48 / 65
47.無責任ヒロイン
しおりを挟む
「……でも自分の身内、それも母親と似た女性を妻として扱うのは難しいかもしれないわね。納得したわ」
祈るようなポーズのまま本物のマリアンが言う。その足元がどんどん薄くなっていくのに気づいて私は声をかけた。
「あの、体が消えて行ってるみたいだけど」
「あら……きっと心残りが解消されたからね」
まるで幽霊なことを言うマリアンは何故かスッキリした顔をしていた。
先程までの悲し気な顔は何だったのだろう。
「それは単純にフェリクス様を憐れに思ったからだけれど」
「……じゃあ、今なんだかサッパリした表情をしているのは?」
「あの方が、このわたくしを妻として拒んだ理由に納得がいったからですわ」
あっ、外見や態度ほど儚げなキャラじゃないな本物のマリアン。
いや見た目通り自己肯定感の塊だな。私は納得と呆れの混ざった表情で彼女を見た。
毎日泣いていたのはプライドが傷つけられたからだったのか。
愛する人に拒否されて悲しいのかと思っていた。
「いえ、フェリクス様のことはちゃんと愛しておりましたわ。とても美しい殿方ですもの」
又心を読まれて返事をされる。もう一々驚く気はなかった。
「彼に惹かれたのは外見だけ?」
「禁欲的でどこか陰のある雰囲気も好みだったわ。それにわたくし一刻も早く結婚したかったのだもの」
「どうして?」
「あら、貴方もわたくしなのに忘れてしまったの?」
そう言われた途端思い出す。
王太子の今年十二歳になる子息。
マリアンは彼の婚約者候補だった。
しかし相手はこちらを年が離れすぎていると嫌っているのであくまで候補だ。ちゃんとした申し入れも一切無い。
だが王太子側は年々じわじわとこちらに照準を絞ってきている感じがしていた。
完全に政略結婚だ。
「不敬極まるのでお父様にも言えなかったけれど……わたくし、こちらを年増呼ばわりしてくる子供となんて死んでも結婚したくありませんわ!」
「そうね、そうだったわね……」
「どちらかというと年上の方が好きですし、フェリクス様はわたくしの容姿は貶しませんでしたし」
「基準それなんだ」
「相思相愛になれなかったのは残念でけれど王太子子息が結婚するまで妻でいられれば満足でしたのに」
そう溜息を吐く間も彼女の体は薄くなっていった。このまま消えるんじゃないかと不安になる。
「ねえ、その体が消えたらどうなるの?」
「天国にあるわたくしたちの家に戻りますわ」
「えっ、本物のマリアンとして私と交代するんじゃないの?」
私が疑問をぶつけると彼女は少し悩んだ後に首を振った。
「無理ですわね、わたくし亡霊みたいなものですし」
「えっ、亡霊ってことは貴方死んだの? 私なのに?」
とんでもないことを言われ一瞬頭が真っ白になる。
彼女は上品に頷いて唇を開いた。
「ええ、あの日お茶を頂いた後に急にふらついて、頭を思い切り打ちましたでしょう?」
「あの時って……前世の記憶を思い出す前?」
「ええ、わたくし自身はその時にすぐ昇天いたしました。でも本来はすぐ死なず数十年程眠り続ける予定だったようですの」
「意識不明のまま寝た切りってこと? それはそれで悲惨な……」
「なので体を死なせるわけにはいかないと天国の役人の方たちが色々されて、わたくしの中に存在した貴方がわたくしに」
つまり本物のマリアンの早とちりか天国側のミスでは。そんな理由で前世の私がマリアンの体で蘇ったのか。一言事前説明があっても良かった気がする。
そう考えてあることに気付く。
「……つまり貴方が普段天国にいる死人なら……何で今私と話せてるの?」
「それは貴方も死にかけているからでは?」
「えっ」
指摘された途端目の前が揺らぐ。そういえば私は高熱でベッドの上で寝込んでいた筈。
つまり、今いる場所はやっぱり三途の川の近くでは。
認識した途端視界がぐにゃぐにゃとなる。目の前に本物のマリアンがいるかもわからない。
もっと色々聞き出したいのに。特に頭を打つ前のことについて。
『お茶飲んで即倒れたって、それ一服盛られたんじゃないの?!』
精一杯叫んだつもりだが本物のマリアンは頑張ってとでも言うように手を振るだけだった。
「大丈夫ですわ、貴方はわたくしと全く別人。つまりあの二人とも全く似ていないということですもの」
何か勘違いしてるな。彼女は私がフェリクスと離婚しようとしていること一切知らないらしい。無関心過ぎるでしょ。
というか本人が下界に戻って頑張ってほしい。そんなことを考えてるといつの間にかマリアンの隣に羽の生えた男性が立っていた。
彼女の肩を抱いている天使っぽい男性は何となくフェリクスに似ている。
私は色々察して心底脱力した。
こういうタイプの女、前世にも居たわ。
祈るようなポーズのまま本物のマリアンが言う。その足元がどんどん薄くなっていくのに気づいて私は声をかけた。
「あの、体が消えて行ってるみたいだけど」
「あら……きっと心残りが解消されたからね」
まるで幽霊なことを言うマリアンは何故かスッキリした顔をしていた。
先程までの悲し気な顔は何だったのだろう。
「それは単純にフェリクス様を憐れに思ったからだけれど」
「……じゃあ、今なんだかサッパリした表情をしているのは?」
「あの方が、このわたくしを妻として拒んだ理由に納得がいったからですわ」
あっ、外見や態度ほど儚げなキャラじゃないな本物のマリアン。
いや見た目通り自己肯定感の塊だな。私は納得と呆れの混ざった表情で彼女を見た。
毎日泣いていたのはプライドが傷つけられたからだったのか。
愛する人に拒否されて悲しいのかと思っていた。
「いえ、フェリクス様のことはちゃんと愛しておりましたわ。とても美しい殿方ですもの」
又心を読まれて返事をされる。もう一々驚く気はなかった。
「彼に惹かれたのは外見だけ?」
「禁欲的でどこか陰のある雰囲気も好みだったわ。それにわたくし一刻も早く結婚したかったのだもの」
「どうして?」
「あら、貴方もわたくしなのに忘れてしまったの?」
そう言われた途端思い出す。
王太子の今年十二歳になる子息。
マリアンは彼の婚約者候補だった。
しかし相手はこちらを年が離れすぎていると嫌っているのであくまで候補だ。ちゃんとした申し入れも一切無い。
だが王太子側は年々じわじわとこちらに照準を絞ってきている感じがしていた。
完全に政略結婚だ。
「不敬極まるのでお父様にも言えなかったけれど……わたくし、こちらを年増呼ばわりしてくる子供となんて死んでも結婚したくありませんわ!」
「そうね、そうだったわね……」
「どちらかというと年上の方が好きですし、フェリクス様はわたくしの容姿は貶しませんでしたし」
「基準それなんだ」
「相思相愛になれなかったのは残念でけれど王太子子息が結婚するまで妻でいられれば満足でしたのに」
そう溜息を吐く間も彼女の体は薄くなっていった。このまま消えるんじゃないかと不安になる。
「ねえ、その体が消えたらどうなるの?」
「天国にあるわたくしたちの家に戻りますわ」
「えっ、本物のマリアンとして私と交代するんじゃないの?」
私が疑問をぶつけると彼女は少し悩んだ後に首を振った。
「無理ですわね、わたくし亡霊みたいなものですし」
「えっ、亡霊ってことは貴方死んだの? 私なのに?」
とんでもないことを言われ一瞬頭が真っ白になる。
彼女は上品に頷いて唇を開いた。
「ええ、あの日お茶を頂いた後に急にふらついて、頭を思い切り打ちましたでしょう?」
「あの時って……前世の記憶を思い出す前?」
「ええ、わたくし自身はその時にすぐ昇天いたしました。でも本来はすぐ死なず数十年程眠り続ける予定だったようですの」
「意識不明のまま寝た切りってこと? それはそれで悲惨な……」
「なので体を死なせるわけにはいかないと天国の役人の方たちが色々されて、わたくしの中に存在した貴方がわたくしに」
つまり本物のマリアンの早とちりか天国側のミスでは。そんな理由で前世の私がマリアンの体で蘇ったのか。一言事前説明があっても良かった気がする。
そう考えてあることに気付く。
「……つまり貴方が普段天国にいる死人なら……何で今私と話せてるの?」
「それは貴方も死にかけているからでは?」
「えっ」
指摘された途端目の前が揺らぐ。そういえば私は高熱でベッドの上で寝込んでいた筈。
つまり、今いる場所はやっぱり三途の川の近くでは。
認識した途端視界がぐにゃぐにゃとなる。目の前に本物のマリアンがいるかもわからない。
もっと色々聞き出したいのに。特に頭を打つ前のことについて。
『お茶飲んで即倒れたって、それ一服盛られたんじゃないの?!』
精一杯叫んだつもりだが本物のマリアンは頑張ってとでも言うように手を振るだけだった。
「大丈夫ですわ、貴方はわたくしと全く別人。つまりあの二人とも全く似ていないということですもの」
何か勘違いしてるな。彼女は私がフェリクスと離婚しようとしていること一切知らないらしい。無関心過ぎるでしょ。
というか本人が下界に戻って頑張ってほしい。そんなことを考えてるといつの間にかマリアンの隣に羽の生えた男性が立っていた。
彼女の肩を抱いている天使っぽい男性は何となくフェリクスに似ている。
私は色々察して心底脱力した。
こういうタイプの女、前世にも居たわ。
1,317
あなたにおすすめの小説
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる