68 / 106
第一部
68.
しおりを挟む
「カーヴェル氏の血液諸々採取した上で検査すれば薬物混入については立証できると思う」
レインは白衣のポケットに手を突っ込みながら言う。
「紛らわしくなるから今は睡眠剤を常用して無くて良かった。他に常用している薬も無いようだし……無いよね?」
「はい、今は何の薬も」
「本当に良かった、もし睡眠薬と飲み合わせの悪い薬を服用していたらと考えるとそれだけで胃が痛くなってくる」
レインの溜息に私も内心で同意した。
前世でも軽い気持ちで薬を飲み物に混入した件が偶にニュースになっていたが、悪戯扱いで許される行為ではない。
「検査結果が出るのは数日後になるけれど、今すぐ外部に捜査を頼む予定は?」
「無いわ。どうせマレーナたちはレオ君に押し付けて子供の悪戯で終わらせる作戦でしょうし」
その場合私がケビンに公爵夫人としての監督責任がどうとかで責められるのが目に見えている。
そもそもレオは自分の息子でしょうがという主張をあの男は絶対に受け入れないだろう。
「そういえば……マレーナさんは紅茶を持って来た時にレオ様がお手伝いされたと口にしていましたね」
「睡眠薬について追及された時にレオ君が目を離した隙に入れてしまったとでも言い訳するのかしら」
私はマレーナがどのような感じで釈明するのか簡単に想像できた。以後気を付けますという声まで脳裏で再現できる。
彼女はメイドとして有り得ない事ばかりしているように見えるが、常に責任転嫁先を用意する周到さがあった。
「なのでレオ君の部屋やマレーナたちの荷物を焦って捜索するのもあまり意味はないわね。彼女は恐らく気づかれても良いように動いている」
「……私が睡眠薬で意識を失ってから奥様にそれが伝わるまで二時間経過していますしね」
「子供部屋から誰にも気づかれないようにここまでカーヴェルを運ぶのにかかった時間かと思うと笑ってしまうけどね」
しかしどれだけ時間をかけようがマレーナとレオだけで成人男性のカーヴェルを救護室まで運べる訳がない。
絶対協力者がいる筈だ。
(ブライアン辺りでしょうね)
私は冷め切った心で思った。
「立案者はマレーナでレオ君とブライアンが協力者。そしてこの二人がマレーナに責任を押し付けられる役になると私は考えているわ」
二人にそう告げる。レインが質問があると挙手した。
「今更なんだけれど、この麗しき家令殿にメイドやレオや家令補佐達が結託して睡眠薬を飲ませた理由がわからないな」
その指摘に私とカーヴェルは一瞬顔を見合わせた。
確かに屋敷内の人間からしたらそういう考えにもなるか。
「過労を理由に家令職を辞めさせるのが目的の一つだと思うわ」
「……そこまで彼は嫌われているのかい?」
レインの驚いた顔に私は苦笑いを返す。
「恐らくレオ君は家令を辞めた後のカーヴェルを自分の専属従者にでも出来ると吹き込まれている筈よ」
レオはマレーナにマーベラ夫人の解雇を止めるよう求められた結果嫌がり家出しようとした。
ケビンに意見することが怖かったのもあるだろうが、その行為にメリットを感じなかったのも一因の筈だ。
それだけが理由じゃないかもしれないが、カーヴェルに対する執着心は確実に利用されているだろう。
「確かに……レオ様に従者になるよう何回か求められたことがあります」
「随分彼はレオに気に入られているようだね」
「それはもう。そしてブライアンは家令の地位が空席になれば補佐の自分がそこに座れると思っている」
絶対有り得ないけれど。私は断言する。
「ということでレオとブライアンの二人をメインに揺さぶることにするわ」
「メイドより家令補佐の方がボロを出しやすいのか……」
「ええ、もう既に幾つも出しているし……これからもっと出すわ」
ドレスのポケットから自分宛ての封筒を取り出した。
面倒臭がり屋のブライアンが急ぎでも無いのにわざわざ私を捜して手渡して来たものだ。
「これはブライアンが自分が対処すると珍しく積極的だった、解雇したメイドたちの親から届いた抗議の手紙よ」
「アベニウス公爵家に抗議? それは随分と覚悟が決まっているね。余程理不尽な理由で解雇されたのかな」
「勤務中にお菓子を食べたり遊んでいたり、後輩の休憩時間を勝手に短縮して仕事を押し付けたりしたのが理由よ」
「……それで平謝りどころか抗議なんて、そのメイドたちの親は破滅願望でもあるのかな?」
理解出来ないと困惑した表情で言うレインを私は眺めた。
彼女には大変失礼だが表情豊かで常識人のケビンに見えて少しだけ面白い。
「本当に抗議文の差出人がメイドの親たちからならね」
私は手紙をしまい直すとカーヴェルに家令室の鍵を渡すよう求めた。
レインは白衣のポケットに手を突っ込みながら言う。
「紛らわしくなるから今は睡眠剤を常用して無くて良かった。他に常用している薬も無いようだし……無いよね?」
「はい、今は何の薬も」
「本当に良かった、もし睡眠薬と飲み合わせの悪い薬を服用していたらと考えるとそれだけで胃が痛くなってくる」
レインの溜息に私も内心で同意した。
前世でも軽い気持ちで薬を飲み物に混入した件が偶にニュースになっていたが、悪戯扱いで許される行為ではない。
「検査結果が出るのは数日後になるけれど、今すぐ外部に捜査を頼む予定は?」
「無いわ。どうせマレーナたちはレオ君に押し付けて子供の悪戯で終わらせる作戦でしょうし」
その場合私がケビンに公爵夫人としての監督責任がどうとかで責められるのが目に見えている。
そもそもレオは自分の息子でしょうがという主張をあの男は絶対に受け入れないだろう。
「そういえば……マレーナさんは紅茶を持って来た時にレオ様がお手伝いされたと口にしていましたね」
「睡眠薬について追及された時にレオ君が目を離した隙に入れてしまったとでも言い訳するのかしら」
私はマレーナがどのような感じで釈明するのか簡単に想像できた。以後気を付けますという声まで脳裏で再現できる。
彼女はメイドとして有り得ない事ばかりしているように見えるが、常に責任転嫁先を用意する周到さがあった。
「なのでレオ君の部屋やマレーナたちの荷物を焦って捜索するのもあまり意味はないわね。彼女は恐らく気づかれても良いように動いている」
「……私が睡眠薬で意識を失ってから奥様にそれが伝わるまで二時間経過していますしね」
「子供部屋から誰にも気づかれないようにここまでカーヴェルを運ぶのにかかった時間かと思うと笑ってしまうけどね」
しかしどれだけ時間をかけようがマレーナとレオだけで成人男性のカーヴェルを救護室まで運べる訳がない。
絶対協力者がいる筈だ。
(ブライアン辺りでしょうね)
私は冷め切った心で思った。
「立案者はマレーナでレオ君とブライアンが協力者。そしてこの二人がマレーナに責任を押し付けられる役になると私は考えているわ」
二人にそう告げる。レインが質問があると挙手した。
「今更なんだけれど、この麗しき家令殿にメイドやレオや家令補佐達が結託して睡眠薬を飲ませた理由がわからないな」
その指摘に私とカーヴェルは一瞬顔を見合わせた。
確かに屋敷内の人間からしたらそういう考えにもなるか。
「過労を理由に家令職を辞めさせるのが目的の一つだと思うわ」
「……そこまで彼は嫌われているのかい?」
レインの驚いた顔に私は苦笑いを返す。
「恐らくレオ君は家令を辞めた後のカーヴェルを自分の専属従者にでも出来ると吹き込まれている筈よ」
レオはマレーナにマーベラ夫人の解雇を止めるよう求められた結果嫌がり家出しようとした。
ケビンに意見することが怖かったのもあるだろうが、その行為にメリットを感じなかったのも一因の筈だ。
それだけが理由じゃないかもしれないが、カーヴェルに対する執着心は確実に利用されているだろう。
「確かに……レオ様に従者になるよう何回か求められたことがあります」
「随分彼はレオに気に入られているようだね」
「それはもう。そしてブライアンは家令の地位が空席になれば補佐の自分がそこに座れると思っている」
絶対有り得ないけれど。私は断言する。
「ということでレオとブライアンの二人をメインに揺さぶることにするわ」
「メイドより家令補佐の方がボロを出しやすいのか……」
「ええ、もう既に幾つも出しているし……これからもっと出すわ」
ドレスのポケットから自分宛ての封筒を取り出した。
面倒臭がり屋のブライアンが急ぎでも無いのにわざわざ私を捜して手渡して来たものだ。
「これはブライアンが自分が対処すると珍しく積極的だった、解雇したメイドたちの親から届いた抗議の手紙よ」
「アベニウス公爵家に抗議? それは随分と覚悟が決まっているね。余程理不尽な理由で解雇されたのかな」
「勤務中にお菓子を食べたり遊んでいたり、後輩の休憩時間を勝手に短縮して仕事を押し付けたりしたのが理由よ」
「……それで平謝りどころか抗議なんて、そのメイドたちの親は破滅願望でもあるのかな?」
理解出来ないと困惑した表情で言うレインを私は眺めた。
彼女には大変失礼だが表情豊かで常識人のケビンに見えて少しだけ面白い。
「本当に抗議文の差出人がメイドの親たちからならね」
私は手紙をしまい直すとカーヴェルに家令室の鍵を渡すよう求めた。
1,360
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる