【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~

Tubling@書籍化&コミカライズ決定

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寝たふり

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 そこからの記憶は朧気で、気づいたら駅に着いていて、結人に抱きかかえられながら自宅に戻り、部屋義に着替えてベッドに寝かされたところでハッキリと目が覚めてきた。

 扉の外から結人と母さんが話す声が聞こえてくる。

 僕の様子を色々と報告してくれているようだ。

 電車でも力強く抱えてくれていたし、とても頼りになる幼馴染の存在に嬉しくなり、布団に顔を埋めた。

 結人の匂い、いい匂いだったな……抱き上げられている時も宝物を扱うかのような腕に、涙が出そうになったのは言えないな。

 熱に浮かされながら、思い出すのは幼い頃の記憶――――

 幼稚園の頃は一緒に風邪を引いたりしていて、僕が熱を出したと知った結人が枕を持って我が家にやってきたっけ。


 『ごめんね~~結人が亮くんに会いに行くってぎゃん泣きしてきかないものだから』

 『いいの、いいの。亮も会いたいって言ってたから嬉しそうだし、兄弟みたいなものだから』


 母さんが僕と結人を一緒のお布団に寝かせてくれて、結人のお母さんも僕の家に泊まって……とても幸せだったあの頃。


 『りょうちゃ、だいじょぶ?』

 『ゆいちゃがいるかららいじょぶ!』

 『おねつもはんぶんこね』

 『うん!』


 結人は僕に風邪をうつした事に責任を感じていたらしくて、自分も風邪引いてるのに、どうしても僕のそばにいたかったらしい。

 でも僕は彼が隣にいてくれるだけで安心して、一晩寝たら本当に熱が下がったのだった。

 結人もすっかり回復し、母さんたちもとても喜んでいた。

 懐かしいな……あの頃みたく二人で同じ布団に寝たりは出来ないけれど、幼馴染の温もりなどを思い出すとまた眠気が襲ってきて、瞼が下がってくる。

 でも寝たくない。

 眠ってしまったら、また前回のときみたいに結人が帰っちゃう。

 まだ帰らないで……そばにいて…………そう思った瞬間、自分が中学時代に彼のそばにいられなかった事を思い出し、自分が残酷な選択をしてしまったのだと気付く。

 結人もあの家で助けを求めていたはずなのに、僕は――――

 頬を一筋の涙が流れていった。

 結人に助けてもらう資格なんてない。


 「亮?」
 

 次の瞬間、すぐそばで幼馴染の声が聞こえてきたのだった。

 でもあまりに眠くて目を開けられない……眠気と涙で霞む視界の中、ぼんやりと幼馴染の姿を確認し、謝罪した。


 「ごめ、ん…………ごめっ……約束…………守れなく…………て……」
 

 なんとか口にしたけれど、意識が遠のいていきそうで、上手く言葉を紡ぐ事が出来ない。

 そんな僕の頬に結人の手が重なり、優しく撫でた。

 ひんやりしていて気持ちいい……僕の頬をずっと撫でてくれる手を無意識に握りしめ、今度こそ眠りに落ちていく刹那、結人の優しい声が聞こえてきた。

 
 「亮、頑張ったな」


 そんな事を言ってもらう資格なんてないのに。

 でも心は彼の一言に喜んでしまう。

 僕が寝落ちたと思ったのか、ベッドサイドに腰を下ろしていた結人が立ち上がる気配がした。

 彼の体重でベッドが軋む音がする。
 
 このまま結人が帰るまで寝たフリをしておこう。

 彼の手を握りしめたままの手をどうしようかな……力を緩めるべきか……なんて考えていると、なんだか目の前が暗くなった感じがした。

 自分の手を離そうとしてるのかもしれない。

 どちらにしても彼が至近距離にいるという事に、心臓がドキドキして、だんだん頭が覚醒してきたかも。

 起きている事がバレないか、色んな意味で口から心臓が飛び出してしまいそうだった。

 早く帰ってほしいけど、帰ってほしくない。

 この手も本当は離したくない。

 そう思った瞬間。


 「フッ、ずっと握ってんの。かわいー」


 ?!

 かわっっ?!!!

 どうしよう、目を開けてしまいたい。

 でも開けたら絶対気まずいよね……とにかく耐えないと……!

 気付かれませんように。

 気付かれませんように……祈るような気持ちで目を瞑っていたところに、ふいに柔らかい感触が唇に触れたのだった。

 マシュマロのような……この感触――――

 目の前は暗く、今までで一番結人の匂いを感じる。

 やがてチュッと音を立ててソレは離れ、僕の唇を幼馴染の指がなぞっていく。

 すっかり脱力してしまった僕から結人の手がスルリと離れ、耳元でポツリと囁いたのはまるで愛の告白だった。
 

 「大好きだよ、亮」


 ベッドが軋む音と共に結人の気配が離れ、ゴソゴソと動いた後、部屋の扉が開かれた。

 そして閉じる音と共に母さんとの話し声も聞こえてくる。


 『ぐっすり寝てるんで、帰ります』

 『まぁ!泊まっていってもいいのに!』

 『いえ、明日も学校なんで』

 『そう言えばそうね……ありがとう、結人くん。とても助かったわ!帰り道気を付けてね~』


 そっか、明日も学校だもんね……パタパタと階段を下りる音と共に玄関のドアが開閉する音がして、結人が帰ったのだと分かった。

 そしてすぐに母さんが階段を上ってくる。

 僕の部屋に入り、寝ているのを確認しながら独り言を話し始めた。


 「あら、顔が真っ赤ね……大丈夫かしら。念の為、夜間にやってる病院チェックしておかなきゃ」


 そう言って部屋を後にしたのだった。

 ごめん、母さん。顔が赤いのは熱もあるけど、それだけじゃなくて…………。

 さっきのはなんだったの?!!

 僕はすっかり目が覚めてしまい、布団の中でバタバタと悶えた。

 さっきの…………結人の唇だったよね……僕にキスをしたってこと?

 なんで?

 しかも帰り際に、大好きって――大好きって――――その時の声がとても甘さを含んでいて、告白されているのかと――――

 でもあれが告白だとしたら、僕は……何を喜んでいるんだ。

 結人のキスよりも告白よりも、自分が一連の出来事全てに喜んでいる事実の方に混乱していた。
 
 頭はパンク寸前になり、全く思考回路が機能していない状態に陥る。

 ダメだ。

 熱もあるし、今考えても頭が回らない。

 ひとまず思考停止し、とにかく寝て回復する事だけを考えながら布団に潜り込んだ。

 でも……忘れられるわけないよぉぉぉ!!

 早く寝なきゃいけないのに眠れず、結局夜中まで悶々した結果、体力の限界に達したのか自然と寝落ちしていた。

 そして翌日の昼には熱もかなりおさまり、土日も挟んだので月曜日にはすっかり元気になったので、無事登校する事が出来たのだった。
 
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