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3章
ルシアの発情
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ルシアの初めての発情は、一週間で落ち着いた。その間ルシアが辛いを思いをしたのは勿論だが宮に仕える者たちも疲弊した。ことに、常にルシアの側にいて見守ったセリカの憔悴は激しかった。
セリカは言葉には出さないが、国王はなぜ一度も来ず、落ち着いた後の伺候を命じられたのか? と思っていた。
三人はやつれを隠せないさまで、王宮に赴いた。
「ご苦労だったな。ルシアの様子はどうじゃ?」
国王の下問に、代表して侍医が、発情中はかなりお辛そうだったが、今は落ち着き穏やかにしていると答えた。
「そうか、さぞ辛かったであろう。余も傍にいてやりたいのは山々だが、オメガの発情はアルファのヒートを誘発するからの」
その言葉で、セリカは自分の思い違いを知った。オメガの発情の芳香はベータでも酔うようなものがある。ましてアルファは……国王に対して責めるような気持ちを持ったことを悔いた。
「次の発情は三ヶ月後じゃな」
「通常オメガの発情は三ヶ月に一度ですので、ルシア様もおそらくはそうかと」
「その時は余が抑えてやるから薬は不要じゃ」
それはどういうことかと三人は疑問に思う。国王は皆の疑問は当然のことだろうと三人を見渡しながら続ける。
「次の発情でルシアを余の番にする。そういう事じゃ」
三人は国王が、ルシアの発情がきたら番にすると考えていた事を知った。国王はルシアの成長を待っていたのだ。国王が、単に父王の代わりにルシアの庇護をしていただけでなく、オメガとしてのルシアを思っていたことを知る。
三人の安堵は大きかった。ルシアにとって願っても無いことと思うからだ。
同時に、ルシアの放つ芳香の問題も解決する。奥の宮が王宮の奥深くに位置するといえ、アルファが匂いに魅せられて入ってくる可能性もあるだろ。しかし、番のいるオメガの芳香は番しか感じられないから安心できる。
その後三人は、国王からルシアを番にするにあたっての様々な事を命じられた。その中には、ルシアには決してこの件は明かさない事が含まれていた。それは、国王が直接告げるからであった。
「セリカどこに行ってたの?」
「お……買い物に行っておりました」
ルシアが、王宮から戻ったセリカに質すと、セリカは少々慌て気味に言う。
「そう、何を買ってきたの?」
「色々ですが……そうそうルシア様のお好きなお菓子がありますよ」
セリカが買ってきたわけではない菓子でごまかすのに、元来鷹揚なルシアは、それ以上疑問に思うことも無く憂い顔で続けた。
「兄上様、最近いらっしゃらない……お忙しいのかなぁ……」
「そうですね、陛下は大変お忙しいようですよ。さあさあルシア様、お菓子もあることですからお茶にいたしましょう」
まさに国王フェリックスは、大忙しだった。国王の番は、側室とは違い密やかな存在ではあったが、王妃、そして重臣には明かさねばならない。先ずはそれが関門だった。ルシアの身分をどうするか、前国王の子供と明かすのか?。
ルシアの素性を隠すことはないと、フェリックスは考える。確かに、亡き父王はルシアを隠したが、それはルシアを手元に留めるためのもの。
しかし今は、ルシアを王である己の番にするのだ。どこの誰とも分からない素性怪しき者より、れっきとした前国王の子供の方が良い。それが、フェリックスの考えだった。
フェリックスは、先だって王妃に全てを明かす。王妃は、前国王にオメガの番がいることは知っていたが、まさか子供がいたとはと驚く。しかもその子供、言わば異母弟を番にすると言う国王にはそれ以上に驚く。
王妃は驚いたものの、承諾することにする。己に話したと言うことは、もう決めたということだ。それを覆すことは王の日頃の意思の強さから無理だと思うからだった。
それに、王には未だ側室の一人もいない。オメガの番を持つ事くらい、快く承諾して王妃としての度量の大きさを示したくもあった。
重臣達より、真っ先に自分へ話を通したことも、王妃の自分を蔑ろにしていない証左とも思え嬉しかった。
フェリックスの、王妃のプライドの高さを知っているが故の作戦勝ちと言えた。
王妃の承諾を得れば、あとは思いの外難しくなかった。ありがたいことに王妃も口添えしてくれたこともあり、重臣達も、皆一様に驚いたものの納得、承諾した。
即位して一年、王としてのフェリックスの努力の賜物ともいえた。
フェリックスの国王としての地位は盤石に固まっていた故に、少々の無理は通る、そういう事だった。
かくして、ルシアは国王フェリックスの番になることが正式に決まった。その時点でルシアの次の発情まで、もう三ヶ月も無い。慌ただしく周囲が動き始めるが、当のルシアは未だ何も知らされていなかった。
ルシアは、発情が来てから一度も来ないフェリックス、兄王を待ち望んでいた。発情以前の、幼子が一心に慕う思いに、体の奥に熱いものが加わっていた。
それは、恋心なのか、オメガのアルファを求める本能のものなのか、むろんルシア自身も分からない。
ルシアは、唯々兄王であるフェリックスを待った。
ルシアのその様子を、セリカは憐れんだ。事実を言って安心させてやりたいが、国王の命令に逆らうことはできない。
「ルシア様、心配いりませんよ。陛下は、今大変お忙しいから、奥の宮までおいでになられませんが、必ずや来てくださいます。ルシア様のこと忘れた訳ではございませんよ」
そう言って、慰めるのが精一杯だった。
セリカは言葉には出さないが、国王はなぜ一度も来ず、落ち着いた後の伺候を命じられたのか? と思っていた。
三人はやつれを隠せないさまで、王宮に赴いた。
「ご苦労だったな。ルシアの様子はどうじゃ?」
国王の下問に、代表して侍医が、発情中はかなりお辛そうだったが、今は落ち着き穏やかにしていると答えた。
「そうか、さぞ辛かったであろう。余も傍にいてやりたいのは山々だが、オメガの発情はアルファのヒートを誘発するからの」
その言葉で、セリカは自分の思い違いを知った。オメガの発情の芳香はベータでも酔うようなものがある。ましてアルファは……国王に対して責めるような気持ちを持ったことを悔いた。
「次の発情は三ヶ月後じゃな」
「通常オメガの発情は三ヶ月に一度ですので、ルシア様もおそらくはそうかと」
「その時は余が抑えてやるから薬は不要じゃ」
それはどういうことかと三人は疑問に思う。国王は皆の疑問は当然のことだろうと三人を見渡しながら続ける。
「次の発情でルシアを余の番にする。そういう事じゃ」
三人は国王が、ルシアの発情がきたら番にすると考えていた事を知った。国王はルシアの成長を待っていたのだ。国王が、単に父王の代わりにルシアの庇護をしていただけでなく、オメガとしてのルシアを思っていたことを知る。
三人の安堵は大きかった。ルシアにとって願っても無いことと思うからだ。
同時に、ルシアの放つ芳香の問題も解決する。奥の宮が王宮の奥深くに位置するといえ、アルファが匂いに魅せられて入ってくる可能性もあるだろ。しかし、番のいるオメガの芳香は番しか感じられないから安心できる。
その後三人は、国王からルシアを番にするにあたっての様々な事を命じられた。その中には、ルシアには決してこの件は明かさない事が含まれていた。それは、国王が直接告げるからであった。
「セリカどこに行ってたの?」
「お……買い物に行っておりました」
ルシアが、王宮から戻ったセリカに質すと、セリカは少々慌て気味に言う。
「そう、何を買ってきたの?」
「色々ですが……そうそうルシア様のお好きなお菓子がありますよ」
セリカが買ってきたわけではない菓子でごまかすのに、元来鷹揚なルシアは、それ以上疑問に思うことも無く憂い顔で続けた。
「兄上様、最近いらっしゃらない……お忙しいのかなぁ……」
「そうですね、陛下は大変お忙しいようですよ。さあさあルシア様、お菓子もあることですからお茶にいたしましょう」
まさに国王フェリックスは、大忙しだった。国王の番は、側室とは違い密やかな存在ではあったが、王妃、そして重臣には明かさねばならない。先ずはそれが関門だった。ルシアの身分をどうするか、前国王の子供と明かすのか?。
ルシアの素性を隠すことはないと、フェリックスは考える。確かに、亡き父王はルシアを隠したが、それはルシアを手元に留めるためのもの。
しかし今は、ルシアを王である己の番にするのだ。どこの誰とも分からない素性怪しき者より、れっきとした前国王の子供の方が良い。それが、フェリックスの考えだった。
フェリックスは、先だって王妃に全てを明かす。王妃は、前国王にオメガの番がいることは知っていたが、まさか子供がいたとはと驚く。しかもその子供、言わば異母弟を番にすると言う国王にはそれ以上に驚く。
王妃は驚いたものの、承諾することにする。己に話したと言うことは、もう決めたということだ。それを覆すことは王の日頃の意思の強さから無理だと思うからだった。
それに、王には未だ側室の一人もいない。オメガの番を持つ事くらい、快く承諾して王妃としての度量の大きさを示したくもあった。
重臣達より、真っ先に自分へ話を通したことも、王妃の自分を蔑ろにしていない証左とも思え嬉しかった。
フェリックスの、王妃のプライドの高さを知っているが故の作戦勝ちと言えた。
王妃の承諾を得れば、あとは思いの外難しくなかった。ありがたいことに王妃も口添えしてくれたこともあり、重臣達も、皆一様に驚いたものの納得、承諾した。
即位して一年、王としてのフェリックスの努力の賜物ともいえた。
フェリックスの国王としての地位は盤石に固まっていた故に、少々の無理は通る、そういう事だった。
かくして、ルシアは国王フェリックスの番になることが正式に決まった。その時点でルシアの次の発情まで、もう三ヶ月も無い。慌ただしく周囲が動き始めるが、当のルシアは未だ何も知らされていなかった。
ルシアは、発情が来てから一度も来ないフェリックス、兄王を待ち望んでいた。発情以前の、幼子が一心に慕う思いに、体の奥に熱いものが加わっていた。
それは、恋心なのか、オメガのアルファを求める本能のものなのか、むろんルシア自身も分からない。
ルシアは、唯々兄王であるフェリックスを待った。
ルシアのその様子を、セリカは憐れんだ。事実を言って安心させてやりたいが、国王の命令に逆らうことはできない。
「ルシア様、心配いりませんよ。陛下は、今大変お忙しいから、奥の宮までおいでになられませんが、必ずや来てくださいます。ルシア様のこと忘れた訳ではございませんよ」
そう言って、慰めるのが精一杯だった。
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