賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~

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初恋 ~レブランドSide~

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 レブランドSideは三話ほどになります!

 ~・~・~・~・~・~
 
 『鬼神』

 ひとたび戦場に出ればその手で数多の命を奪い、ひと振りで猛獣すらもなぎ倒すと恐れられるジグマリン王国騎士団長レブランド・パッカニーニ。
 それが私だった。
 普段から口数が少なく巨漢。獅子のたてがみのような無造作な黒髪、切れ長の目……炎を思わせるオレンジの瞳。
 どれを取ってもそこにいるだけで人々からは恐怖の目を向けられる。
 しかし公爵家にすり寄る貴族派も多く、私が15歳の時に父上が戦死し、すぐにパッカニーニ公爵家の当主になってからは辟易する毎日。
 母上は父上の死後、すっかり気落ちしてしまい、一年も待たずに儚い命を散らせた。

 ■■■

 「レブランド!そろそろ私との婚約、考えてくれた?」
 「……その事は何度も断ったはずだ」
 「もう!私のお父様も早くあなたを連れて来なさいってうるさいの」

 夜会に出ると必ず声をかけてくる目の前の女性は、ヴェローナ・ザックハート。
 私の幼馴染だ。
 伯爵家の一人娘であり、私の祖父が彼女の祖父と親友で子供同士を結婚させたいという約束をしていたのだとか。
 幼い頃より聞かされ、最初はそういうものだと思っていたかもしれない。
 しかし年を重ねるにつれて彼女の我が儘、ヒステリックな性格、そして重い執着に彼女自身を好きになれず。
 本人にも伯爵家にも断り続けていた。
 積極的に戦場に行くのも、彼女との関わりをなくす為だ。
 伯爵家は了承してくれたにも関わらず、ヴェローナはいくら断っても諦めないので、年齢を重ねてしまえば彼女も他の男性と出会い、自分の事を愛してくれる男のところへ行くだろうと。
 しかしここまで言っても諦めないとは、頭が痛い。

 「ねぇ、今度一度だけでも我が家に来てくれない?」
 「それは出来ない。毎回キッパリと断っているはずだ。君の御父上にもそう伝え、すでに了承してくれている」
 「レブランド!」
 「失礼」
 「酷い……うぅっ……レブランド…………っ」

 そして最後にはこれだ。泣き始める。
 しかも夜会で、これほど大勢の人の前で。私の立場などお構いなしの振る舞いにあきれ果て、女性自体が嫌いになってしまいそうだった。
 
 「可哀想なヴェローナ様」

 だんだんとそんな噂がまことしやかに広がり、私はますます戦場へと赴くようになり、鬼神としての名を馳せていく事になる。
 それでもよかった。
 私を恐れる者が増えれば、面倒な結婚話などやってこないだろう。
 
 しかし運命の出会いは突然やってくる。
 
 建国祭の時、ルシェンテ王国からやってくる王太子殿下と王女殿下の護衛という重大任務を我が国の王太子殿下から仰せつかり、私たち騎士団は緊張感に包まれていた。
 実際の護衛は部下たちの務めだったが、遠目から見ただけでもルシェンテ王国の王族の美しさに皆が見惚れていた。
 特に王女殿下は、その美しさで貴族男性の視線を独り占めしている。
 紫水晶の瞳に綺麗な弧を描いた大きな目、サンドベージュの艶やかな髪を緩く巻き、小柄で控えめな可愛らしい女性だ。
 なぜだ。目が離せない。彼女の周りだけ時間が止まっているかのようだ。
 しかし王女殿下とはまるで視線が合わない。
 常に俯きがちで、男を誘う素振りを全く見せないところも新鮮だった。
 
 皆が挨拶をしている中、具合が悪くなったというので外に出ようとするカタリナ王女に声をかける。

 「外に出るのなら護衛として付いて参りましょう」
 「いえ、結構です。大丈夫ですのでお気になさらず」
 「いや、しかし……」
 「本当に大丈夫です。ほんの少し外の空気を吸いたいだけですので」

 カタリナ王女は頑なに申し出を断り続け、足早に去っていってしまった。
 こんな事は初めてだ。
 呆気に取られる私のもとへ、我が国の王太子デュロメオ殿下がやってくる。

 「ははっ。鬼神相手でも全くブレないな。面白い王女殿下だ」
 「きっと急いでいたのでしょう」
 「いや、しかし見事なフラれっぷりだったな!」
 「っ……、護衛しに行って来ます」

 殿下のあの顔は絶対に面白がっている。
 私とデュロメオ王太子殿下は年齢が近く親しい友人同士でもあるので、こうして気安く冗談を交えて話すが、時々私の心を見透かすような言葉を言ってくるのでドキリとする。
 確かに私はあの王女殿下の存在が気になっているが――――あくまで今まで見た事がない人だという認識だ。
 そう言い聞かせて王女殿下の行方を探すと、ガゼボでひと息ついている姿を見つける。
 一人になりたいと言っていたな。
 邪魔しないように生垣の影に隠れて待機する事にしよう。盗み聞きは絶対にしないと心に誓いながら。
 しかしすぐにその誓いは破られる。

 「きゃっ!ど、どなたでしょうか……?」
 
 カタリナ王女の悲鳴を聞き、生垣の影から覗き見ると、チーフモア伯爵令息のモンテストが王女の前に姿を現したのだった。
 どこに潜んでいたのだと感心してしまうほど気配を感じなかったとは。
 このまま王女の説得で下がればいいが……しかし私の願いも虚しく、やはりカタリナ王女の美しさに当てられたモンテストは、王女に詰め寄っていく。
 我が国の恥晒しが。許せぬ。
 この時はそういう気持ちだった。

 「パッカニーニ公爵閣下……助けていただき感謝いたします。大変助かりましたわ」

 小さく可憐な花が綻ぶような笑顔で、私に礼を述べてくるカタリナ王女。
 先ほどまでモンテストに大剣を突き付け、鬼の形相で迫っていた相手にそのような笑顔を向けるなど信じられない。
 我が国の者が不敬を働いたにも関わらず、謝罪する私に怒りを見せるどころか「少しお話相手になっていただけませんか?」と言うのだ。
 
 「……私が怖くはないのですか?」
 「ふふっ。助けていただいた相手が怖いだなんて、あり得ません」

 その心根の清廉さに、もはや自分の気持ちを認めるしかなかった。
 王宮ではまるで視線が合わなかったのに、今この時、彼女の瞳に映っているのが自分だけである事が嬉しい。
 カタリナ王女からダンスの申し出を受け、この上ない喜びで胸が満たされ、王宮からのわずかに聞こえる音楽に乗ってステップを踏んだ。
 
 「凄い……!私が何もしなくてもダンスになっていますわ!」

 頬を染めながら楽しそうな姿に、滅多に笑わない私の表情筋が緩んでいく。
 可愛いな。王女なのに少しも気取ったところがない。
 私相手にも敬語を使い、慎ましやかで……この世界にこのように可愛い女性がいたとは。
 今の私の表情をデュロメオ王太子殿下に見られたら、またからかわれてしまうだろう。
 でもそれでもいい。この時間に浸っていたい――――
 
 しかしルシェンテ王国の王太子殿下が迎えに来た事で、夢のような時間は終わりを告げる。
 それでも私の心に確かに根付いた気持ちは消す事など出来ない。
 隣国の王女へ縁談を申し込むべく、デュロメオ王太子殿下に許可をいただきに王宮へと向かった。

 「それは承諾したくはないところだな」

 すぐにキッパリと断られ、理由を尋ねた。
 
 「なぜです?」
 「私が申し込もうと思っていたからだ」
 「なっ……なぜ!」
 「なぜも何も祝宴で申していたではないか、面白い王女殿下だと」
 「まさか、殿下もカタリナ王女の事を……?」

 私の問いに殿下は答えなかった。
 それはすなわちそうだと言う事だ。まさかこのようなところにまでライバルがいたとは。

 「不思議な事ではない。あの祝宴では我が国の多くの貴族令息が王女殿下を見初めていた。実際に私のもとへ縁談の許可をもらいに来たのはそなただけではないのだ」
 「………………」
 
 それほどまでに……しかし殿下が申し込まれるなら即座に決まってしまうだろう。
 王太子殿下は見目麗しいお方だ。
 プラチナ色の美しい髪、鍛えられておりながらもスラリとした肢体。
 国王陛下の補佐としての仕事も引き受け、すでに次期国王としての手腕も目を見張るものがある。
 縁談など引く手数多。
 私に勝ち目などない。
 しかし――――

 「私に一度だけチャンスをいただきたいのです」
 「ほう……何をする気だ?」
 「おそらくカタリナ王女のもとへは多くの縁談が来ている事でしょうし、もう決まっている可能性もありますが……」
 「そうだな、あの国はトップが暗愚で小国だが資源大国だ。繋がりを持ちたい国は腐るほどある。我が国も例外ではない」
 「もし私が縁談を申し込み、一カ月以内に承諾の返事が来ましたら、殿下には諦めていただきたい」

 私の言葉に殿下は目を丸くし、すぐに表情を崩した。

 「はっはっはっ!そなたがそこまで必死な姿を初めて見たぞ!面白い、その賭けに乗ってやろうではないか。もし良い返事が来なければ諦めろ。そして私が申し込む」
 「仰せの通りに」

 殿下との話がまとまり、すぐに縁談の申し込みの手続きをおこなった。
 その返事は一カ月間ギリギリまで返ってはこなかったので、胃がキリキリするような日々を送る事となった。
 しかし最後の最後に承諾の返事が来て、私は邸の執務室で一人歓喜する。
 今まで感じた事のない幸せな気持ちに包まれながら、邸の者に指示を出し、すぐに迎え入れる準備を始めていった。
 
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