いやる余裕とてなく、運命の番の後を追った。ルシアは、一人取り残された。
奥の宮という狭い世界ではあったが、優しい両親の庇護のもと幸せに暮らしてルシアは、瞬く間に両親の庇護を失った。
116
あなたにおすすめの小説
ふた想い
悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。
だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。
叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。
誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。
*基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。
(表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
【完結】聖クロノア学院恋愛譚 ―君のすべてを知った日から―
るみ乃。
BL
聖クロノア学院で交差する、記憶と感情。
「君の中の、まだ知らない“俺”に、触れたかった」
記憶を失ったベータの少年・ユリス。
彼の前に現れたのは、王族の血を引くアルファ・レオン。
封印された記憶、拭いきれない傷、すれ違う言葉。
謎に満ちた聖クロノア学院のなかで、ふたりの想いが静かに揺れ動く。
触れたいのに、触れられない。
心を開けば、過去が崩れる。
それでも彼らは、確かめずにはいられなかった。
――そして、学院の奥底に眠る真実が、静かに目を覚ます。
過去と向き合い、他者と繋がることでしか見えない未来がある。
許しと、選びなおしと、ささやかな祈り。
孤独だった少年たちは、いつしか“願い”を知っていく。
これは、ふたりだけの愛の物語であると同時に、
誰かの傷が誰かの救いに変わっていく
誰が「運命」に抗い、
誰が「未来」を選ぶのか。
優しさと痛みの交差点で紡がれる
刺されて始まる恋もある
神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
初恋ミントラヴァーズ
卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。
飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。
ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。
眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。
知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。
藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。
でも想いは勝手に加速して……。
彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。
果たしてふたりは、恋人になれるのか――?
/金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/
じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。
集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。
◆毎日2回更新。11時と20時◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる