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それにしても、と、目の前で紅茶を口に運びながら亜紗が含み笑いをする。
「あんたたち、面白いわ」
「面白がらんで」
目を逸らしてため息をつくと、止まらないようでそのまま笑っている。
「まあ、この間のは、想定されたやりとりだったけどね」
「亜紗、黙ってるんだもん」
「あんたの顔見るまで、知らないと思わなかったのよ」
みんなで集まった次の日。練習に行くと、知った顔ぶれがいっぱいいた。いや、知った顔ぶれなのは当たり前なのだけど、そういう意味ではなく。大学時代の仲間たち。思わず、のっとり!?と聞いて大笑いされた。
燎介が、知らない間に父に了解は取っていたらしいけれど。もともと、人が足りない楽器もあったりしたから、なんとなく、そのまま受け入れられたらしい。結婚祝いだと、みんな言っていたけれど。
「サプライズも続けば胃もたれするって言ってるのに…」
「そんなに続いてるんだ」
「まあ…結婚の話はそもそもだから別枠としても。うちの両親に挨拶きたのも、指輪も、婚姻届も。亜紗から部屋の鍵もらってきちゃったのもそうだし、みんなで集まることにしてきたのもそうだし」
「普通にそれ聞くだけだと、いい彼氏、なんだけどね」
「彼氏期間、ないから。そしてこれ、10日以内くらいで全部だから。満腹よ」
「あー。面白がられちゃってるから、諦めな?」
「諦めてはいる。でも、言いたいことは言う」
「あれはさ」
お互いのデザートのケーキをつつき合いながら、亜紗は面白そうに笑っている。
「練習に、最初に顔出したとき、燎ちゃん、皆木さんと笑吏さん、会ったでしょ?嫌だったみたいよ?」
「ん?どの辺?」
「自分がいない状況で、あんたが笑吏さんと顔合わせるのが」
「皆木さんじゃなくて?」
「何かしそうなのは、あっちでしょ」
否定できずにいると、また笑っている。それで、適当にグループメール流したら、思いの外人数が集まって、の結果だったらしい。結婚祝いも嘘ではないけれど、そもそもはそこなのだと。ただ、名前は出さずに、変なのいたら接触させないでおいて、とだけ言われたらしいけれど。遅刻していくから、後始末はするし、と。
後始末、が、驚かされたわたしの相手だというのは、すぐに分かった。
「ところで、その髪、きれいにまとまってるね。珍しい」
「ああ、志城がやってくれた」
「…は?」
あ、やっと亜紗が面食らった、と面白くなる。
「式はなし、で落ち着いたんだけど。写真だけは撮るぞって志城が言っててね。とりあえず衣装見に行った時に先方で簡単に髪をまとめてくれたんだけど、ほら、わたしの髪ってうまくまとまらないでしょ」
柔らかくて細くて、美容師さんもセットを頼むと苦戦しているような髪なのだ。もともとの癖はすぐに出るのに、いうこときかせようと苦戦した髪型は、ぼろっと簡単に崩れてしまう。
「妙に職人気質で、凝り性で、負けず嫌いでしょ。なんか、そこにこだわりを持ったらしくて。髪乾かしたりブラッシングしたりこうやってまとめたりしてくれるのは助かってる」
「あんたいい加減だもんね」
「不器用だからただ下ろしている以外できなかったもん」
「ふーん。似合ってるじゃん」
「だろ?」
不意に割って入った声に振り返って、笑う。
「仕事終わったの?」
「ああ。七瀬も車乗ってくだろ?」
「もちろん」
今日は、早めに仕事が終わるからと、今週も一緒に練習に行ってくれるらしい燎介が合流して。口を開けるから、残っていたケーキを突っ込んだ。満足そうにしてけど。
「ご飯食べたの?」
「ん?食った」
「わたしに言う割に燎くんも適当だよね」
「食ったって。大丈夫」
言いながら、今度は残っているわたしのコーヒーも飲んで、立ち上がる。せっかちめ。
慣れているわたしも亜紗も一緒に立ち上がって、会計に行こうとすると、店員さんの目配せで燎介を見上げる。
「…ゴチソウサマデス」
「なんで不服そうなんだよ」
「燎くんのくせに」
「なんだそれ」
面白がられている自覚はあるけれど、なんか悔しい。スマートなのがさらに悔しい。亜紗が自分の分は、と財布を出そうとすると、笑いながらわたしが頭をぐしゃぐしゃにされた。自分がやってくれた頭だからいいけどね。
「七瀬もいいよ。こいつの面倒、見てもらってるし」
「あんたに頼まれてのことじゃないからなんか、釈然としないんだけど」
「いやその前に、面倒見てもらう前提を…」
「そこはいい」
口を揃えて言われ、言い返す言葉を探す間に、ぽんぽんと言葉の応酬がされている。楽しそうだなぁ、と、気付けば眺めながらぐしゃっとなった髪を撫でていて、伸びてきた長い指が器用にやり直してくれる。凝りだすと満足いくまでやる志城は美容師か、と言うレベルでうまいと思う。少なくともわたしの髪に関しては。しかも、おかげでツヤツヤのさらさら。気分はいい。
「髪触られるの、気持ちいんだろ」
「ぐしゃぐしゃにするのは、別だよ?」
「それは昔から面白がってたろ」
「ぐ」
「オレが触り心地いいように整えてるんだから、他に触らせて手触り変わったら、怒るからな?」
「は?」
なんだろう、この理不尽な感じ。
ぽかんとしていると、隣で亜紗が吹き出していた。
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