運命の息吹

梅川 ノン

文字の大きさ
6 / 39
3章

ルシアの発情

しおりを挟む
 ルシアの初めての発情は、一週間で落ち着いた。その間ルシアが辛いを思いをしたのは勿論だが宮に仕える者たちも疲弊した。ことに、常にルシアの側にいて見守ったセリカの憔悴は激しかった。
 セリカは言葉には出さないが、国王はなぜ一度も来ず、落ち着いた後の伺候を命じられたのか? と思っていた。
 三人はやつれを隠せないさまで、王宮に赴いた。
「ご苦労だったな。ルシアの様子はどうじゃ?」
 国王の下問に、代表して侍医が、発情中はかなりお辛そうだったが、今は落ち着き穏やかにしていると答えた。
「そうか、さぞ辛かったであろう。余も傍にいてやりたいのは山々だが、オメガの発情はアルファのヒートを誘発するからの」
 その言葉で、セリカは自分の思い違いを知った。オメガの発情の芳香はベータでも酔うようなものがある。ましてアルファは……国王に対して責めるような気持ちを持ったことを悔いた。
「次の発情は三ヶ月後じゃな」
「通常オメガの発情は三ヶ月に一度ですので、ルシア様もおそらくはそうかと」
「その時は余が抑えてやるから薬は不要じゃ」
 それはどういうことかと三人は疑問に思う。国王は皆の疑問は当然のことだろうと三人を見渡しながら続ける。
「次の発情でルシアを余の番にする。そういう事じゃ」
 三人は国王が、ルシアの発情がきたら番にすると考えていた事を知った。国王はルシアの成長を待っていたのだ。国王が、単に父王の代わりにルシアの庇護をしていただけでなく、オメガとしてのルシアを思っていたことを知る。
 三人の安堵は大きかった。ルシアにとって願っても無いことと思うからだ。
 同時に、ルシアの放つ芳香の問題も解決する。奥の宮が王宮の奥深くに位置するといえ、アルファが匂いに魅せられて入ってくる可能性もあるだろ。しかし、番のいるオメガの芳香は番しか感じられないから安心できる。
 その後三人は、国王からルシアを番にするにあたっての様々な事を命じられた。その中には、ルシアには決してこの件は明かさない事が含まれていた。それは、国王が直接告げるからであった。

「セリカどこに行ってたの?」
「お……買い物に行っておりました」
 ルシアが、王宮から戻ったセリカに質すと、セリカは少々慌て気味に言う。
「そう、何を買ってきたの?」
「色々ですが……そうそうルシア様のお好きなお菓子がありますよ」
 セリカが買ってきたわけではない菓子でごまかすのに、元来鷹揚なルシアは、それ以上疑問に思うことも無く憂い顔で続けた。
「兄上様、最近いらっしゃらない……お忙しいのかなぁ……」
「そうですね、陛下は大変お忙しいようですよ。さあさあルシア様、お菓子もあることですからお茶にいたしましょう」

 まさに国王フェリックスは、大忙しだった。国王の番は、側室とは違い密やかな存在ではあったが、王妃、そして重臣には明かさねばならない。先ずはそれが関門だった。ルシアの身分をどうするか、前国王の子供と明かすのか?。
 ルシアの素性を隠すことはないと、フェリックスは考える。確かに、亡き父王はルシアを隠したが、それはルシアを手元に留めるためのもの。
 しかし今は、ルシアを王である己の番にするのだ。どこの誰とも分からない素性怪しき者より、れっきとした前国王の子供の方が良い。それが、フェリックスの考えだった。
 フェリックスは、先だって王妃に全てを明かす。王妃は、前国王にオメガの番がいることは知っていたが、まさか子供がいたとはと驚く。しかもその子供、言わば異母弟を番にすると言う国王にはそれ以上に驚く。
 王妃は驚いたものの、承諾することにする。己に話したと言うことは、もう決めたということだ。それを覆すことは王の日頃の意思の強さから無理だと思うからだった。
 それに、王には未だ側室の一人もいない。オメガの番を持つ事くらい、快く承諾して王妃としての度量の大きさを示したくもあった。
 重臣達より、真っ先に自分へ話を通したことも、王妃の自分を蔑ろにしていない証左とも思え嬉しかった。
 フェリックスの、王妃のプライドの高さを知っているが故の作戦勝ちと言えた。
 王妃の承諾を得れば、あとは思いの外難しくなかった。ありがたいことに王妃も口添えしてくれたこともあり、重臣達も、皆一様に驚いたものの納得、承諾した。
 即位して一年、王としてのフェリックスの努力の賜物ともいえた。
 フェリックスの国王としての地位は盤石に固まっていた故に、少々の無理は通る、そういう事だった。
 かくして、ルシアは国王フェリックスの番になることが正式に決まった。その時点でルシアの次の発情まで、もう三ヶ月も無い。慌ただしく周囲が動き始めるが、当のルシアは未だ何も知らされていなかった。
 ルシアは、発情が来てから一度も来ないフェリックス、兄王を待ち望んでいた。発情以前の、幼子が一心に慕う思いに、体の奥に熱いものが加わっていた。
 それは、恋心なのか、オメガのアルファを求める本能のものなのか、むろんルシア自身も分からない。
 ルシアは、唯々兄王であるフェリックスを待った。
 ルシアのその様子を、セリカは憐れんだ。事実を言って安心させてやりたいが、国王の命令に逆らうことはできない。
「ルシア様、心配いりませんよ。陛下は、今大変お忙しいから、奥の宮までおいでになられませんが、必ずや来てくださいます。ルシア様のこと忘れた訳ではございませんよ」
 そう言って、慰めるのが精一杯だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~

なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。 傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。 家のため、領民のため、そして―― 少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。 だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。 「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」 その冷たい声が、彼の世界を壊した。 すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。 そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。 人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。 アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。 失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。 今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

カミサンオメガは番運がなさすぎる

ミミナガ
BL
 医療の進歩により番関係を解消できるようになってから番解消回数により「噛み1(カミイチ)」「噛み2(カミニ)」と言われるようになった。  「噛み3(カミサン)」の経歴を持つオメガの満(みつる)は人生に疲れていた。  ある日、ふらりと迷い込んだ古びた神社で不思議な体験をすることとなった。 ※オメガバースの基本設定の説明は特に入れていません。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...