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57.話はそれからです
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公爵邸の玄関を出てすぐ横、車寄せのような場所に二台の馬車があった。公爵家の物では無い。
私が指示する前から使用人たちは集まっていたのだろう。メイドたちの姿もある。
危機を察してなのかただの野次馬なのか、それとも両方なのか私には区別がつかなかった。
ただここまで人が集まっているということは、騒ぎから大分時間が経っているのだろう。
私を呼びに来たメイドも判断に迷ったのかもしれない。
今公爵邸には当主もその後継もいない。
一番身分の高いのは出戻りみたいに帰って来た頼りない末娘だけで、しかも数日間寝込んでいたのだから。
ドレスに着替え扇を携えた私はシェリアと共に現場に急ぐ。大股で走り出せないのがもどかしい。
近づく程、使用人たちの隙間から争う二人の男性が見えてくる。
信じたくないが、片方はアンベール伯爵家の筆頭執事で片方はその当主だった。
今見ている公爵家使用人の何割がそれを理解しているだろう。
いや身分がわからなくても公爵家の玄関で騒いでいるだけで非常識なことは明確だろう。
「良いからお前は伯爵邸に戻れ、話はそこで聞く!」
「いいえ、これは旦那様の為なのです!旦那様こそお帰り下さい!!」
いや本当さっさと伯爵家戻って好きなだけ取っ組み合って欲しい。
私は聞こえてくる諍いにそう思った。
伯爵家という単語が出ているから、男の使用人たちも取り押さえるか判断に迷ったのだろう。
騒がしいが今の所暴れておらず口喧嘩レベルというのも理由かもしれない。
私はアルマ姉さんがしていたように扇子をパチリと鳴らした。しかし男二人が騒がしくて全然響かなかった。
「ここがフェーヴル公爵家の敷地だと知っていて、騒いでいるのかしら?」
仕方なく声を張り上げる。流石にそれは聞こえたのか皆が一斉にこちらを見た。少し緊張する。
フェリクスも驚いた顔で私の顔を見つめていた。
私が公爵家に居るのは知っているのだから驚く理由は無いと思うのだけれど。
だが彼の反応はまだマシな方だと私はその直後に理解する。
「ほら御覧なさい、言った通りに現れたじゃないですか!来るまで待てば絶対出てくるのですよ!」
前世誰かのストーカーでもやってたんですか。そう突っ込みたくなるようなことを言いながら執事のアーノルドは私を指差す。
彼が平民だということも数年前は庭師だったことも、この場で知るのはフェリクスと私とシェリアぐらいだろう。
だとしても公爵家の人間に伯爵家の使用人がやっていい仕草でも言動でもない。
私は扇を握りしめながら言った。
「アンベール伯爵家当主様、まずその狼藉者をどう対処するかお聞かせ願えますか?」
話はそれからです。私は青褪めるフェリクスを睨みつけながら言った。
私が指示する前から使用人たちは集まっていたのだろう。メイドたちの姿もある。
危機を察してなのかただの野次馬なのか、それとも両方なのか私には区別がつかなかった。
ただここまで人が集まっているということは、騒ぎから大分時間が経っているのだろう。
私を呼びに来たメイドも判断に迷ったのかもしれない。
今公爵邸には当主もその後継もいない。
一番身分の高いのは出戻りみたいに帰って来た頼りない末娘だけで、しかも数日間寝込んでいたのだから。
ドレスに着替え扇を携えた私はシェリアと共に現場に急ぐ。大股で走り出せないのがもどかしい。
近づく程、使用人たちの隙間から争う二人の男性が見えてくる。
信じたくないが、片方はアンベール伯爵家の筆頭執事で片方はその当主だった。
今見ている公爵家使用人の何割がそれを理解しているだろう。
いや身分がわからなくても公爵家の玄関で騒いでいるだけで非常識なことは明確だろう。
「良いからお前は伯爵邸に戻れ、話はそこで聞く!」
「いいえ、これは旦那様の為なのです!旦那様こそお帰り下さい!!」
いや本当さっさと伯爵家戻って好きなだけ取っ組み合って欲しい。
私は聞こえてくる諍いにそう思った。
伯爵家という単語が出ているから、男の使用人たちも取り押さえるか判断に迷ったのだろう。
騒がしいが今の所暴れておらず口喧嘩レベルというのも理由かもしれない。
私はアルマ姉さんがしていたように扇子をパチリと鳴らした。しかし男二人が騒がしくて全然響かなかった。
「ここがフェーヴル公爵家の敷地だと知っていて、騒いでいるのかしら?」
仕方なく声を張り上げる。流石にそれは聞こえたのか皆が一斉にこちらを見た。少し緊張する。
フェリクスも驚いた顔で私の顔を見つめていた。
私が公爵家に居るのは知っているのだから驚く理由は無いと思うのだけれど。
だが彼の反応はまだマシな方だと私はその直後に理解する。
「ほら御覧なさい、言った通りに現れたじゃないですか!来るまで待てば絶対出てくるのですよ!」
前世誰かのストーカーでもやってたんですか。そう突っ込みたくなるようなことを言いながら執事のアーノルドは私を指差す。
彼が平民だということも数年前は庭師だったことも、この場で知るのはフェリクスと私とシェリアぐらいだろう。
だとしても公爵家の人間に伯爵家の使用人がやっていい仕草でも言動でもない。
私は扇を握りしめながら言った。
「アンベール伯爵家当主様、まずその狼藉者をどう対処するかお聞かせ願えますか?」
話はそれからです。私は青褪めるフェリクスを睨みつけながら言った。
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