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我が家へ帰ろう 3 ~レブランドSide~
しおりを挟む「旦那様!奥様ぁ~~~!!」
「オーリン!!」
二人はひしと抱き合い、オーリンは本気で泣きじゃくっている。
カタリナが邸を去った後、オーリンには散々罵倒され、泣きながら怒りをぶつけられた。
私が式までの期間に邸に帰れないでいる間のカタリナの様子を教えてくれたのも彼女で、とっとと探して来いと言われた事もある。
「奥様ぁ~~よくぞお帰りくださいました!またお会い出来て嬉しくてっ」
「ごめんなさい、オーリン。あなたには本当に迷惑をかけて……」
「かぁさま、このひとだぁれ?」
「…………奥様……このお子様はもしや……いえ、どこからどう見ても…………」
「そうなの。私たちの息子のアルジェールよ」
「……~~~っ!!!」
オーリンはアルジェールの前に屈み、息子の手を取った。
「アルジェール坊ちゃま、初めまして!オーリンと申します」
「はじめまして、オーリン!よろしくおねがいしましゅ」
まだ時々上手く話せない時があるが、頑張って挨拶をする姿に感動してしまうのは私が親ばかのせいだな、きっと。
オーリンはアルジェールの挨拶にすっかり顔を緩めている。
「坊ちゃまは聡明なお方ですね~~」
「えへへ」
「さっそくですが坊ちゃま、オーリンが邸の中をご案内いたします」
「ほんとう?!わーい!」
「うふふっ。ありがとう、オーリン」
「いいえ!私、燃えてきました……坊ちゃまのお世話係頑張りますわ!」
「がんばるー!」
オーリンの言葉の意味も分かっていなさそうなのに……時々アルジェールがラルフのようなノリを見せる。
彼の中にはロッジェでの日々が刻まれているからな。
でもそんなやり取りも微笑ましい。
カタリナは目を細め、ホッとした表情だった。
「アルは大丈夫そうね」
「きっと自分の部屋を見たら大喜びするだろう」
「私も見てみたいです!」
「では行こうか」
アルジェールと同じくらい顔を輝かせる妻と一緒に、皆の後を付いていった。
子供部屋は私とカタリナの寝室の隣りに作っていて、寝室からは扉一枚で出入り可能だ。
子育てに詳しい者達を呼び、万全の体勢で子供部屋を改装した。
案の定自分の部屋を見たアルジェールは大いにはしゃぎ、おもちゃやぬいぐるみの中に飛び込んで行く。
「気に入ったようだな」
「素晴らしいですわ……一日中遊んでいても飽きないほどに」
「まだまだ遊びたい盛りだろうからな。直に色々と学んでいかなくてはならないが、今はゆっくりと過ごさせたい」
「……アルの事、ここまで考えてくださってありがとうございます」
「私と君の寝室からもすぐに行けるように、あそこに扉が…………」
そこまで口にして、ハッと我に返る。
もしカタリナが一緒に眠りたくないと言ったら?
気持ちを確かめたとは言え、あれから長い年月が経っているのだ……慎重にいくべきだったか?
カタリナからは何も言葉が返ってこないので、恐る恐る彼女の表情を窺う。
すると、肌を全部真っ赤に染めながら俯いていた。
「いや、その……一緒の寝室で大丈夫か?」
私は何を聞いているのだ。
しかし彼女が嫌そうではなさそうなので、ほんの少し期待する気持ちが湧いてしまう。
「あの、私は、全然、大丈夫です……」
「そ、そうか」
「はい……」
カタリナの声が尻つぼみに小さくなっていったが、確かに了承してくれたのが聞こえてくる。
安心感と喜びが同時に湧きあがり、自分の部屋に喜ぶ息子と同じように、私の心も歓喜に湧いていた。
そして夜になり、アルジェールを寝かしつけたカタリナが静かに戻ってくる。
「レブランド様……!」
戻ってくるなり私の腕の中におさまった彼女を強く抱きしめた。
ようやくあの夜からやり直せる。
この時をどれほど待ったか……あれから5年近く経ったが、彼女の柔らかさや髪の感触、彼女の匂い、全て鮮明に覚えている。
それがこの腕の中にあるという幸せを噛みしめた。
「この寝室で過ごすのは嫌ではなかったか?」
「いいえ。むしろ何度ここに、あなたの腕の中に戻りたかったか……自分で出て行ったのに。ダメですね……」
「君を独りにしたのは私なのだから、自分を責める事はない。私はただただ嬉しいよ、君が私の腕の中にいるのが」
「レブランド様……」
カタリナの潤む瞳が室内の明かりに照らされ、宝石のように輝いて見える。
吸い寄せられるかのように互いの顔が近づき、唇を重ねた。
何もかもがあの時のまま――――ベッドへ連れて行こうと彼女を抱き上げた。
次の瞬間。
カタンッ。
物音がしたので振り返ると、子供部屋へと続く扉のところに、アルジェールが立っているではないか。
「アル?!」
「どうした、アルジェール……!」
私たちはすぐに親の顔になり、息子のところへと駆け寄った。
まだ慣れなくて眠れないのかもしれないな。
「かぁさま、とうさま、いっしょにねたい~……」
寝ぼけ眼で話すアルジェール。
やはり慣れるまで一緒に眠ってあげるべきかもしれない。
カタリナとの夜が断念されたことは残念すぎるが……息子の為に一肌脱ごうではないか。
彼女に視線を移すと、同じように考えていたのが窺える。
「よし、じゃあ川の字で三人で寝よう」
「うん!」
「ふふっ」
その夜は初めて親子三人で眠る事になった。
まさか自分の子供と眠る日がくるとは……幸せな事だな。
カタリナとはまた次の日に仕切り直そう。そう思っていた……しかし、この時の私は分かっていなかったのだ。
子供が新たな環境に慣れるまで時間がかかるという事を。
しばらくアルジェールとカタリナと三人で眠る日が続き、仕切り直すまでかなりの忍耐を強いられるとは、想像もしていなかったのである。
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