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気付いてしまった自分の気持ち
しおりを挟むすっかり熱も下がって元気に登校した月曜日。
玄関で自分の上靴の場所に行こうと思うけど、そこに結人がいたらどうしよう、という気持ちが湧き、周りを見回しながらゆっくり自分の上靴へと近づいた。
どうやら彼はいないようだ……ホッとしながら靴を履き替えていたところに、突然声をかけられ、ビクッとしてしまう。
「亮~~おはよう!体調大丈夫かよ?!」
「雫!良かった……」
「何が?」
「いや、体調戻ったから良かったなって」
声をかけてきたのが結人じゃなくて良かったとは言えないな。
「本当だよ!何かおかしい感じしたらすぐに言うんだぞ!!親友が具合悪いのに分からなかった俺って……最低だ……」
雫は僕の体調が戻って喜んだと思ったら、それに気付けなかった事がショックなのか、すっかり肩を落としてしまう。
どんだけ優しいんだよ……雫とは一生付き合っていけるな。
そう思える友人に出会えた事に顔が緩んでしまう自分がいた。
「おい、顔が緩んでるぞ」
僕のすぐ後ろから、今一番会うと気まずい人物の声が聞こえてくる。
「ひゃっ!ゆ、結人!お、お、おはよう!!」
「? どした?顔赤いけど……まだ熱あんのか?」
「え、いや、ちがっ」
僕は全く動揺を隠しきれず、結人に言葉をかけられるたびに噛んでしまうし、恥ずかしいやら、気まずいやらで、どう返していいか分からない。
そんな僕の気も知らず、熱がある事を心配した結人が、自身の額を僕の額へとくっつけてきたのだった。
「んー……少しあったかいけど、熱はねーな」
「あ、や、大丈夫、だと、おもぅ……」
尻つぼみに声が小さくなり、顔を上げられなくなってしまう。
距離が近いよ~~~~小学生までは当たり前みたいにスキンシップしていたはずなのに。
結人の息がかかる。
低い声が体に響く。
体温が伝わってくる。
そしていい匂いが鼻を擽る。
意識すればするほど、そんな事が心臓をうるさくして、呼吸が上手く出来ない。
「亮?」
ひ~~~顔を覗き込まないでっ!
眼鏡と前髪で向こうから目は見られていないものの、この距離感に耐えられそうもない。
「亮~~大丈夫か?!まだ具合悪いなら保健室……」
「大丈夫!サッと教室に行こう、雫!心配かけてごめんね、結人。またね!」
「あ、ああ……」
僕は雫を連れて一目散に教室へと駆けていき、すぐに机に突っ伏した……なんだよ……ずっと気にして悩んでるの僕だけじゃないか。
そもそも結人は僕が熟睡していると思っているのだから、普段通りに決まってるんだけど。
なんだか悔しい。
こんな風に心をかき乱されて……僕は……僕は、どうしたいんだ。
だって、アイツがあんな事をするから……あんな事を言うから――――
結人の唇の感触と、大好きだよと言う言葉を思い出してしまい、悶えてしまう。
「高嶺、どこを見とるんだ」
「え? あ…………」
授業が始まり、教科書を開かずに机をジッと見つめていた僕に、先生が目の前に来ていて注意をされてしまう。
しまった…………あの時の事を思い出して自分の世界に入ってしまうなんて。
慌てて教科書を開き、授業に集中するべく前を向いた。
土日を挟んでもまったく気持ちが落ち着く事はなく、この日もずっと結人に振り回されっぱなしだ。
翌日も、その翌日も――――
幼馴染の態度がとても甘い。
僕を心配する瞳や表情が優しいし、頬を撫でる手が……なんか…………色気がある。
本当に自分でも何を考えているんだろう。
体育祭実行委員会でも仕事を頼まれたのにミスをしちゃうし。
「亮、そこはこのペンで……」
「え、あっ!!ごめん…………」
「いや、気付くの遅くなった俺も悪いし」
使うペンの種類間違うとか凡ミス――――
すると結人の周りにいた女子たちが、僕のミスをカバーするように結人を手伝い始めたのだった。
「じゃあ、これは私らがやるから高嶺は男子と一緒に当日使う用具のチェックしてなよ」
「……分かった。ありがとう」
体よくお払い箱にされたんだよね……でも迷惑かけちゃうし、仕方ないか。
肩を落としながら男子組の方へと向かうと、気落ちした僕を各クラスの男子が励ましてくれたのだった。
「元気だせよ、高嶺!」「こっち一緒にやろーぜ」
女子に追い出された僕に同情して、皆が元気付けてくれる。
でも僕は女子の態度に気落ちしているわけじゃなかった。
結人に迷惑かけちゃったから……それに…………チラリと結人に視線を移すと、今日も今日とて女子に囲まれている。
それどころか他学年の男女の先輩にも頼りにされていて、なんだか遠い世界の人に見えてしまうのだ。
「久楽はいいよな~~男前だし、容量いいから先輩からも頼りにされて。女子は黙ってても寄ってくるし」
「お前じゃ無理だろ」
「るせー!俺だって人気者になりたい人生だった……なぁ、高嶺!そう思うだろ?!」
4組の男子が僕に肩を組んできて、同意を求めてくる。
正直女子にモテたいとか思った事がないし、人気者になりたい気持ちもよく分からないけれど、とりあえずその場のノリを壊さない為に何となく頷いておいた。
「やっぱりお前もか!同志よ!!今日から亮って呼ぶから!」
凄い賑やかな人だな~~でもこの賑やかさが、かえって救われるかも。
正直ここにいるのは辛いから……どうして辛いかは、もう自分の中で答えは出ている。
雫に触られても、駆流クンと距離が近くても、真司に頭を撫でられても、こんなに心臓がうるさくはならない。
女子が結人に触れるのも嫌だ。
周りを囲んでいるのも嫌だ。
僕の方が……僕だって…………僕が一番結人の近くにいたい。
僕は――――幼馴染に恋をしてしまったんだと、ようやく自覚した。
学校からの帰り道、やっぱり僕の様子が変だと思った結人は、自宅近くの歩道で立ち止まり、真剣な表情で理由を聞いてくる。
「亮。俺、お前に何かしたか?」
「え……いや。どうして?」
「明らかに俺に対して態度おかしいだろ。嘘ついてでも避けたいのか」
「え?!いや、違う!!そうじゃなくて…………」
どうしよう、結人が変な方向に誤解している。
だからといって今の段階で自分の気持ちを明かすことは出来ない。
「この前の熱でた時、思いっきり結人に寄っかかって迷惑かけたし、合わせる顔ないなーって」
これは僕の本当の気持ちだった……それにずっとそばにいるって約束を破ったのも僕だから、色々と申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
でも大好きな幼馴染は、そんな僕の気持ちなど杞憂だと言わんばかりに、柔らかく微笑み、頭を撫でてくる。
「なんだ。んなこと気にしてんのか。相変わらず心配症だな」
夕日を背に纏い、金髪が煌めいていてとても綺麗――――
『大好きだよ』
僕だって、好き。
大好き。
でも、気付きたくなかった気持ち。
ただ純粋に大切な幼馴染として、ずっとそばにいたいと思っていたのに。
もし結人の大好きが恋愛的な意味じゃなかったら立ち直れない。
それを確かめる勇気も今はないから、ひとまずこの気持ちは胸に封印しておこう。
『はんぶんこね!』
そう言った幼い頃の結人を思い出し、この気持ちも共有してくれたら……なんて都合のいい事を思ったけれど、そう簡単に物事上手くいかないよねと自嘲し、その日は帰宅したのだった。
翌日――――
自分の気持ちを自覚すると、思いの外気持ちが落ち着いたのか、結人と目が合わせられない状況ではなくなった。
じっくりこの気持ちを育てよう。
そう思った矢先、突然試される出来事はやってくる。
最近は放課後になると結人が教室に来てくれて、体育祭実行委員会がある日は一緒に出席、委員会もバイトもない日は一緒に帰るのが近頃のルーティンになっていたけれど、いくら待っても結人が来ない。
「今日は遅いな」
「クラス行ってみるか?」
雫に促されて結人のクラスに行く途中に、女子と一緒に歩いている幼馴染の後ろ姿を目撃する。
ドクンッ。
心臓が嫌な感じに跳ねた。
「おい。あれって……久楽じゃね?アイツ女子と…………もしかして告白か?」
雫が解説するように僕と同じ考えを口にした。
面白そうだから見に行こうと言われ、断ったけれどやっぱりどうなるか気になり、雫について行く事に。
そしてその事を痛烈に後悔する事になるのだった。
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