誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ

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第二部

1.

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 ローズ・オルソンは苛立っていた。
 悪名高いアベニウス公爵家、そこに自分の代わりに異母妹を花嫁に出してから不快な事ばかりだからだ。

 まず父親が目に見えて自分を嫌い始めた。
 確かに式の前日に結婚を拒否したのは少し不味かったかと思っている。
 でも父が言うような考えなしの我儘などでは無い。

 アベニウス公爵家当主、ケビン・アベニウス。
 顔と地位は問題無い。年齢は自分より少し年上だが妥協できる。
 けれど何を考えているか全くわからない男だった。
 何故結婚しようとしているのかもわからない程こちらに無関心だった。
 けれどそれでもあの美しい顔の男を夫にし、公爵夫人と呼ばれることには強く惹かれた。

 だがケビンには他にも欠点があった。再婚であり子供が二人もいるのだ。
 弟の方はどうにも気が弱く意気地が無さそうだが、顔は可愛らしいし大人しくしている分には問題無い。
 ただ侍女がこちらを警戒するように見ていたのが気に入らなかったので解雇してやるつもりだった。

 問題は兄のレオだ。顔は父親に似て凛々しく五年すれば美男子になるだろうと思った。
 しかし敵意を隠しもせず子供の分際で新しく母となるローズを見下し強く拒否した。
 こちらも侍女の態度が気に入らなかった。
 男の前では楚々とした表情を浮かべ、その癖ローズだけが視線を向けると嘲るように笑う。
 それが気に入らず侍女を怒鳴りつけた結果、レオに怒鳴り返され追い出されるように父母と公爵邸を出た。

 その時珍しく父に怒鳴られたが、母はローズを庇ってくれた。
 あの侍女は嫌な感じがすると。父は男で鈍感だから気づかないのだと。

 公爵は息子に無関心なのか、特に咎められることは無かった。
 父は自分が誠心誠意謝罪したお陰だと言っていたが、そんなもの無くても結果は変わらなかっただろう。
 
 きっとローズが美しく、公爵夫人として相応しいと彼は判断したのだ。
 だからどうでもいい息子の癇癪など無視して妻に迎えるつもりなのだ。
 けれど彼が良くてもローズは別だ。夫は恋人と違って気に入らなくなればすぐ別れられるものではない。
 だから悩んで、そして前日にやはり無理だと判断したのだ。
 
 そして異母妹のエリカを推薦した。
 父は怒り母も驚いたが、自分がこのまま嫁いで公爵家で大きな騒ぎを起こするよりマシだろうと説得した。

 エリカはメイドの産んだ娘だ。公爵家の不興を買っても幾らでも切り捨てられる。
 そして自分と母がきっちり躾けて上げたおかげで逆らうということを知らない。
 屋根の下で暮らせればそれだけで幸せだと思っている頭の目出度い娘だ。

 だから突然公爵家に嫁げと言われても驚く顔をしただけで抵抗しなかった。
 もし公爵がエリカみたいな野暮ったい娘では無くローズを求めたなら、その時はあの生意気な長子と侍女を罰して貰おう。
 その上でローズは彼の物になってやろう。そう考えていた。

 けれどエリカが公爵家に嫁いでから一ヶ月、そう言った話は全く無い。
 寧ろ伯爵家のメイドたちはエリカが公爵家で女王のように扱われているというような噂話ばかりしている。

 あの奴隷のような異母妹が女王になど有り得ない。
 そんな状況が許されるのはエリカが死ぬ間際に見る夢ぐらいだ。

 彼女が気に入らない使用人を次々解雇しているとか信じられない。
 その中にローズを小馬鹿にしたレオ付き侍女が含まれていると知った時は思わず笑ったが、自分が解雇してやりたかったと思った。
 
 どうやらエリカはアベニウス公爵に激しい寵愛を受けているらしい。
 彼は新妻の顔を見て接吻する為だけに王都から本宅に帰ったらしい。馬車から降りるなりエリカに接吻しそのまま王都に戻ったとか。

「そんなの有り得ない、あの女どんな魔法を使ったのよ……!」

 他にも美形の医師と家令を侍らせているとか公爵の子供二人に慕われているとか気に入らない噂ばかり流れて来る。
 お喋りな公爵家のメイドがこちらもお喋りな伯爵家のメイドに話してそれがローズの耳に届くのだ。

 今月だけでエリカを持ち上げローズを小馬鹿にする陰口を叩いた使用人を五人解雇した。
 きっちり鞭をくれてやってだ。
 父から小言を言われたが大量に使用人を解雇したのはエリカも同じだろう。何故自分は叱られないといけないのか。

 そう言い返すと父は「公爵夫人になってから言え」と冷たい目をして返して来た。
 ローズが悔しくて泣いたら「良い歳をしてみっともない」と追い打ちをかけて来た。

 母の実家から融資して貰って伯爵家を維持できている情けない男の癖に。
 けれど母はローズを慰めるだけで父と離婚しようとはしない。あんな男でも愛しているのだ。
 だからメイドに手を出しても捨てなかったのだ。 

 ローズは自室に戻ると一人で泣き続けた。そもそも自分は次期女伯爵だ。
 夫に依存するだけの公爵夫人よりずっと自立した立場の筈だ。
 
 それにエリカの公爵夫人という地位だって本来自分のものだった筈だ。たまたま自分が気まぐれで譲ってあげただけのこと。
 なのに好き勝手使用人を解雇して、美男子二人を侍らせているというではないか。勘違いも甚だしい。

「そうよ、思い知らせてあげなくちゃ」

 ローズは嫣然と笑った。エリカが公爵夫人となった今でも彼女がローズの異母妹で奴隷女であることには変わりないのだ。
 夫がいるのに男の使用人にも手を出しているなんて図々しい。

「やっぱり私の見立て通りあんたは男好きの悪女だったのね、でもその男たちも私の物よ」

 姉として図に乗った妹を窘めてあげなくちゃ。
 ローズは夜になり真っ暗になった部屋で灯りもつけず笑い続けた。

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