史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

枯井戸

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懐かしのヴィルヘルム

見習い料理人と阿鼻叫喚の港

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 ゲイル大陸の玄関口でもある、ボトリング港。
 ……からすこし、離れた場所にあるボトリング港。
 毎日、明け方から昼頃にかけて市場が賑わうこの港に──


「うわあああああああああああああああ!!」
「海賊だあああああああああああああああ!!」
「海賊が来たぞおおおおおおおおおおおおお!!」
「逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 人々の悲鳴と怒号が飛び交っていた。そんな人々の視線の先にはガレイトたち。
 一行はそんな人々を尻目に、申し訳なさそうに、阿鼻叫喚の港へ降り立った。
 やがて、ガレイトたちは振り向くと、船を見上げ、ソニアの顔を見る。


「な、なんか、すまんな」

「いいんだよ。港湾じゃ警備が厳しいから、近くの漁港に停泊しようと提案したのはあたいらだからね」

「そうか……」

「……ま、けど、そのお陰で……」


 ちらり。
 ソニアがガレイトの近く──
 魚のエラに引っ掛ける道具、手鉤を構えていた男を見る。


「ひ、ひぃぃいいいいいいいいいぃぃぃ!?」


 男はそんな声をあげると、持っていた短剣を放り捨ててそのまま逃げ去った。


「なんだか、えらい騒ぎになっちゃったねぇ……」

「なんというかまあ、ここの人たちの反応も、大袈裟な気がするがな……」

「なに言ってるんですか、ガレイトさん。海賊なんて、どこ行っても歓迎されませんよ。こうなってしかるべきです」

「ふむ、そういうものか……」


 イルザードがそう言うと、ガレイトが小さくうなずく。


「やれやれ。ほんとは美味い魚でも食べて、観光でもしたかったところだが……こりゃ、早く帰ったほうがよさそうだ」


『そ、そんなあ』
『新鮮な魚、食べたかった……』
 ソニアの後ろから、団員たちの落胆の声が聞こえる。


「……そうだな。助けてもらっておいてなんだが、せめて帆だけでも普通の物に変えたほうがいいかもな」

「はぁ……もうやめようかね、海賊」


『えええええええええええええええ!?』
 ソニアの後ろに控えていた海賊たちが、驚きの声をあげる。


「それもいいかもしれん。目的はあくまで、奴隷エルフの保護なのだろう? なら、べつに海賊にこだわる理由もない気がするが……、事実、やっている事自体は素晴らしいし、それに賛同してくれる人もいるだろう。ここか、セブンス王国にかけあえば、それなりにいい待遇ももらえるんじゃないのか?」


『たしかに』
 ソニアの後ろに控えていた海賊たちが、納得したような声をあげる。


「ちょいと、なに納得してんだい、あんたら。さっきのは冗談だからね?」


『ほ……』
 ソニアの後ろに控えていた海賊たちが、安堵の息を漏らす。


「……だが、なにか、海賊にこだわる理由でもあるのか?」

「いや、そりゃあ、ほら、あるに決まってるじゃないか」

「……ちなみに、その理由を訊いていいか?」


『カッコイイから!!』
 ドン!
 今度はソニアを含めた、海賊全員が声をあげた。


 ◇


 ボトリング漁港。
 その船着場から、ソニアたちが乗った船がどんどんと遠ざかっていく。
 ひととおり挨拶を済ませた一行は、人っ子ひとりいなくなった港に目を向けた。


「さて、拙者たちも早速、向かうでござる」

「そうですね。では、行きましょうか……」


 ガレイトはそう言うと、全員(イルザード以外)分の大荷物を担ぎ、先導するように歩き始めた。


「……たしかこの近くに、定例会に使用される議事堂があるのでござろう?」

「はあ?」


 それを聞いた途端、イルザードは眉を顰め、口を半開きにして、心配するようにサキガケを見る。


「な、なんやねん、その顔……」


 サキガケが口を尖らせて、恥ずかしそうにイルザードを見る。


「さっきまで何を聞いて……いや……なんというか、よかったな、私たちがいて……」

「ぐぬっ!? ……ま、まあ、それについては、感謝してるでござるが……」

「──イルザード。いくらサキガケさんが方向音痴だからって、言い方があるだろ」

「さーせん」

「がれいと殿ぉ……、ふぉろーになってないでござる……」

「す、すみません。……話を戻しますが、サキガケさん、ここはまだヴィルヘルムではないのですよ」

「あ、そうなのでござる?」

「はい。ここはゲイル大陸の玄関口、そしてヴィルヘルム帝国の隣国であるミラズール、そのボトリング領内の漁港なのです」

「ふむ、ミラズール……あっ、なんか、聞いたことがあるでござる!」

「いちおう、ミラズールもそれなりの国なのだがな……」


 イルザードが小さく、誰にも聞こえないようなトーンで呟く。


「俺たちはこの国を突っ切って、ヴィルヘルムへと向かう……のではなく、国境沿いをぐるりと回るようにして、ヴィルヘルムを目指します」

「ニン? なぜ、そのような面倒を?」

「あー……」


 ガレイトが言いづらそうに、イルザードに目配せをする。
 イルザードはそれに対し、軽く肩をすくめてみせた。


「言っても問題ないでしょう。有名なことですし」

「……じつはですね、サキガケさん。仲が悪いのですよ」

「仲?」

「ヴィルヘルムとミラズールの仲です」

「あっ……隣国特有のいさかいってやつでござるな?」

「い、いえ、国民同士はそうでもないのですが……」

「うん? どういうことでござる?」

「国王……ミラズール王側から、一方的に目の敵にされていているんですよね」

「……なぜでござる?」

「それは理由があって言えませんが……加えて、俺の……俺の……」


 ガレイトが言いかけて、カミールを見る。


「おじさんが、どうかしたの?」

「あー……いや、俺ではなく、イルザードはヴィルヘルム・ナイツの隊長格だろ?」

「そうでござるな」
「そうだね」


 サキガケとカミールが同時にうなずく。


「隣国ということもあり、面も割れているので、無用ないざこざが起きるのを避けるために、あえて我々は目立たない陸路を往くのです」

「なるほど。でも、陸路……国境沿いのほうが、色々と厳しいのでは? 警備とか……」

「それは問題ありません」

「ん? そうなのでござる?」

「はい。さきほども言いましたが、国民自体はそうでもないのです。ただ、国の中央へ行けば行くほど、その……なんというか……」

「──面倒くさいやつ・・・・・・・も増えてくるんだ」


 ガレイトの言葉を代弁するように、イルザードが言い放つ。
 ガレイトはため息をつくと、イルザードをなじるように見た。


「おい、イルザード、おまえはもう少し、歯にを着せろ……」

「周りにミラズールの人間はいませんし、大丈夫でしょう」

「あのな……俺が言っているのは──」

「ふむ、なるほど。つまり、国境警備をしている者は話が通じるので、国をまっすぐ突っ切るよりも、すんなり移動できる……と」

「は、はい。……理解がはやくて助かります」

「なにやらのっぴきならない・・・・・・・・事情がありそうでござるな」


 サキガケがそう言うと、ガレイトは苦々しく笑う。


「そ、そうですね……色々ありますね……」

「ん、承知したでござる」


 理由を話さないガレイトを見て、サキガケはそれ以上何も尋ねずにうなずく。


「ですから、道はわかるので、はぐれずについてきていただければ……」

「ニン。……まぁ、最初からのそのつもりでござるが……ははは……」


 こうしてガレイトたちは、ゆっくりとミラズール国境沿いを北上していった。
 ガレイトの言うとおり、ミラズールの端。
 そこの役人や領主、警備兵のほとんどは友好的で、とくに大きな問題は起こらなかった。
 道順も熟知しているということもあり、一行はやがて、ヴィルヘルムの国境付近。
 その検問所にたどり着いた。
 そして──
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