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15.誰が悪役令嬢ですか
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「今貴方は私を監禁してますよね」
私の言葉にラウルが間抜けな声を出す。
「かっ、監禁?! そんなことしてないよぉ!」
「扉前に張り付いて何度退去を求めても応じないのに?」
「それは……マリアンちゃんが部屋に入れてくれれば良いだけの話だよ?」
「つまり断り続ける限り外に出さないということですよね」
「そ、そんなこと……」
「ちなみに私はまだ既婚者なのに再婚しようとしつこく繰り返すのも大問題ですからね」
「いや別に僕が再婚したい訳じゃなくて、再婚してあげてもいいかなって……」
「ふふ、面白いですね。今の言葉私の父の前でも繰り返していただけますか?」
「そ、それは……」
扉越しに会話を続けていく。
少しリスクがあったが訴えるという単語を出して良かった。明らかに向こうの勢いは削がれた。
ラウルは離婚済みという話だが円満に別れた訳じゃないかもしれない。
とどめに父の存在をちらつかせると彼は完全に何も言えなくなった。
最初から公爵である父に言いつけるぞで良かったなと今更思った。
前世の記憶に引きずられてるせいか焦っていると親に頼るという発想がすぐ出てこない。
今の私は一人暮らしの社会人ではなく、世間知らずのお花畑令嬢なのだ。
携帯電話もスタンガンも無いのだから身を守るために使える物は使おう。
「公爵である私の父に、再婚に応じるまで貴方に部屋に監禁されたと伝えたらどうなるでしょうね?」
「は? そんなこと全然してないし、捏造は犯罪だよ!」
「それを判断するのは貴方じゃないです。それよりも屋敷から出て行って……いや離れに帰ってください」
「まだ話は終わっていないのにっ! 公爵令嬢だからって男相手に調子乗り過ぎ、そんなんじゃ嫌われちゃうよ!」
「今の発言も父に伝えますね」
「ふぇぇっ」
「嫌なら、今から三分以内に屋敷から出て行ってくださいね。離れまでは十分差し上げます」
「三分とか絶対無理だよ!!そんな性格だから兄さんから嫌われるんだ!!」
「……やっぱり一分で、カウントお願いシェリア」
「はい、お嬢様。いーち、にー……さんじゅう」
「うっ、マリアンちゃんたちの性悪!!悪役令嬢っ!!」
捨て台詞と一緒にドタバタと不格好な足音が聞こえる。
だからと言って即扉を開けたりしない。
「悪役令嬢って何よ……確かこの窓から離れまで見えたわね」
「はいお嬢様、窓の近くに椅子を移動させましょうか?」
シェリアに言われて私は首を振る。
「大丈夫よ。それより荷造りをお願いしても良いかしら」
「公爵邸にお戻りになるのですね」
「ええ、連絡も無しだから気が咎めるけれど緊急避難扱いで許して貰いましょう」
目に見えて明るい表情になった侍女に伝え窓の向こうに目をやる。
暫くすると玄関からラウルらしき人物が出てきた。
ゼエゼエと苦し気に呼吸を繰り返し、それからノロノロと歩き出す。
絶対十分以内には離れには辿り着かないだろう。
屋敷からさっさと出て行って欲しかっただけだから別に良い。
私は机をのろのろ歩く蟻を見つめるようにラウルを見守った。
彼が離れに収納されるまでは見張る必要がある。
その間もシェリアがテキパキと荷物を纏めていた。
すると控えめに扉がノックされる。
私とシェリアは同時に目を合わせた。
二人で窓の外を見つめる。ラウルは屋敷と離れの中間辺りをノロノロ歩いていた。
そして石を蹴ろうとしたのか派手に転んだ。
私とシェリアは無言で頷き合うと窓から目を離す。
「……どなたですか?」
決して扉には近づかず私は誰何した。
「俺だ、フェリクス・アンベールだ。今いいだろうか」
一難去ってまた一難か。
いや、この屋敷を出ていくなら話はしなければいけないだろう。
私は少し考えて扉へ近づいた。
「扉は開けないままでの会話で宜しいでしょうか?」
「ああ……すまない」
穏やかだが疲れを隠し切れない声が返ってくる。
彼はすまないが口癖なのだろうか。少しだけそんなことを考えた。
私の言葉にラウルが間抜けな声を出す。
「かっ、監禁?! そんなことしてないよぉ!」
「扉前に張り付いて何度退去を求めても応じないのに?」
「それは……マリアンちゃんが部屋に入れてくれれば良いだけの話だよ?」
「つまり断り続ける限り外に出さないということですよね」
「そ、そんなこと……」
「ちなみに私はまだ既婚者なのに再婚しようとしつこく繰り返すのも大問題ですからね」
「いや別に僕が再婚したい訳じゃなくて、再婚してあげてもいいかなって……」
「ふふ、面白いですね。今の言葉私の父の前でも繰り返していただけますか?」
「そ、それは……」
扉越しに会話を続けていく。
少しリスクがあったが訴えるという単語を出して良かった。明らかに向こうの勢いは削がれた。
ラウルは離婚済みという話だが円満に別れた訳じゃないかもしれない。
とどめに父の存在をちらつかせると彼は完全に何も言えなくなった。
最初から公爵である父に言いつけるぞで良かったなと今更思った。
前世の記憶に引きずられてるせいか焦っていると親に頼るという発想がすぐ出てこない。
今の私は一人暮らしの社会人ではなく、世間知らずのお花畑令嬢なのだ。
携帯電話もスタンガンも無いのだから身を守るために使える物は使おう。
「公爵である私の父に、再婚に応じるまで貴方に部屋に監禁されたと伝えたらどうなるでしょうね?」
「は? そんなこと全然してないし、捏造は犯罪だよ!」
「それを判断するのは貴方じゃないです。それよりも屋敷から出て行って……いや離れに帰ってください」
「まだ話は終わっていないのにっ! 公爵令嬢だからって男相手に調子乗り過ぎ、そんなんじゃ嫌われちゃうよ!」
「今の発言も父に伝えますね」
「ふぇぇっ」
「嫌なら、今から三分以内に屋敷から出て行ってくださいね。離れまでは十分差し上げます」
「三分とか絶対無理だよ!!そんな性格だから兄さんから嫌われるんだ!!」
「……やっぱり一分で、カウントお願いシェリア」
「はい、お嬢様。いーち、にー……さんじゅう」
「うっ、マリアンちゃんたちの性悪!!悪役令嬢っ!!」
捨て台詞と一緒にドタバタと不格好な足音が聞こえる。
だからと言って即扉を開けたりしない。
「悪役令嬢って何よ……確かこの窓から離れまで見えたわね」
「はいお嬢様、窓の近くに椅子を移動させましょうか?」
シェリアに言われて私は首を振る。
「大丈夫よ。それより荷造りをお願いしても良いかしら」
「公爵邸にお戻りになるのですね」
「ええ、連絡も無しだから気が咎めるけれど緊急避難扱いで許して貰いましょう」
目に見えて明るい表情になった侍女に伝え窓の向こうに目をやる。
暫くすると玄関からラウルらしき人物が出てきた。
ゼエゼエと苦し気に呼吸を繰り返し、それからノロノロと歩き出す。
絶対十分以内には離れには辿り着かないだろう。
屋敷からさっさと出て行って欲しかっただけだから別に良い。
私は机をのろのろ歩く蟻を見つめるようにラウルを見守った。
彼が離れに収納されるまでは見張る必要がある。
その間もシェリアがテキパキと荷物を纏めていた。
すると控えめに扉がノックされる。
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二人で窓の外を見つめる。ラウルは屋敷と離れの中間辺りをノロノロ歩いていた。
そして石を蹴ろうとしたのか派手に転んだ。
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決して扉には近づかず私は誰何した。
「俺だ、フェリクス・アンベールだ。今いいだろうか」
一難去ってまた一難か。
いや、この屋敷を出ていくなら話はしなければいけないだろう。
私は少し考えて扉へ近づいた。
「扉は開けないままでの会話で宜しいでしょうか?」
「ああ……すまない」
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彼はすまないが口癖なのだろうか。少しだけそんなことを考えた。
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