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待てができない旦那様
しおりを挟む「ドルチェ!こっちだよ!!」
「ワォン!」
「きゃははっ」
ドッグランに息子とドルチェの声が響き渡る。
息子の誕生日会の後、レブランド様は本当に敷地内にドッグランを作ってしまい、その中でドルチェは思う存分走り回り、息子と戯れていた。
高いフェンスで囲まれているので、ドルチェが大きくなっても飛び越える心配はなさそう。
面積も広いし、色々と考えて設計されていて、さすがレブランド様ね。
二人を見守る事が出来る位置にちゃんとテーブルセットがセッティングされていて、そこに座りながらオーリンが淹れてくれたお茶を飲みながら可愛い二人を眺める。
「いいドッグランですね~~二人とも楽しそうです!」
「そうね。あっという間に作ってしまうなんて、凄いわ」
「旦那様の行動力はいつでも凄いのです。奥様をお迎えしたいとなった時もすぐに行動しましたしね」
「そうなの?それは知らなかったわ」
「奥様がやってくる日なんて、100mごとに衛兵を配置しようとなさっていて、さすがに止めるように言ってしまいましたけど」
「……そんなに熱烈だったのね」
レブランド様が私を愛していたと言う話は聞いていたけれど、こうして改めてオーリンから聞くととても恥ずかしくなってしまう。
この国に来てから色々あったけれど、今こうして穏やかに暮らせている事に幸せを感じていると息子の可愛い声がかかった。
「かぁさま~~おなかすいた!」
「オヤツにしましょう!」
「はーい!」
「ワォォン!」
「ではご用意いたしますね!」
「ありがとう、オーリン」
あれから警戒する意味も込めて、オーリンにオヤツを並べてもらっている。
何もないのでホッとしつつも何だか落ち着かない。
そこへ早めに帰邸したレブランド様がやってきた。
「レブランド様!おかえりなさいませ」
「ただいま」
頬にキスをして隣に座るレブランド様が自然過ぎて、未だに慣れない私……オーリンは生温かい目で見ていてくれるけれど、それが余計に恥ずかしかった。
頬が熱い。
「ちょうどオヤツの時間か」
「ええ」
「カタリナ、先日の件で話さなくてはならない事があるんだ」
「分かりましたわ。ちょうどドレスの試着もありますし。少し席を外すわね、オーリン。2人をお願い」
「はい!」
私たちは席を立ち、二人で邸内へと歩いていく。
その道すがら、レブランド様が私に囁くような形で話し始めた。
「先日のオヤツの件だが、料理長はナッツ入りのを作ってはいないそうだ」
「え?!じゃあ……」
「誰かが意図的にアルジェールに食べさせたとみていいだろう」
「そんな……では邸に怪しい人間が入り込んでいるという事ですのね」
「ああ。アルジェールが狙われている」
「なんてこと……」
私たちならまだしも、こんなに小さな子供を狙うなんて……!
でも残酷な人間は年齢など関係ないという事を身を私はお姉様達から身をもって経験しているから。
「必ず見付けださなくては」
「そうだな。それについては私も考えている事があるんだ」
試着に行く間にその話を聞き、驚きながらも旦那様の考えに任せる事にした。
「全てレブランド様の思うままに……私は見守る事しか出来ませんが」
「君を傷つけたくはないから、見守ってくれるだけでいいんだよ」
「アルジェールの事なのに、何も出来ないのが歯がゆくて」
俯く私を抱き寄せ、頬にキスをしてくれる。
「君がいつもアルジェールに寄り添ってくれているから、息子が健やかに育っているのだから。何も出来ないなんて言わないでくれ。むしろ私の方が、こんな時くらい動かなくてはな」
そう言って苦笑する旦那様。
そんな事はないのに、と言いたいのにレブランド様の腕の中におさまると、ただただここに顔を埋めて甘えたくなってしまう。
「すべては夜会の日に、ですわね」
「ああ。今はその夜会用のドレスを試着しに行くのだろう?」
「はい!あ、でもレブランド様は見学禁止です」
「なっ……!」
「当日までのお楽しみですから」
「そ、そうか……では部屋の外で待つとしよう」
「ふふっ、そうしてくださいませ」
私たちは笑い合いながら、ドレッシングルームへと向かった。
夜会とは王家主催の舞踏会の事で、私が療養から戻り全快した事を喜んでくださった王族の方々が、祝いの為の夜会を開いてくださる事になったのだ。
真実を知っているのは王太子殿下だけとは言え、殿下もこの話にはノリ気で、すぐに夜会の日取りが決まった。
なんとも有難いお話だけれど、息子が気になるからと当日欠席するわけにもいかず。
ちょうどドレスも新調する予定だったので、デザインを少しゴージャスにしてもらう事で間に合わせる事が出来た。
ドレッシングルームに入ると、すでに仕上がっているドレスが飾っていて、あまりの艶やかさに目がチカチカする。
「まぁぁ……素晴らしいわ!」
「では奥様、試着してみましょう」
「そうね!」
侍女たちがあれこれと頑張ってくれて、私をドレスアップしていく。
マーメイドドレスに裾がティアードになっていて、まるで波のよう……レブランド様の瞳の色であるオレンジを薄めたグラデーションなので、夕陽に照らされた水面のようね。
オフショルダーから後ろにレースが伸びていて、マントのようになっているわ。
腕にもロングスリーブが手の甲までレースが施されている。
そこへバタバタと足音が聞こえてきて、アルジェールがドルチェと一緒に入ってきた。
「わぁ~~!かぁさま、きれい~~!!」
「ワォーン!」
「二人とも、ありがとう」
「アルジェールもドルチェも見られるなんて、ズルいではないかっ」
扉の外からレブランド様の不満げな声が聞こえてきて、皆が静かに笑っている。
もう……子供みたいなんだから。
そんなところも可愛いけれど。
「あと数日で夜会ですので。その時にお見せしますね」
「…………っ…………!」
外で何かを言っているのが聞こえてきたけれど、とりあえず試着に集中する事にした。
ごめんなさい、レブランド様……当日はこのドレスを着てずっと一緒にいますからね。
私は心の中で何度も呟き、 試着し終わったドレスをそそくさと脱いでいった。
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