5 / 39
3章
ルシアの発情
しおりを挟む
一年の時が過ぎた。ルシアは匂い立つように美しく成長した。元々の美しさに更に磨きがかかったようだ。その身から発する芳香も隠すことができないようになっていた。
乳母のセリカも、侍医もそれを案じた。ベータでも感じる匂い、ましてやアルファなら……もしどこかのアルファがその匂いに引き付けられたらと……。万が一にも間違いがあってはならないと、神経をとがらせた。
ルシアに最初の発情が訪れた。本人には急なことだが、周りの者たちはそろそろと予想していたことだった。
侍医は、即座に用意していた抑制剤を飲ませた。効き目を見極めながら、慎重に量を調整する。
それをセリカは不安げに見守る。身の内からくる熱で熱いのだろう、額に浮かぶ汗を拭いてやりながら、背を優しく撫でてやる。
ルシアは、熱の籠った自分の体を持て余した。熱く、そして疼くような感覚にも苦しむ。これが発情? オメガだから? お母さまもこんなふうだった? 覚えていなかった。
ルシアが母の発情を覚えていないのは当然だった。番がいるオメガにも発情期はあるが、番のアルファが、抑えることができる。しかし、番のいないオメガの発情は薬で抑制するしかなく、通常それはとても辛いものだった。
それが、番のいないオメガは可哀そうだとされる理由で、オメガが番を求める理由でもあった。
ルシアは、こんな時こそ兄王が傍にいて欲しいと思った。しかし、国王である兄王が、多忙であることは十分理解していた。
「ルシア様、大丈夫ですか? なにかお望みになることはありませんか?」
セリカが、ルシアの頭を撫でながら優しく問う。
「うん、大丈夫……兄上様に来ていただきたいけど、我儘だよね」
「ルシア様は我儘なんてことありませんよ。望んでいるだけですもの。我儘とは、だめだと分かっていることを、覆そうとすることですよ」
それでも、ルシアは兄王に来て欲しいと、自分から願うのは僭越だと思いセリカの言葉に頷くだけだった。
セリカはそんな、健気なルシアが哀れでそして心の底から愛おしいと思った。
そして、ルシアには幸せになって欲しい。オメガの幸せは、やはり番を持つことだろうと、このルシアの状態を見て改めて思う。
亡くなったルシアの母親の発情の状態と明らかに違う。これが番の有る無しなんだと、ベータのセリカは思うのだった。
フェリックスは、王宮でルシアに発情期がきたことを知る。かねてからそれは、そう遠い事ではないと思ってはいた。
実際にその知らせを受けると、まだ幼さを残した少年のルシアが、大人の階段を一段上ったことに感慨深い。なんとなく、父親のような気分にもなる。実際ルシアにとって、己は父王の代わり、つまり父親のようなもの。
そうなると、ルシアをどこの馬の骨にもやれないという気持ちになってくる。フェリックスは、ルシアに対して庇護欲と共に独占欲も強めていた。どこにもやりたくない、ならば己が番うしかなかろうと。
ルシアの発情がきたとの一報の翌日、続報がきた。曰く、薬で抑制しているがかなり辛そうな様子であると。
すぐに奥の宮に行ってやりたかった。しかし、番のいないオメガの発情に当たられたら、アルファの理性は保てない。番う前にルシアを抱くわけにはいかない。
なし崩し的にルシアを己の者にしてはいけない。きちんと手順を踏んで、正式にルシアを国王の番にせねばと思っている。
それは国王としての矜持でもあり、兄としての思いでもあった。
フェリクスは、奥の宮の執事、侍医そして乳母にルシアの発情が落ち着いたら直ちに宮殿に伺候するように命じる。
乳母のセリカも、侍医もそれを案じた。ベータでも感じる匂い、ましてやアルファなら……もしどこかのアルファがその匂いに引き付けられたらと……。万が一にも間違いがあってはならないと、神経をとがらせた。
ルシアに最初の発情が訪れた。本人には急なことだが、周りの者たちはそろそろと予想していたことだった。
侍医は、即座に用意していた抑制剤を飲ませた。効き目を見極めながら、慎重に量を調整する。
それをセリカは不安げに見守る。身の内からくる熱で熱いのだろう、額に浮かぶ汗を拭いてやりながら、背を優しく撫でてやる。
ルシアは、熱の籠った自分の体を持て余した。熱く、そして疼くような感覚にも苦しむ。これが発情? オメガだから? お母さまもこんなふうだった? 覚えていなかった。
ルシアが母の発情を覚えていないのは当然だった。番がいるオメガにも発情期はあるが、番のアルファが、抑えることができる。しかし、番のいないオメガの発情は薬で抑制するしかなく、通常それはとても辛いものだった。
それが、番のいないオメガは可哀そうだとされる理由で、オメガが番を求める理由でもあった。
ルシアは、こんな時こそ兄王が傍にいて欲しいと思った。しかし、国王である兄王が、多忙であることは十分理解していた。
「ルシア様、大丈夫ですか? なにかお望みになることはありませんか?」
セリカが、ルシアの頭を撫でながら優しく問う。
「うん、大丈夫……兄上様に来ていただきたいけど、我儘だよね」
「ルシア様は我儘なんてことありませんよ。望んでいるだけですもの。我儘とは、だめだと分かっていることを、覆そうとすることですよ」
それでも、ルシアは兄王に来て欲しいと、自分から願うのは僭越だと思いセリカの言葉に頷くだけだった。
セリカはそんな、健気なルシアが哀れでそして心の底から愛おしいと思った。
そして、ルシアには幸せになって欲しい。オメガの幸せは、やはり番を持つことだろうと、このルシアの状態を見て改めて思う。
亡くなったルシアの母親の発情の状態と明らかに違う。これが番の有る無しなんだと、ベータのセリカは思うのだった。
フェリックスは、王宮でルシアに発情期がきたことを知る。かねてからそれは、そう遠い事ではないと思ってはいた。
実際にその知らせを受けると、まだ幼さを残した少年のルシアが、大人の階段を一段上ったことに感慨深い。なんとなく、父親のような気分にもなる。実際ルシアにとって、己は父王の代わり、つまり父親のようなもの。
そうなると、ルシアをどこの馬の骨にもやれないという気持ちになってくる。フェリックスは、ルシアに対して庇護欲と共に独占欲も強めていた。どこにもやりたくない、ならば己が番うしかなかろうと。
ルシアの発情がきたとの一報の翌日、続報がきた。曰く、薬で抑制しているがかなり辛そうな様子であると。
すぐに奥の宮に行ってやりたかった。しかし、番のいないオメガの発情に当たられたら、アルファの理性は保てない。番う前にルシアを抱くわけにはいかない。
なし崩し的にルシアを己の者にしてはいけない。きちんと手順を踏んで、正式にルシアを国王の番にせねばと思っている。
それは国王としての矜持でもあり、兄としての思いでもあった。
フェリクスは、奥の宮の執事、侍医そして乳母にルシアの発情が落ち着いたら直ちに宮殿に伺候するように命じる。
105
あなたにおすすめの小説
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
ふた想い
悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。
だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。
叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。
誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。
*基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。
(表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる