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父様 ~レブランドSide~
しおりを挟む翌日、アルジェールの体調が良くなったか確認しにカタリナの家へ行った時、お外で遊ぶアルジェールの姿を見付けて駆け寄った。
「アルジェール!もう体調はいいのか?」
「レビィ!」
息子は顔を輝かせてこちらに駆けてきた。
私のズボンに顔を埋め、スリスリと頬擦りしてくる……自分の子供はなんと愛おしい存在なのだと実感する。
「具合はどうだ?」
「だいじょぶ!とってもげんきよ」
「それは良かった。母様は中か?」
「うん!いま、ごはんつくってるの」
「そうか。母様の料理、美味しいもんな。アルジェールも好きだろう?」
「うん!」
すっかり元気になったようだな。
ヘルツさんという医師はなかなかに優秀だ……王都に引っ張って行きたいくらいに。
息子の専属医師でもいいな。
そんな事を考えていると、息子が私に木の棒を持ってくる。
「これ!」
「どうするのだ?」
「きしごっこするの!」
「それはいいな。打ち合いというわけか……かかってこい、アルジェール!」
「うん!」
私は息子から受け取った木の枝を持ち、息子の木の剣(棒)を受けた。
しかしどうして、なかなかの太刀筋で斬りかかってくる。
まだ4歳にも満たないというのに……素晴らしいな。
才能のある者を目の当たりにすると、自然と鍛えたくなってしまうのは職業病かもしれない。
私は勝ち過ぎず、負け過ぎず、互角の戦いを心掛けて一緒に木の剣を振った。
「レビィ、つよいね!!きしさま、すごい!」
「フッ。アルジェールも凄いぞ。これなら騎士になれそうだな」
「やったー!」
「そんなに騎士が好きか?」
「うん!きしさまになりたい!」
息子はキラキラとした表情で返してきた。
自分の子供に己の職業になりたいと言われるのは嬉しいものだな。
「それはやはり母様を守りたいからか?」
「うん!とうさまがいないから、ぼくがかぁさまをまもる!」
「……カッコいいな、アルジェールは」
息子が高い志を持って愛する家族を守ろうとする姿に、昔の自分が情けなくなってくる。
本来はカタリナを守るのは私の役目だったはずなのに全く守れず……家族での生活が出来ていないのは全て私の責任だ。
息子の体を抱き寄せようとした時、カタリナが家の中から出てきた。
「アル?そろそろ中に入りましょう。まぁ!レブランド様もいらしてたのですね」
「カタリナ、おはよう。アルジェールの体調が気になって来たんだ」
「昨日はありがとうございました。大変助かりましたわ」
「いや、体調が良くなって安心した。何かあればすぐに駆け付けるよ」
「ふふっ」
昨日、二人で過ごした事で、少しカタリナとの距離が近づいた感じがする。
それは私の願望かも知れないが、そうであってほしいと願わずにはいられない。
カタリナとアルジェールを眩しく見つめていると、息子が突然こちらに振り向き、私の方へ向かってきた。
「ねぇ、レビィ」
「どうした?」
「ぼくのおねがい、きいてほしいの」
「アルジェール、だめよ」
「いいんだ、カタリナ」
「もう……レブランド様はアルに甘すぎます」
母親の顔で私に注意してくる彼女も可愛いな。
私にお願いをしたいと言ってくるアルジェールも可愛すぎて、ここが天国なのではないかと思ってしまう。
愛する者のお願いなら何でも聞いてあげたくなるというものだ。
「アルジェール、なんでも言ってくれ」
「ほんと?!わーい!!じゃあ、ぼくのとうさまになって!」
「「え……」」
私とカタリナはほぼ同時に声を発した。
これにはどう答えていいか分からず、カタリナの顔を見る。
しかし彼女は首を横に振り、父親だと伝えないでほしいと目が訴えていた。
「アルジェール、別のお願いではダメか?」
「やだっ!レビィがいいんだもん……レビィはとうさまだもん…………」
「アルジェール、レブランド様はジグマリン王国の騎士様だから」
「う――……」
だんだんとアルジェールの大きな瞳に涙が溜まっていき、やがて決壊して大粒の涙が零れ落ちていく。
「レビィはいなくならない!!!」
アルジェールは叫んだ後、全速力で森の方へと駆けて行った。
「アル!!!」
「アルジェール!!」
カタリナの家の裏は木々が生い茂っていて、森というより林になっていた。
私の足なら間に合う!
体が反応し、すぐに息子を追いかけた。
なかなかの足の速さだ……しかし足場は悪いし転んだら怪我をしてしまうだろうから早く追いつかなくては。
そう思い、ぐんぐんスピードを上げた。
「アルジェール!!!」
私の声が聞こえているはずなのに、全く振り向く事なく無我夢中で走っている。
怒られると思っているのかもしれない。
林の先に何があるか分からないので、少し焦りのようなものが生まれてくる。
あと少し……林の向こうが見えてきた瞬間、アルジェールの腕を捕まえる事が出来た……!
「待つんだ、アルジェール!!」
息子の腕を引き、その場で抱き寄せて地面に滑り込んだ。
ちょうどそこは林を抜けた先だったが、周りの景色に驚き、心臓が速くなっていく。
「この先は崖だったのか……」
「レ、レビィ……」
「下を見てはいけない。すぐに戻ろう」
「うんっ」
アルジェールは私の腕の中で崖を見て、顔を青くしながら震えてしまう。
私はそんな息子を抱きかかえながら、背中を摩った。
少しでも彼の恐怖が落ち着くように……それにしてもこの林の奥が崖になっていたとは。
アルジェールは林の中で遊んだりはしなかったのだろうが、寸でのところで捕まえる事が出来て良かった。
そこへ家から駆けてきたカタリナがようやく追いつく。
「アル!!無事で良かった!!!」
「かぁさま……ごめんなさい……」
「私の方こそごめんなさいね、アルジェール……この先は絶対に行かないと約束して」
「うん」
「よかった……本当に…………」
カタリナの瞳から涙がとめどなく流れてくる。
私は彼女を抱き寄せ、アルジェールと三人で抱き合った。
「皆が無事で良かった」
「レブランド様……」
「レビィ、かっこよかった!さすが、ぼくのとうさま」
私とカタリナは顔を見合わせて吹き出した。
どうしても私と親子がいいらしい。
これはもう伝えるしかないのだろう。彼女の顔を見ると頷いたので、アルジェールに真実を話した。
「そうだ、私が君の父様だよ」
「わぁぁぁやっぱり!!かぁさま、とうさまがきてくれた!」
「そうね」
「わーいっ!!」
アルジェールは地面に下りると、両手を上げて喜びを爆発させた。
これほどまでに喜んでもらえるのは父親冥利に尽きるというもの。
ようやく息子に父親だと伝える事ができた……この先も息子にとって良い父親であろうと固く誓ったのだった。
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