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第4章 さいかい
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助手席のドアを開けられ、手にしていた荷物は無言で持っていかれ、そのまま乗せられて。
運転席でハンドルを握る翔をちらっとみれば、まあ、当然ながら機嫌が良いはずもなく。
目を逸らして、花音は胸の中で、あくまでも、胸の中でため息をついた。本当についたりしたら、絶対によろしくない。
「ため息?」
「へっ??」
だから思わず間抜けな声が出たのは、自分のせいではない。と、花音は思う。
「なんでそんな顔してるの?そこまで、オレに会うの、いやだった?喜ばれはしないだろうと覚悟してたけど、それでも傷つくんだけど」
「そんなかお?」
鸚鵡返しになる花音を一瞥し、また前に目を向け直して、翔の方はしっかりため息をついた。
「泣きそうな顔してる」
ああ、と、花音はどうしたものかと逡巡して。でも、そのまま言うしかないから。
「高嶺さんのせいじゃ、ないですよ」
「相変わらずかよ」
当たり前なのだけど、変わらない呼び方と話し方に、かえってほっとしてしまうのは、なんだか負けた気分だと思いながら翔はつい、突っ込む。
けれどすぐ、花音の様子に気づいた。
「花音?」
「少し前…数日前に、友だちが…」
堪えられない、というより、勝手に流れてしまう涙と、言葉にしようとすれば嗚咽に変わってしまうような様子で花音がごしごしと目を擦るのを見て、さすがに翔は慌てて車を脇に寄せて止めた。
「花音っ?」
泣きじゃくる子供のように、涙を堪える姿まで子どものように、ぐいっと、手の甲で目を拭って、花音は、困ったような笑顔をその泣き顔に重ねた。
「友だちが、死んじゃったんです」
「!!!」
(言っとけよ!!)
心の中の叫びは、弓削に向けたもの。
もともと黒っぽい服の多い花音が、黒い服なのは気にしなかったけれど、そういえば、先ほど花音を迎えに来ていた男たちも黒っぽい服だったと、そう言われてふと思う。
「さっきのって」
「家族の方に、さっきいた人たちがお願いしてくれて。今夜はこの後、お線香の番をさせてもらおうって。信じられなくて、信じるのがいやで、認めたくなくて、怖くて、お悔やみにも行けてなくて。でも、本当だから、行かないと。行って、みんなで怒らないと」
「お前…言えよ。さっき」
「言って聞いてくれる雰囲気、なかったですよ?」
思わず額をハンドルに当ててうなる。その通りだよ。そんな余裕、どこにもないよ。
ないけど
ないけどさ。
「場所は?」
「えーっと」
花音がスマホを見て、目を細めた。
「納得してもらえそうなら、コンビニまで行けば迎えに来てくれるそうです」
「そのコンビニまで、ナビして」
「仲、良かったのか?…って、良かったに決まってるよな」
そんなに、なるんだから。
少し走って問いかけて、我ながら愚問すぎてため息が出る。
「あー。仕事の時もこんなで、あの人たちに特に心配されてて」
「この間の、あの客も?」
「あれは違いますよ。あれは、高嶺さんが「こいつ気に入らん」って、思われただけです」
それはそれで、釈然としない。
「ほぼ毎日、メッセージでやりとりしてたのに…なんにも知らなかったんです」
「毎日?」
頷く花音に、どうしても我慢できなくて。
「男?」
当然、意図は花音も察して、肩を竦める。
「ですけど。わたしがシングルマザーみたいな既婚者って、知ってますから」
なんだそれ、と笑いたいのに笑えない。まさにそのとおりで。
「奴も、もともと奥さんいたし」
言葉の端々から、高嶺はこの数日の、花音を見つけてからのいろいろな言葉を思い出す。
『今日はどうだった?』
『元奥さん…この時は、奥さんか』
楽しそうに川遊びをしていた。
「隼人もいるのか?」
不意の問いかけに、花音は一瞬きょとんとして首を傾げる。その仕草に思わず翔は目を逸らし、運転に集中するような顔をしてごまかした。
「ああ、弓削さんのところで…。弓削さんのおかげで、あの映像、お宝ですよ。みんなにコピーして配らなきゃ…少し、落ち着いたら」
納得してそう言いながら、花音は目を真っ暗で外灯しか見えないような窓の外に向けた。
「隼人たちも、行ってますよ。子どもと同じレベルで遊んで、でもちゃんと大人で…うらやましいくらい、しっかりした奴なんです」
現在進行形で話す花音に苦しくなって、翔は片手を伸ばし、花音の髪をぐしゃりと握った。
花音が案内したコンビニに、隼人と、先ほど駐車場に来ていた青年が立っている。
車から降りる花音に、助手席の窓を開けて身を乗り出した。
「花音の家で、待っていたい」
「……」
「話したいし…そんな顔してる花音、他のやつに慰めさせたくない」
「なっ」
絶句して、そして表情がなくなるのをみて翔はふっと笑いそうになる。照れると、表情が消えるのだ。
「弓削さんに、うちの場所聞いてます?」
「聞いてない」
「…わかりました」
あいた窓から上半身を入れて、花音がナビを操作する。
「荷物、お願いしていいですか?高嶺さん」
「ありがとう」
運転席でハンドルを握る翔をちらっとみれば、まあ、当然ながら機嫌が良いはずもなく。
目を逸らして、花音は胸の中で、あくまでも、胸の中でため息をついた。本当についたりしたら、絶対によろしくない。
「ため息?」
「へっ??」
だから思わず間抜けな声が出たのは、自分のせいではない。と、花音は思う。
「なんでそんな顔してるの?そこまで、オレに会うの、いやだった?喜ばれはしないだろうと覚悟してたけど、それでも傷つくんだけど」
「そんなかお?」
鸚鵡返しになる花音を一瞥し、また前に目を向け直して、翔の方はしっかりため息をついた。
「泣きそうな顔してる」
ああ、と、花音はどうしたものかと逡巡して。でも、そのまま言うしかないから。
「高嶺さんのせいじゃ、ないですよ」
「相変わらずかよ」
当たり前なのだけど、変わらない呼び方と話し方に、かえってほっとしてしまうのは、なんだか負けた気分だと思いながら翔はつい、突っ込む。
けれどすぐ、花音の様子に気づいた。
「花音?」
「少し前…数日前に、友だちが…」
堪えられない、というより、勝手に流れてしまう涙と、言葉にしようとすれば嗚咽に変わってしまうような様子で花音がごしごしと目を擦るのを見て、さすがに翔は慌てて車を脇に寄せて止めた。
「花音っ?」
泣きじゃくる子供のように、涙を堪える姿まで子どものように、ぐいっと、手の甲で目を拭って、花音は、困ったような笑顔をその泣き顔に重ねた。
「友だちが、死んじゃったんです」
「!!!」
(言っとけよ!!)
心の中の叫びは、弓削に向けたもの。
もともと黒っぽい服の多い花音が、黒い服なのは気にしなかったけれど、そういえば、先ほど花音を迎えに来ていた男たちも黒っぽい服だったと、そう言われてふと思う。
「さっきのって」
「家族の方に、さっきいた人たちがお願いしてくれて。今夜はこの後、お線香の番をさせてもらおうって。信じられなくて、信じるのがいやで、認めたくなくて、怖くて、お悔やみにも行けてなくて。でも、本当だから、行かないと。行って、みんなで怒らないと」
「お前…言えよ。さっき」
「言って聞いてくれる雰囲気、なかったですよ?」
思わず額をハンドルに当ててうなる。その通りだよ。そんな余裕、どこにもないよ。
ないけど
ないけどさ。
「場所は?」
「えーっと」
花音がスマホを見て、目を細めた。
「納得してもらえそうなら、コンビニまで行けば迎えに来てくれるそうです」
「そのコンビニまで、ナビして」
「仲、良かったのか?…って、良かったに決まってるよな」
そんなに、なるんだから。
少し走って問いかけて、我ながら愚問すぎてため息が出る。
「あー。仕事の時もこんなで、あの人たちに特に心配されてて」
「この間の、あの客も?」
「あれは違いますよ。あれは、高嶺さんが「こいつ気に入らん」って、思われただけです」
それはそれで、釈然としない。
「ほぼ毎日、メッセージでやりとりしてたのに…なんにも知らなかったんです」
「毎日?」
頷く花音に、どうしても我慢できなくて。
「男?」
当然、意図は花音も察して、肩を竦める。
「ですけど。わたしがシングルマザーみたいな既婚者って、知ってますから」
なんだそれ、と笑いたいのに笑えない。まさにそのとおりで。
「奴も、もともと奥さんいたし」
言葉の端々から、高嶺はこの数日の、花音を見つけてからのいろいろな言葉を思い出す。
『今日はどうだった?』
『元奥さん…この時は、奥さんか』
楽しそうに川遊びをしていた。
「隼人もいるのか?」
不意の問いかけに、花音は一瞬きょとんとして首を傾げる。その仕草に思わず翔は目を逸らし、運転に集中するような顔をしてごまかした。
「ああ、弓削さんのところで…。弓削さんのおかげで、あの映像、お宝ですよ。みんなにコピーして配らなきゃ…少し、落ち着いたら」
納得してそう言いながら、花音は目を真っ暗で外灯しか見えないような窓の外に向けた。
「隼人たちも、行ってますよ。子どもと同じレベルで遊んで、でもちゃんと大人で…うらやましいくらい、しっかりした奴なんです」
現在進行形で話す花音に苦しくなって、翔は片手を伸ばし、花音の髪をぐしゃりと握った。
花音が案内したコンビニに、隼人と、先ほど駐車場に来ていた青年が立っている。
車から降りる花音に、助手席の窓を開けて身を乗り出した。
「花音の家で、待っていたい」
「……」
「話したいし…そんな顔してる花音、他のやつに慰めさせたくない」
「なっ」
絶句して、そして表情がなくなるのをみて翔はふっと笑いそうになる。照れると、表情が消えるのだ。
「弓削さんに、うちの場所聞いてます?」
「聞いてない」
「…わかりました」
あいた窓から上半身を入れて、花音がナビを操作する。
「荷物、お願いしていいですか?高嶺さん」
「ありがとう」
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