【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~

Tubling@書籍化&コミカライズ決定

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ずっとそばにいて ~結人Side~

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 「結人は本当に亮くんが大好きね。亮くんがそばにいてくれたら安心だわ」


 それが母さんの口癖だった。

 亮と俺の母親同士が親友で、産院も一緒、誕生日も一日違い、幼稚園も同じ組……俺が亮と離れたがらなかった為、母さんが先生に頼み込んで一緒の組にしてもらったらしい。

 物心ついた時から亮が近くにいて、最初は女の子だと思っていた時もあった。

 それくらい亮が可愛く、この世で一番綺麗な生き物だと認識していたのを覚えている。

 特に亮の目がいつもキラキラしていて……幼心にあの目で見つめられると心臓がドキドキして、ぎゅうっと苦しくなる。

 亮のあの目が、常に自分の方に向けられていてほしい。

 そんな願望から、内気な人間を装っていた部分もある。実はあざとい子供だったのだ。


 「りょうちゃ、あっちいっちゃ、や!いっちょにいて……」

 「うん!」

 
 友達を作ろうともせず、独占欲を堂々と亮にぶつけ、「りょうちゃ、むしこあいぃ」とすぐに泣きつく。

 
 「ゆいちゃにさわっちゃ、めっ!」


 まだ亮も幼いのに、一生懸命に俺を守ろうとしてくれていた。

 そんなアイツの優しさを利用し、ずっとずっと俺だけの亮でいてくれたらと思い始めたのは小学三年の頃。

 明るくて綺麗で誰とでも仲良く出来る亮だから、特に女子と仲良くなり過ぎないように目を光らせていた。

 そんな時、母さんの病……子宮頸がんが分かり、闘病も虚しくあっと間に亡くなってしまう。
 
 母さんは亡くなる寸前まで俺や弟の奏斗を気遣っていたけれど、亮の存在が彼女を安心させていたのだった。


 「結人は本当に亮くんが大好きね。亮くんがそばにいてくれたら安心だわ」
 

 何度も何度も聞かされた言葉――――今わの際まで同じ言葉を繰り返す。

 きっと俺たち兄弟を残してしまう事に対して、少しでも俺たちの気持ちを落ち着かせる為に言っていたのだろう。

 でも母親がいなくなるショックはとても大きくて……毎日毎日学校にも行かずに泣き暮れていた。

 そんな俺にずっと付き合って、亮も学校に行かずにそばにいてくれたのだった。


 「亮は、学校に行かないの?」


 泣きながら幼馴染の膝に顔を埋めて問いかける。

 弟の奏斗も亮に抱きつき、離れようとしない。

 そんな俺たちを突き放すなんて亮に出来るはずがないと分かっていたし、涙を流しながら聞くなんて卑怯だと思ったけれど、とにかくそばにいてほしかったのだ。


 「行くわけないだろ?ずっとそばにいるから。大丈夫だから」


 アイツの優しさが嬉しかった。

 可哀想な俺だと思ってくれてもいいから、ずっとそばにいて――――でも、別れは突然やってくる。


 「え……中学受験?」

 「うん。母さんと話し合って、中学は受験しなさいって事になって……」


 嘘だろ…………亮が俺のそばからいなくなる……?

 
 『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』


 そう約束したのに――――
 
 あの時の言葉は、嘘だったのか?

 俺がいくら泣いても、懇願しても、アイツの意志は固く、中学受験を止めてくれる気配はなく、俺の家は父子家庭なので経済的な意味でも父親に受験の話をする事は出来なかった。

 亮自身も受験の理由は話したがらなくて、理由も分からないままとうとう卒業を迎えてしまったのだった。

 卒業式後に児童玄関前で大泣きする俺に向かって、笑顔で「毎日RINEするから!」と伝えてくる亮。


 「RINEだけじゃなくて遊びに来てよぉ!家近いんだし!」

 「分かった、遊びに行くよ」


 もはや泣き過ぎて会話にもなっていなかったかもしれない。

 あんなにお願いしたのに――――返信を待っているのはいつも俺で、忙しいのか家にも来る頻度が減ってしまい、亮になかなか会えずに悶々とした日々を送っていたある日、あまりにも会いたくて彼の夢を見た。

 その夢の中では……恋人同士の関係で幸せそうな俺と亮、そして彼の形の美しい唇に口付けようとしたところで目が覚めてしまう。


 「なんて夢だよ……」


 でも、あれは俺の願望。

 もうずっと、おそらく幼い頃から彼に対して独占欲まみれで、恋人になりたいと願っていた。

 アイツは全くそんな事など考えてもいないだろうし、感じてもいないだろうけど。

 会いたい――――亮――――

 
 そんな気持ちを抱えていた中学一年の秋、父さんが一人の女性を連れて仕事から帰ってきたのだった。


 「結人、奏斗、二人に紹介したい人がいるんだ」

 「初めまして、新美玲奈です」 

 「……初めまして」
 

 父さんが改まって女性を紹介してくるなんて初めてだった。

 物凄く嫌な予感はすぐに現実のものとなる。
 

 「母さんが亡くなってから彼女が父さんを支えてくれていて……いずれ結婚を視野にお付き合いをしている」

 「よろしくお願いします」


 その女性は清楚な見た目で柔らかく挨拶し、父さんに寄り添い、父さんが言う通り母さんが亡くなってから支えてくれていたのだろうと分かるような2人の雰囲気だった。

 分かるけど……やっと母さんの死を受け入れて三人で生活出来てきたところなのに、いきなり新しい母親とか、正直考えられない。

 奏斗は女性の柔らかい雰囲気に笑顔を見せ、あまり嫌がる素振りは見せていなかった。

 俺だけが反対なんて出来ない……でも心の中は思い切り拒絶している。

 それは父さんに対してなのか、目の前の女性に対してなのか、自分でも気持ちがぐちゃぐちゃでよく分からない。

 
 「よ、よろしくお願いします……」


 とりあえずその場はなんとか挨拶をして、自分を誤魔化した。

 二階の自分の部屋に戻りベッドになだれ込むと、枕に顔を埋める――――色んな事があり過ぎて頭が回らない。

 自分の事を支えてくれた女性か……父さんは自分は支えられてきたから一緒にいたいのかもしれないが、俺には全く関係ない人だ。
 
 いきなり連れて来て紹介されても、すぐには到底受け入れられない。

 だいたい俺たちだって母さんが亡くなって辛かったのに……俺だって亮がそばにいなくても頑張っているのに。

 一階では父さんとその女性と奏斗が三人で楽しそうにしている声が聞こえてくるので、嫌でもその様子が頭に浮かんできて、だんだんと父さんへのイライラが増していき、自分の気持ちのやり場がなくなってしまう。

 
 亮に会いたい。

 頭を撫でながら大丈夫って言ってほしい。


 亮――――――


 ――――コンコン――――
 

 突然部屋の扉がノックされ、顔を上げた。

 まさか、亮が来てくれた?

 そんなわけがないのに、藁にも縋る気持ちで扉へ飛んで行き勢いよく開けると、そこに立っていたのは先ほど紹介された新美玲奈という女性だった。


 「結人くん、突然ごめんね?正彦さんにお願いして結人くんとお話させてもらいに来ちゃった」

 「………………」


 さっきはあまりの衝撃によく見ていなかったけれど、新美玲奈という女性は、見た目が20代前半くらいに見える。

 父さんよりも一回り若い……男を誘惑するかのような胸を強調した服に、誘うような唇――――そして距離が異様に近い。

 今も俺にすぐ触れてしまいそうな距離で立っている。

 男は皆こうすれば喜ぶとでも言わんばかりの行為に心底気持ち悪くて、無自覚に顔が引きつってしまう。

 
 「結人くんって……私の事嫌い、だよね?」

 「は…………?」

 「だって……物凄い表情だもん。汚いものを見るような顔」


 この女……やっぱりただの清楚な女性じゃないな。

 いかにも被害者っぽいような事を言いながらも、嫌な笑みを浮かべている。


 「分かってるなら近寄らないでもらえます?」

 「やだ~~そんな事言っちゃっていいの?お父さん悲しむだろうなぁ」

 「な……っ!」


 動揺する俺に一歩近づいてきたかと思うと、唇が触れそうなくらい顔を近付け、悪魔の囁きをしてきた。


 「私に優しくしてくれないと、正彦さんも奏斗くんもどうなってもいいの?」


 目の前の女の言葉に全身が粟立ち、変な汗が出てくる。

 なんでこんな女と結婚なんて……父さんに知らせないと…………奏斗も危ない……!

 そう思うのにあまりの衝撃に体が動いてくれない。


 「やだなぁ~~焦らないで。ほんの少し話相手してくれるだけでいいんだから」


 そう言いながらじりじりと近寄ってくるので、なんとか突き飛ばして叫んだ。


 「やめろ!!!」


 俺の叫び声が聞こえたのか、階下から父さんが急いで上ってきて、俺と新美玲奈の間に立つ。


 「どうした?!何があったんだ?」

 「結人くんと仲良くなりたかったんですけど、どうしてもダメみたいで……」

 「ち、ちが……っ!」

 「結人、受け入れてくれとは言わない。だがそういう態度は良くないぞ」

 「…………っ!!」


 この女にすっかり骨抜きにされている父親に、俺の声は届かない。

 父親もこの女も全てが気持ち悪くて堪らない。

 あまりに息苦しい家から飛び出し、亮の家に行こうと走り出した。

 家はすぐ近くだ……亮――――

 ちょうど帰宅してきた亮を見かけ、喜び勇んで声をかけようとした瞬間、大泣きしている姿が目に入って来る。

 どうして泣いて……自分の事で頭はぐちゃぐちゃだったはずなのに、亮の涙を見たらそんな事はどうでもよくなっていった。

 駆け寄って抱きしめて、慰めてやりたい。


 「亮……!」


 声をかけたけれどその声は届かず、家の中から出てきた母親に泣き縋る幼馴染は、母親に抱きしめられながら家の中へと消えていった。

 そうだよな……亮には母親がいるんだし。

 泣いて苦しくても俺がいないとダメなわけじゃない。

 そう思っているのは自分だけ――――
 
 この時、自分など必要ないのだと頭を殴られた気がした。

 その日からどこにも居場所がないと感じるようになった俺は、友達の家で時間を潰し、なるべく家に寄り付かないようにつとめた。

 父親にもあの女にも、亮にも会いたくない。

 主に中学校で知り合った財前駆流の家に入り浸るようになった。

 駆流の家は超がつくほどお金持ちで、両親もほとんど海外を飛び回っている為家にいない事から、中学時代は駆流の家にいた時間の方が多かったように思う。

 幸い頭の作りが良かったのか、学校に通っていれば成績はある程度上位におさまる事が出来ていたので、父親がうるさく言ってくる事はあまりなかった。

 むしろ学校の方が落ち着いて過ごせたかもしれない……家族にも亮にも会わなくて済む。

 そう思っていたのに。


 まさか高校でその幼馴染に再会するとは、思ってもいなかったのだった。
 
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