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しおりを挟む「こよりんってさあ」
演奏会の打ち上げ。隣り合って座って、だいぶお酒が回った様子の笠井さんが楽しそうに顔を近づけて笑う。
大学時代の友人たちは亜紗をはじめとして、大半、遠いからと帰った。コミュニケーションおばけの燎介は、他のところで楽しそうに話している。あんまりお酒は強くない笠井さんと、顔には出ないし割と飲めるわたしで飲んでたら、こうなるよなとは思う。背後の席で、笑吏の笑い声が上がる。もともと響く声だからよく聞こえる。確か同じテーブルに皆木さんも座っていた。
「旦那さん、好きだよねー。いつから付き合ってたの?」
「…まあ確かに、今好きだけど」
「認めたっ」
そんなに意外か、と思いながら、グラスを口に運んで目を逸らす。
「付き合ったことは、ないよ。久しぶりに会った時に2人とも決まった相手いなくて、なんだかこうなってただけだから」
「え?」
ものすごく、不思議そう。
というか、若干周囲が聞いている気がするのはきっと自意識過剰だろう。
「でもそれって…少なくとも先に言い出す方には」
「笠井くん」
不意に割って入った声に揃って顔をあげた。動きがシンクロしたせいか、見上げた燎介が笑っている。
「馬子にも衣装のこいつの写真見せてやるから、よけいなこと言わないように」
「え、みるみる」
「ちょっ」
伸ばした手は難なく遮られて、この間撮った写真をスマホに保存してきていたらしくそれを渡されてしまう。
「また言った」
「にあってたって言ってんだからいいじゃん」
「へぇ…それさ。大学の本番初めて乗るときも、成人式の写真見たときも、言ったよね」
「節目節目で褒めてる。オレ、偉い」
「……」
「ねえ、志城さん、なんで寝癖ある写真が?」
「ああ。この人、寝坊してその頭できたから。そのくらい油断してられる関係ってことよねって証拠写真とった。その後直したけど」
「ただの笑い話のねたの証拠写真押さえただけだろうが、お前」
「いや、わたしより自分の方がネタにしてるからね?」
緊張感のないやりとりに笑いながら、笠井さんが見ている写真を、結局一緒に眺めてしまう。まあ…正直楽しかった。ドレスなんて、着る機会ないし。
「似合ってるね、ドレス」
「オレが選んだんだから当たり前」
「…いつものことながらその自信はどこから来るの?」
「なんでお前は自信がないの?」
顔を見合わせて、笑った。どうしようもないよね、と。
そうして、燎介が立ち上がる。
「遅くなるから帰るぞ、こより」
「ん」
じゃんけんで負けた燎介が運転手。
「終わってたと思ってたんだけどなぁ」
車に乗りながら呟くと、何が、と燎介が首を傾げる。
「『志城くん』への恋心」
「だから、終わってたんだろ」
にしちゃ、早くないか。焼け木杭って、そんなに早く火がつくからあんな風に一般的に言われるのか。
焼け木杭ですらないくらいに鎮火してると思ったんだけど。
ぐるぐるするのは、お酒のせいもある?
「強制起動したからな」
「強制終了じゃなくて?」
言い方が面白くて笑ってしまった。つられて笑う顔にさらに笑顔になるのがわかる。強制終了は、多分、終わらせた時。くすくす笑いがおさまらないでいると、呆れた声と一緒に手が伸びてきた。
首筋と耳に触れる手があったかい。
「ん…」
唇が重なって、離れていくのを目で追ってしまった。気がついていて、楽しそうに笑ってよこす。
「寝てていいぞ」
帰る先は、小さなわたしの部屋。
でも、再来週には、引っ越しをする。仕事場の最寄りが同じ駅だから、探すエリアが絞れるのはよかった。
家具を選んで、荷物を運んで…。
だんだん、生活する準備をしていく。
友達夫婦って、どんだけ色気ないのかなと思ったけれど。
傍目には、変わらないくらい色気のない友達状態らしいけど。
案外、甘やかされている自覚はある。
「りょうくん」
「ん?」
運転している横顔を見る。高速道路の灯りが顔を照らして明るいのと暗いのと、しましま。
「帰ったら、くっついていい?」
なんか、無言。
「許可とるな、あほ」
照れているらしい。楽しい。
多分、こんな感じで、夫婦やってくんだろな、と笑っていたら、頭をぐしゃぐしゃにされた。
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