運命の息吹

梅川 ノン

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7章

国王フェリックス ルシアを隠す

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「ルシアを離宮にか……」
 国王フェリックスは、側近達の提案に思案する。
「はい、アレクシー様をルシア様から完全に引き離す必要があると。距離と時間が解決するのではと考えます。実は王妃様のご意向でもあります。」
「王妃の耳にも入ったのか……確かに距離と時間があれば、アレクシーの頭も冷えるだろうな。で、相応しい離宮はあるのか?」
「はい、マイシーの離宮がよろしいかと」
「マイシーか……確かにあそこなら余も時折通うに不便ではないな」
 勿論、奥の宮のように思いついたら通える場所ではないが、馬を飛ばせば二刻ほど、人里離れた森の中にあり湖も近い。ルシアにとっても良いかもしれない。
 何よりも、マイシーの離宮は離宮としてほとんど認識されていない。知る者はごくわずかな離宮で、その点も好都合だった。
 フェリックスは、ルシアには何も質していない。執事の報告によると、ルシアに変わった様子はないとのことだ。アレクシーの事を運命と認識しているのか? 分からないが、下手に質して寝た子を起こすことはないと思っていた。
 少し変わった環境で、楽しませてやればアレクシーのことなど記憶の彼方に消えるだろう。
 ルシアを離宮にやれば、ルシアにとっても、アレクシーにとっても最善だ。フェリックスは決断した。
「わかった、ルシアをマイシーにやる。奥の宮の者にも命じてすぐに手配せよ。出来るだけ早い方がいい。勿論極秘だ。アレクシーには絶対に漏らすな、特にステク公爵家には気を付けろ。姉上には悪気はないが、フランソワに漏れると厄介だからな」
 
 国王の命令は迅速に遂行された。翌早朝ルシアは、早くもマイシーの離宮へ行くため馬車に乗せられた。朝靄に紛れて密やかに出発するためだった。
 ルシアは未だ目覚めていない頭をセリカの肩に預けていた。マイシーの離宮に行くためと言われたが、意味が分からなかった。
 生まれて二十八年、一度も奥の宮から出たことがないルシアには勿論初めての外出。しかも、夜が明けるのか明けないのかの早朝。兄上様の命令なのは間違いないが、でもなぜ?
 半刻ほど進むと、次第に朝の陽ざしが煌めいてきた。見たこともない景色に、ルシアは心が躍る。ひと時不安を忘れさせてくれる素敵な眺めだ。
「早朝に見る木々は美しゅうございますね、朝日に輝くようで……」
「うん、ほんとに綺麗。こんな眺め初めて見るよ」
 ルシアの言葉に、セリカの胸は小さく痛む。この方は、こういう景色も知らず二十八年をあの奥の宮に閉ざされて過ごしたのだ。何不自由ない生活ではあるが、幽囚の身の上でもある。きっかけはともあれ、離宮へ行くのはルシアにとって良い事では? とセリカは思う。
 セリカの思いは、当たっていたようだ。ルシアは、離宮の近くの湖に興奮を隠せない。初めて見る白鳥、そして畔には小鳥も囀っている。馬車の窓から乗り出す勢いに、危なっかしく、ハラハラしたセリカだった。

 ルシアのマイシーの離宮での生活は、穏やかに始まった。何もかもが珍しく出歩きたいルシアにセリカも苦笑させられる。
 よほど嬉しいのだろう、生き生きした表情のルシアにセリカは、ルシアの新たな一面を知ったようで意外だった。
 かなりの護衛は付いているが、離宮から湖までは自由に行き来できるのが、ルシアには嬉しい。確かにルシアが、こんなに歩き回ることは今までなかった。

 離宮での生活が、五日を過ぎたころフェリックスが訪れた。
「ルシアどうじゃ、ここでの生活は?」
「毎日が楽しゅうございます。このような配慮をしてくださった兄上様には感謝でございます」
「そうか、そなたが気に入ったのなら良かった。ここでの生活がいいなら、好きなだけいてもよいぞ」
「よろしいのですか?!」
 心から嬉しそうなルシアに、フェリックスは安堵する。ルシアはアレクシーの事をどう思っているのか? そう考えていたが、これなら心配いらないだろう。ルシアには、アレクシーの事は触れずに終わらせることができるだろうと、フェリックスは思う。

 ルシアの心にアレクシーの影が消えたわけではなかった。
 突然の芳香、そして抱きしめられたあの衝撃。今も心に残っていた。王太子様、兄上様のお子様。できればもう一度会いたい……そう思っていた。
 ルシアは、フェリックスを愛している。それは庇護者に対する、いわば父親に対するような愛ではあったが、愛していることに違いはない。故に、ルシアにとってフェリックスは唯一の男性。操を立てるべき人。身も心もフェリックスただ一人のもの。
 しかし、王太子はフェリックスの子供だ。男性枠に入るのか? でも男性……。様々な思いが過るが、王太子の話題は出していけない、触れてはいけない……それは肌で感じていた。
 奥の宮という閉ざされた世界で生きてきたルシアは、人の心の奥を読み取るなど無縁に生きてきた。しかし、元来繊細なルシアは、王太子アレクシーの事はタブーであると分かっていた。魂から感じていたのかもしれない。
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