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大人になってもほしかったもの ~駆流Side~
しおりを挟む学校帰りにムクドの前を通り過ぎると、偶然亮クンの友達がムクドにいるのが目に入り、僕はすぐに彼らのもとへと行ったのだった。
「ねぇ、なんで財前が座ってんの?」
「外を歩いていたら偶然君の顔がみえたから」
「そのまま帰ればよくない?」
「だってこの後亮クン来るだろうから、一緒に待ちたいじゃん~~」
「なんで分かるんだよ!」
この宝森雫クンというのは亮クンの親友ポジで、清々しいくらい裏表のない人間だった。
ここまでハッキリ言いたい事を言う人は初めて見るかも。
年齢を重ねれば重ねるほど人間関係は複雑になり、お世辞だったり、嘘でけむに巻いたり、本音とは程遠い態度をしてしまうものだ。
彼にはあまりそういうところがない。
正直好きなタイプじゃないけど、なぜか会話が途切れないんだよなぁ。
そんな勉強する雫クンにちょっかいをかけていると、案の定亮クンと結人が現れたのだった。
二人は一緒に食べ物を頼みに行き、勉強会もいい感じに進んで……いたと思ったのに。
僕の目の前で結人が亮クンのほっぺに付いたソースを取ってあげたり、それに対して亮クンが顔を赤くさせたりして、イチャイチャし始めた。
結人は亮クンが大好きだから分かるけど、亮クンはどうしてそんな表情――――
嫌な予感がして、胸が騒めき、居ても立っても居られなくなり、トイレに行った亮クンを追いかけた。
「亮クン、いた~~なかなか戻らないから大丈夫かと思って」
「心配かけてごめんね。ちょっと時間かかっちゃって」
ウソ、結人とのやり取りで物凄い動揺していたのがバレバレで、隠し切れてない。
頬や首がまだ赤い。
亮クンの白い肌は赤くなるとすぐに分かる。
そんなところも可愛いんだよなぁ。
でも……動揺させたのが自分じゃなくて、ちょっと気に入らないな。
僕がじーっと見つめていると不安になったのか、その場を去ろうとする彼の腕を引き、トイレの個室に連れ込んで鍵を閉め、二人きりの状況を作ったのだった。
このまま君を閉じ込めてしまえたらいいのに。
「駆流クン……?」
この状況が不安になったのか、上目遣いでこちらの顔色を窺ってくる亮クンが可愛い。
結人に渡したくないよ。
「亮クンは、結人の事、どう思ってる?」
「どうって……大切な幼馴染だよ」
「本当?」
「うん」
こんなに独占欲でいっぱいになるのが初めてで、まだ自分の気持ちを自覚していない彼の言葉を鵜呑みにする事にした。
君がそう言うのならそれでいい。
まだ誰のものにもならないでほしい。
そうして取ってつけたように勉強会という約束を取り付け、亮クンの家で距離を縮めよう作戦に打って出たのだった。
~・~・~・~・~
「なんでそうなるかな。ちょっと貸して」
「もっと優しく教えてよ~~僕亮クンがいいな」
「亮だって自分の勉強あるんだから、迷惑かけない!」
亮クンの部屋に入って皆で会話したところまでは順調だったのに、勉強会が始まると雫クンにこれでもかと狙い撃ちされ、スパルタな勉強会に僕の心は半分折れかけていた。
「雫クンだって自分の勉強していいんだよ?」
「俺は亮(推し)の勉強を応援してるんだ。とにかくお前は俺に聞け」
「ひーん」
もうやだ。
なんなのこの人。
裏表ないのは分かるけど、ストレート過ぎて僕のガラスのハートがもたない……僕の癒しであるマイスウィートハニー(亮クン)は結人とオヤツを持ってきてくれるとかで一緒にキッチンに行っちゃうし!
「僕も一緒に行きたかったな~~」
「行けばいいんじゃん?」
「え、でも迷惑になるし」
君は何でもストレートでいいよねって言いそうになり、グッと堪える。
そんな僕に雫クンが、本当に真っすぐに言葉を返してきたのだった。
「自分の気持ちに正直になった方がいんじゃね?相手の為って引いても後悔するだけじゃん」
「そうかな」
「なんだ、財前って意外と可愛いところあるんだな~」
そう言いながら僕の頭を撫でてくる雫クン。
生まれて初めての頭撫で撫でに、僕の方が固まってしまう……こんなナチュラルに頭撫でられる人、いる?!
僕はビックリして雫クンを見るけれど、彼には邪な気持ちが全くないのかニコニコ笑っていた。
親にも撫でられた事ないのに……でもそのおかげで落ち着いた僕は、結人と亮クンのところに行ってみようと思えたのだった。
「ちょっと行ってくる」
「おう」
でもキッチンに入る扉の前で、結人と亮クンが仲良さそうな姿に足が止まってしまう。
亮クンが結人にチョコを食べさせていて……亮クンは全身真っ赤になってるに違いないと分かるくらい、耳も手も……肌が全部真っ赤に染まっていた。
こんなの僕に入り込める余地なんてないじゃん。
あの二人の雰囲気を見てすっかりショックを受けた僕は、トボトボと肩を落として雫クンの待つ部屋へと戻った。
「あれ、早くね?」
「うん……やっぱやめた」
何とか取ってつけたように笑顔で返し、自分の場所へと座る。
あーあ……失恋確定か…………カッコ悪。
もっと足掻けば良かったんだろうけど、足掻いたところで生まれた時から染みついた諦める習性はなかなか消せないし、小さな頃からの絆に勝てるとも思えない。
最初から勝ち目なんてなかったんだろうな……いつもそうだ。
たいてい勝負は最初から決まっていて、自分は負け組。
僕なりには頑張った方だと思うけど。
相手が悪かったんだ。
心の中で、必死に自分に言い聞かせる。
雫クンに対して顔を上げられずにいると、彼の手が伸びてきて、またしても頭を撫でられたのだった。
「………………なに……?」
「いや、頑張ったなと思って」
なんで……なんで一番してほしい事や言ってほしい言葉をお前がくれるんだよ。
彼には何の忖度もないからこそ、泣きたくなってくる。
くそ……カッコ悪過ぎる。
本当は両親に自分の事をもっと見てほしかったし、期待されたかった、可愛がられたかった。
大きくなってこんな気持ち誰にも言えないから、つまらない日常を埋めてくれる人間なら誰でも良かったんだ。
亮クンなら僕に言ってくれそうな気がした。
頑張ったねって頭を撫でてくれるんじゃないかなって、ほんの少し期待してたんだ。
あのひたむきな瞳に僕だけを映してほしかった。
なのに、なんでコイツが――
「お前は俺を好きになれば良かったのにな」
「はあ?!!」
雫クンのとんでもない言葉に、思わず涙も引っ込み、大声を出してしまう。
俺を好きになればって……はあ?!
「ムリ無理!ならないから!!」
「俺だったらイイ彼氏になれんのに」
「自分で言うとかあり得ない」
「まぁ、俺も付き合うならどっちかって言うと女子がイイしな」
「そういうとこだよ!」
「ははっ」
僕のツッコミに笑った雫クンを見て、気持ちを軽くさせようと言ってくれたんだと気付き、不覚にもカッコいいなと思ってしまう。
違う違う、僕の好みは亮クンのように可愛らしい美人さんで――――
ていうか雫クンってどっちもいけるの?!
この子、何者なんだろう……驚き戸惑う僕を真っすぐに見据えながら、本当にストレートな言葉を伝えてくる。
「でも、まぁ、諦める必要はなくね?」
「え……」
「ダメだと思ったら諦めないとダメなん?」
「そういうわけじゃないけど……頑張るだけ無駄じゃん!」
無理だと分かっているのに努力して、結果ダメだった時のショックの方が大きい。
そんな分かり切ってる努力なんてしたくないから、早々に諦めようと思っているのに。
「無駄でも何でも、止められないのが恋ってもんじゃないの。別に気の済むまで好きでいたらいいんじゃね」
「でもそんなの、カッコ悪過ぎるよ」
無様で惨めになるだけなのに、勝手な事ばかり言って……だんだん雫クンの言葉に腹立たしく思い始めていたところに、思いもよらない言葉を返される。
「なんで?そんなのめちゃくちゃカッコいいじゃん!乙春2でも海人がさ~~」
僕の気持ちを余所に乙女ゲームの話を始める雫クン。
呆気に取られる僕をそっちのけで、彼は恋に懸命になる人間は物凄くカッコいいのだと語り出した。
「…………だから、そんなお前の姿を俺が見ててやるからな!」
「~~~っ!」
なんなんだよ、コイツ……僕の頭を三度撫でながら本気でカッコいいと思ってるし。
長年両親や兄弟に抱いていた重たい気持ちも、コイツならカッコいいって言ってくれそうな気がしてしまう。
甘えてしまいそうになる気持ちを振り払うように、雫クンの手を振り払った。
「もう、いつまで撫でてるんだよ!」
「駆流、何大声出してんだ?」
「わあ!!」
突然結人の声がしてきて、またしても大声を出してしまったのだった。
この勉強会では僕の失恋が確定して落ち込んでしまったはずなのに、雫クンに言われた言葉が僕の中で根付き、もうひと頑張りしてみようかなという気持ちになったのは確かだった。
彼に本音をぶちまけた事で気持ちが軽くなった気がして、思いの外実りの多い勉強会になったのだった。
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