誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ

文字の大きさ
33 / 106
第一部

33.

しおりを挟む
 レインとの会話が一段落ついたところで考える。
 今のところケビンは部屋に突撃して来ない。
 恐らくこの公爵夫人室は地下牢みたいに盗聴や監視可能ではないのだろう。

 私がそう思うのは他にも理由がある。
 原作「一輪の花は氷を溶かす」では中盤ぐらいからエリカもケビンへの恋心を強く自覚する。
 そしてその前からケビンはエリカに対し独占欲と恋心を抱いている。

 しかし二人は恋人同士にはならない。何故ならどちらも告白しないからだ。
 クライマックスまで延々と両片思い状態を続けている。 
 エリカは度々今私が居る公爵夫人室でケビンへの恋心を口にする。
 公爵様になら何をされても構わないのにといった大胆な発言までしてしまう。

 なのにケビンは最終回付近までエリカに手を出さない。
 結婚前にリリーを妊娠させた彼がだ。
 それどころかエリカが他の男に惚れているのではないかとちょくちょく不安がったり嫉妬する。

(つまりケビンはエリカの自室での独り言を全く知らないってことよね)

 なので今私がレインとしている会話も聞かれていないと考えることにする。
 そんなことを今更考えるのは、ここから先の会話がケビンの地雷を踏み抜く可能性が高いからだ。
 私は念のため扉を開けて廊下を見渡す。無人だった。

「どうしたんだい?」

 不思議そうにレインが首を傾げる。
 確かにおかしな行動だっただろう。私は素直に理由を言った。

「今から余り人に聞かれたくない話をするつもりなので」
「……先程までの話より?」
「はい、それらよりずっと」

 私の言葉にレインが表情を強張らせる。
 可能なら逃げたいと思っているかもしれない。だが逃がす訳にはいかない。
 レインはケビンの親戚で彼の過去をある程度知っていて、まともな会話が出来そうな人物なのだ。

「マーベラ夫人はケビン様とリリー様の子供二人を、昔の兄弟のようにしたくないと言っていました」
「レオとロンを?」
「その為に兄は王様、弟は奴隷だと教育したのだと最後まで言い張っていて、何故そこまでしたのかが知りたいのです」
「……マーベラ夫人も精神的に問題が生じている可能性があるね。そこまで衝撃的だったのかもしれないけれど」

 レインは暗い表情で呟く。マーベラ夫人の精神には確実に問題が生じていると思う。
 ただ彼女は医師という職業柄か診察していない相手に対し断定ができないのかもしれない。

「あくまで素人目線ですがマーベラ夫人の精神も治療が必要な状態だと思います。ただケビン様が治療費を出すかは……」
「出さないだろうね。彼は昔からマーベラ夫人が苦手だった。だから自分の子供たちの家庭教師に彼女を選んだのは驚いたよ」
「リリー様が推薦したと仰っていました。過去の事件でマーベラ夫人が可哀想だったからと」
「あの人が……いや、彼女ならするかもしれないな。この世に悪人なんていないという考えの人だったし」
「……リリー様はまるで聖女みたいな女性だったのですね」

 私はげんなりした気持ちを隠しもせず言う。
 リリーという人間は善人しかいない無菌室で暮して来たのか、それとも余程人の悪意に鈍感なのか。
 私の言葉にレインは苦笑いを浮かべようとして、失敗したような表情をした。

「聖女、そうだね。聖女だとか女神だとか良く言われていたな。確かに優しい人には見えたよ」

 でも何を考えているかはわからなかったな。遠い目をしてレインは言う。
 私はケビンの部屋に飾ってあったリリーの肖像画を思い出した。
 優し気に微笑む女性は美しかったが、実際優しいかなんてわからない。

「ケビンには激怒されると思うし私の妬みかもしれないけれど、彼女の優しさが争いを深刻化させた気がする」
「……争いとは?」
「兄弟喧嘩、かな」

 私が聞き返すとレインは口だけで笑った。そして立ち上がると扉を開いて又閉じた。
 先程私がしたのを全く同じことだ。

 つまりレインは今からケビンに聞かれたくない話をするつもりなのだ。
 それはきっと聞かれたくないけれど誰かに話したくて堪らなかった話でもあるのだろう。私は姿勢を正した。
しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

処理中です...