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懐かしのヴィルヘルム
見習い料理人、海賊船に拾われる
しおりを挟む「──いやぁ、ビビっちまったよ」
そう言ってカラカラと豪快に笑っているのは、小麦色の肌をした背の低いエルフの少女──
ではなく、ロロネー海賊団の船長、ソニア・ロロネーだった。
「まさかあんたらが、こんなところで浮かんでるなんてね」
そんなソニアの視線の先には、ずぶ濡れになったガレイトたち。
一行は、海上を遭難しているところを、通りがかったソニアの船に拾われていた。
ガレイトはずぶ濡れのまま立ち上がると、ソニアに頭を下げた。
「助かった。この礼は必ず──」
ガレイトは言いかけて口を閉じると、頭を振って、もう一度ソニアを見た。
「……いや、助かりました。ソニアさんたちがいなければ、今頃どうなっていたか。この礼は──」
「おや、なんだい。いまさら他人行儀だね」
「え?」
「べつに口調まで変える必要はないのに。普通でいいんだよ、普通で」
「いえ、そういうわけには……」
「ガレイトのにいさんは、あたいらを見逃してくれた。あたいらはあんたらを助けた。これで貸し借りなしだろ?」
「……はい、貴女が言うのでしたら……」
ソニアが肩をすくめる。
「貴女っつーのも悪かないんだけどさ、むず痒いからソニアでいいよ」
「あー……、ありがとう、ソニア……」
「──逆に私の事は〝あなた〟でいいですよ、ガレイトさん」
突然、二人の横から茶々を入れるイルザード。
「……おまえは黙っていろ」
「わかりました。あ・な・た」
「チッ……」
ガレイトが頭をガシガシと掻きながら舌打ちをする。
「はっはっは、どうやらそっちのお嬢さんはまだ元気そうだね」
ソニアに〝お嬢さん〟呼ばわりされて気を悪くしたのか、イルザードが、ムッと口をへの字に曲げる。
「……だが、どうしてソニアたちは、こんなところに?」
「うん?」
「たしかあのあと、グランティ近海へと戻ったのではなかったか?」
「おおっと、そうだったね。大丈夫、また海賊やってるわけじゃないから、安心しなよ」
「そうなのか? では、なぜ──」
「あれ? そういえば、あんたらだけかい?」
「……なにがだ?」
「あんたたちの他にも、海賊崩れとかいたろ? あいつらはどこ行ったんだい」
「ああ、色々あってな……はぐれてしまったのだ。おそらくは大丈夫だと思うのだが──」
「はぐれた……?」
ガレイトはサキガケの顔を見ると、首を振ってソニアに向き直った。
「まあ、いろいろあってな……」
「ふぅん、なるほどね。……ちなみに、あたいらがここにいるのも、それが理由」
「それ……とは、やはりイケメ……ではなく、元海賊の人たちか?」
「そ。ガレイトのにいさんたちが乗ってた、その船、海賊崩れのロクデナシ共を監視するためだったんだよ」
「監視? ……必要ないだろ、だって、あの方たちは──」
「ちょっと、ガレイトさん、忘れたんですか?」
「なにをだ」
「私、セクハラ……もとい、性的なアレコレされかけたんですよ? ずっと思ってましたが、気安すぎますってば。もっと警戒すべきです。ティム殿がいらっしゃるのはわかりますが、ブリギット殿もおられるのですから、少しは……」
「だが、返り討ちにしたのだろ?」
「それは……まあ、そうですけど……」
「それも、必要以上に」
「う……」
「なら、もう身に染みているだろう。イケメンさんも心を入れ替えたと言っていたしな」
「ですが──」
「ガレイトのにいさん。海賊に良いも悪いもないよ」
ソニアがふたりの会話に口を挟む。
「そこの嬢ちゃんが、たまたま腕っぷしが強かったから未然に防げたものの……」
「ム」
眉をひそめてソニアを睨むイルザード。
「他にも被害に遭ってる子たちはいたかもしれない」
「それは……」
「そんなやつらが、同胞……もとい、ブリギットと一緒にいるんだ。危険なのは変わりない。嬢ちゃんの言いたいことも汲んでやりな」
「ふむ、そう……だな。たしかにソニアの言うとおりだ。……わるかった、イルザード。頭ごなしに否定しすぎた。これからは警戒する」
「え? ……い、いやぁ、いいっすよ! べつに! なっはっは!」
大袈裟に笑ってみせるイルザードだったが、やがて肩を落とし、ため息をつく。
「……はぁ、調子狂う……」
イルザードは誰にも聞こえないトーンで呟いた。
「どのみち、海賊なんて名乗る輩なんだ。気軽に信用していいもんじゃない。──もちろん、あたいらもね。こうやって、にいさんたちを助けた風を装っちゃいるが、腹の底じゃ何考えてっかわかんないからね!」
腰に手を当て、からからと陽気に笑うソニア。
「……とにかく、もうここにあいつらがいないんだったら、それでべつにいいさ」
「──ね、おかしら」
部下のひとりがソニアに耳打ちをする。
「あのこと、ガレイトさんたちには言わなくてもいいんですか?」
「うん? あー……そうだね、ま、いちおう伝えとくか」
「……うん? なにか、言いたいことでもあったのか?」
「まあね。あのロクデナシ共の監視……とはべつに、もうひとつここに来た理由があるんだよ」
「理由? まだあったのか?」
「そう。じつはここら辺にね、立ち寄った船を帰れなくする魔の海域があるんだよ」
「魔の……海域……?」
「そう、そこへ入ったら最後。妙な流れに捕まって、二度と出ることは出来ないんだとさ」
「……ガレイトさん、それって……」
「ああ……」
「監視の子が、あんたたちの船がそこに近づいてるって言ってたから、にいさんの顔を見るついでに、警告のひとつでも──」
「ソニア」
「ん、なんだい? まだ話の途中なんだけど」
「……なあ、ソニア。それってもしかして、流され島のことか?」
「はて、流され島? ……あんた知ってるかい?」
ソニアは後ろに控えていた部下に尋ねる。
「ガレイトさん、もしかして色々な呼び方があるのでは?」
「かもな。……なぁソニア、おそらく、君の言っている魔の海域というのは、たぶん俺たちの行った流され島だと思う」
「はー……、そうなの?」
「おそらくな」
「それとはまた違う可能性は考えられませんかね?」
「……いや、グランティ近海に、そんなものが多数存在していたら一大事だろ」
「たしかに」
「へぇ……ていうか、知ってたんだね、にいさんたちは。それとも、あのロクデナシ共から聞かされてたのかい?」
「いや、そうではない。今しがた、実際にそこから出てきたところなんだ」
「ふうん? なるほど、そこから……は?」
そう言って固まるソニア。
キョロキョロ。
右後ろを見て、左後ろを見て、改めてガレイトの顔を見たソニアは──
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
団員たちと一緒に、大声をあげて驚いた。
「あんたら、あの海域から出られたのかい!?」
「まぁ、なんとかな」
「驚いた……あのロクデナシ共にゃ、あそこを抜けられる技術も勘もなさそうだし……もしかして、ガレイトのにいさん、あんた操舵も出来るのかい?」
「いや、悪いがからっきしだ。だから──」
「へへ、ぼくがおじさんたちをたすけたんだよ!」
でん。
と胸を張って、ガレイトの前へと躍り出るカミール。
「この子に助けてもらっていたんだ」
「ほぉー……、見ない顔だと思ったが、新人かい?」
「シンジンじゃない、カミールだ」
「はぁ……こんなボウズがねぇ……」
「ボウズじゃない! カミールだ!」
ソニアと団員たちが、興味深そうにカミールを取り囲む。
「あ、かわいい」
「む、髪が長いから女の子だと思ったが、男の子だったのか」
「すごいじゃん、カミール」
「えらいね、カミール」
「へ?」
わいわい。
海賊の面々はそう言うと、あっという間にカミールの周りを取り囲んだ。
皆、頭を撫でたり、ほっぺをつねったり、とにかくカミールをもみくちゃにしている。
「や、やめ……、やめろー!!」
「あ、怒った」
カミールが大声をあげて怒ると、皆、名残惜しそうに離れていった。
「……というか、知っていたのだったら、事前に教えてくれればよかったろ」
イルザードが責めるような視線でソニアを見る。
「ん? そりゃ、あえて言うまでもないと思ったんだよ」
「なぜだ」
「うん? なぜって……ここらへんの船乗りにとって常識みたいなもんだしね。──というより、絶対、不注意だったんだろ? 大方、酒かなんか飲んでて、酔っぱらって、ぐでんぐでんになりながら操舵してたんだろう?」
ソニアに言い当てられると、イルザードは口惜しそうにガレイトを見上げた。
「……どうしましょう、ガレイトさん」
「なにがだ」
「見透かされてます」
何も答えず、はぁ、とため息をつくガレイト。
「ところでソニア、ひとつ頼みたいことが──」
ガレイトが言い終えるよりも先に、ソニアが手をあげて、それを制す。
「みなまで言わなくてもいいよ」
「では──」
「ああ、乗っていきな!」
ガレイトたちが、嬉しそうに顔を見合わせる。
「約束したろ? それに、にいさんに略奪も禁止されて、あたいらも暇してんだ。……運んでってやるよ、ヴィルヘルムのあるゲイル大陸まで!」
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