賭けから始まった偽りの結婚~愛する旦那様を解放したのになぜか辺境まで押しかけて来て愛息子ごと溺愛されてます~

Tubling@書籍化&コミカライズ

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四年半ぶりの

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 「かぁさま、おいしいね!」
 「ふふっ。そうね。あ、お口についてるわよ」
 「んむぅ」
 「うふふっ」

 口回りについたソースを拭いてあげると、アルジェールの口から可愛らしい声が漏れた。
 毎日、ずっと見ていても飽きる事はない。
 この子の存在のおかげで、今の私がある。
 
 愛する息子とリイザさんの息子のラルフと一緒にサンドイッチを頬張りながら、騎士団がやって来る日はいつなのかとか色々と考えを巡らせていた。
 騎士団のメンバーと会うのも避けたいくらいなのに……もし結婚式の時の私を覚えている方がいたらバレてしまう。
 そしてレブランド様に報告されてしまうかもしれない。
 私の事は構わないにしてもアルジェールの事だけは知られたくはなかった。
 私とレブランド様の間に生まれたこの子の存在を知れば、どうなるか――――
 
 「かぁさま、これもあげる!」
 「ありがとう。アルは優しい子ね」
 「んふふっ。かぁさま、だいしゅき!」
 「私も大好きよ。愛してる」
 「おいおい、俺の存在をすっかり忘れて、二人でイチャイチャするなんて妬けるなぁ」
 「やける?パンやくの?」

 ラルフの言葉を勘違いしたアルジェールが、完全にパンを焼くと思っているのか顔を輝かせている。

 「アルは本当にパンが好きね」
 「ラルフのパンすきぃ!」
 「あははっ!ありがとう、アル」

 私の天使。
 穏やかな日常。
 レブランド様の話を聞いた時、一瞬ここから逃げる事も考えたけれど、アルジェールへの負担とこの村には多大なご恩がある事を考え、何も言わずに去る事は出来ないと考え直した。
 それにこんな辺境に王国の騎士団が足を運ぶとも思えない。
 油断はしてはいけないと思いつつ、少しの間だけやり過ごせばいいのだから。

 「よし、じゃあ沢山食べたからしっかり昼寝するんだぞ」
 「あい!」
 「ありがとう、ラルフ」
 「礼なんていいんだよ。じゃあ店に戻るから」
 「ええ。寝かしつけたら私も店に戻るから」

 ラルフは手を振りながら部屋を出て行ったのだった。

 「アルはラルフと仲良しね」
 「ラルフ、にぃちゃだといいなぁ」
 「お兄ちゃんか……あなたがそう言ってるのを知ったらきっと喜ぶんじゃないかしら」
 「ほんと?!わーい」
 「ほらほら、興奮すると眠れなくなるわよ」
 「あい!」
 「まったくもう……」

 そんな可愛い返事で誤魔化そうとしたって……何でも許してしまいそうになるわね。
 こんな風に健やかに育ってくれた事を神に感謝したい気持ちだ。 
 私はアルジェールをお布団に寝かせ、子守歌を歌いながら、彼の背中を撫でた。
 ゆっくり、ゆっくり撫でていき、だんだんとアルジェールがウトウトし始めてくる。
 眠りに落ちそうになりながら、ふとアルジェールが呟いた。

 「かぁさま……とうさまは、どこにいるの?」
 「………………」
 「どうして、ぼくのとうさま、ないないの……」
 「アル、とうさまはね……」
 「ぼくもとうさま、ほしぃ――……」

 そのまますぐに眠りに落ちてしまったようだ。
 ごめんなさい、アルジェール。
 あなたのお父様はとても素晴らしいお方で、素敵な方で、私には勿体ない方で……だからこそ一緒にはいられなかった。
 レブランド様には結婚する予定だったヴェローナ様がいらっしゃったから。
 あの邸では私こそが邪魔者だったのだもの。
 いつかは会わせてあげたい。でも今は……もしこの子の存在が見つかれば、きっと公爵家にとって面倒事が増えてしまうでしょう。
 レブランド様とヴェローナ様との間に男の子供がいて、アルジェールが後継ぎ争いに巻き込まれる事になるのは避けたい。
 彼に子供がって考えると未だに胸が痛むけれど……もう忘れないといけないのに。
 私にはアルジェールがいる。
 最悪命を狙われる事になったら、この身に代えてもこの子だけは守るわ。
 とにかく騎士団がこの国にやって来たら数日間、パン屋をお休みさせてもらって自宅にこもっていよう。
 そう思っていた。

 アルジェールと共にうつらうつらしている私の耳に、外から村人の声が聞こえてくる。

 「お――い!ジグマリン王国からの騎士団がやってきたぞ!!」
 「?!」

 すぐに目が覚め、窓から外を眺めた。
 村人の男性が皆に知らせるように手を振り、村の入り口付近を見ながら興奮している。
 どうして――――本当にこんな辺境の村に、王国の騎士団が?!
 ふと振り返るとまだアルジェールは眠りに就いたばかりという事もあって、スヤスヤと眠っている。
 ホッと胸を撫でおろし、足音を立てないように部屋を後にした。
 階下に下りていくと、店の中にいる人々も騎士団の登場に物凄く興奮している。

 「カタリナちゃんも見に来たのかい?騎士様たち凄いカッコいいよ!」
 「え、ええ。そうですね」

 近くにいたマージュさんというおばさまが興奮気味に声をかけてくれた。
 私はすっかり動揺してしまって、声が上ずってしまう。
 
 「ちょっと外へ見に行こうよ!」
 「え?私はちょっと……」
 「いいからいいから!」

 アルジェールを置いてきている事が気になって仕方なかった私は、近くにいたラルフにアルジェールをお願いし、ほんの少し人ごみに紛れて見に行く事になったのだった。
 日除けのフリをしてショールで頭を隠しながら、一番後ろの方から騎士団が通り過ぎていくのを眺める。
 騎士団はパン屋の前の大通りを通っていて、人々は左右に分かれ、騎士達が通るのを大歓声で迎えていた。
 ジグマリン王国には第四騎士団まであり、全てを束ねているのがレブランド様だった。
 周りの人々の話では、今回ここに来ているのは第一騎士団らしい。
 レブランド様の姿が見えなくてホッとする……ほんの少しだけ残念な気持ちがあるのは、私自身の未練ね。
 この気持ちは胸にしまっておこう。
 そしてパン屋へ戻ろうとした瞬間、村人から悲鳴のような声が上がる。

 「きゃ――っ!騎士団長様が来ているわ!」
 「「わぁぁぁぁ!!」」
 
 村人たちは大歓声を上げ、ジグマリン王国騎士団長を歓迎した。
 その歓声に心臓がドクドクと脈打つ。
 ゆっくりと振り返り、その姿を遠くから捉える。
 あの子と同じ、漆黒の髪……少し伸びたようにも見えるわ。
 でもあの頃のように無造作だけれど彼の野性味と精悍さを際立たせている。
 そして太陽のようなオレンジ色瞳。
 あれから四年半も経ったのに、たった一瞬で心が逆戻りしていく。
 レブランド様――――
 でも彼の為に自分から去ったのだから、絶対に見つかるわけにはいかない。とくにアルジェールを彼に会わせるわけにはいかないもの。
 そう思っていたのに、ふと視線を泳がせるとラルフがアルジェールを肩車している姿が目に入ってきたのだった。
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