【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~

Tubling@書籍化&コミカライズ決定

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夕焼け小焼け

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 もうすぐ体育祭が近いので、放課後に体育祭実行委員会が頻繁に開かれ、結人と顔を合わす日がグッと増えた。

 それは僕にとって嬉しい事のはずなのに、彼を意識し始めてからはちょっと落ち着かない……女子と話している姿を見ると胸が苦しくなるし、仕事で話しかけられると嬉しくて心臓が痛くなる。

 そばにいたい、でも近くにいると息も出来ないくらいドキドキしてしまう。

 自分の気持ちなのに、こんなにコントロールが難しいものなんだと驚き、戸惑う毎日。

 思えばこんなに誰かを好きになって、落ち着きのない日々を過ごすのは初めてかもしれない……僕にとっての本当の初恋なのかも。

 皆と話し合ってる姿を視線でこっそり追う。

 カッコいいなぁ……シャツからのぞく首筋が色っぽい。

 今日は少し後頭部の髪がハネてる。

 可愛い。直してあげたい。

 好きだなぁ。

 でも近づいて髪に触れたら、好きって言っちゃいそうだからムリかも。

 結人を見てるとこんな事ばかり考えちゃうから、煩悩を振り払うように仕事を探す事にした。

 体育祭で使用する用具を体育館に運んだりする仕事に勤しんでいたところに、他クラスの男子の声が耳に入ってきたのだった。

 
 「久楽はいいよな~~さっきも女子が久楽の腕引いて連れてっちまったよ」

 「どうせ自分達の仕事手伝って~って言って連れて行ったんだろ」

 「イケメンは得だよな……金髪だけど。俺も金髪にしよっかな」

 「ムリ無理。モノが違う」

 「「ぎゃははっ!」」


 そっか、女子が……結人の腕を…………胸にモヤモヤした気持ちが充満してくる。

 ダメだ、落ち着かなきゃ。

 体育館で深呼吸していたところに、耳慣れた声が後ろからしてくる。


 「あ、亮クン~~こんなところにいた!」

 「駆流クン?!もう帰ったんじゃ……」

 「今日体育祭実行委員でしょ?一緒に帰りたいな~と思って待ってた」

 「え、まだ仕事あるから遅くなるよ?!」

 「いいよ~~お話したい事もあるし、二人で帰ろ?」


 二人で……結人と一緒に帰りたかったけど、女子に囲まれる彼を想像すると一緒に帰りたい気持ちが萎んでしまい、駆流クンのお誘いに乗っかる事にしたのだった。


 「うん、いいよ」

 「やった!じゃあ校門で待ってるね~~」


 駆流クンは嬉しそうに僕に待ち合わせ場所を告げ、走って去っていった。

 駆流クンってイケメンでキラキラ男子って感じだけど、可愛い感じだよね……彼も結人に負けじと劣らずモテるだろうなぁ。

 あまりクラスでの二人を見た事がないから分からないし、想像でしかないんだけど。

 同じクラスだともう少し接点も増えるよね。

 でも体育祭実行委員での幼馴染のモテっぷりだけでこんなにヘコんでしまうのに、クラスでずっと見なきゃいけなくなるのは嫌かも……違うクラスで良かった。

 そんな事を考えながら仕事をいそいそと片付けてる内にあっという間に帰る時間になり、帰り支度を始めたのだった。

 帰る時間になっても結人の姿はずっと見当たらない。

 でも少し離れたクラスから女子の笑い声が聞こえてきて、そこから結人の名前も聞こえてきたので、別室で女子たちとまだ装飾などの仕事をしているのだというのが分かる。

 他に男子も交じっているけど、人気者の彼を見ると胃のあたりがモヤモヤしてしまう。
 
 やっぱり一緒に帰ろうとしなくて良かった……こんな中に彼に声をかけるなんて無理。

 駆流クンも待ってるし、鞄を背負い、気付かれないようにそそくさと校門まで駆けていったのだった。


 「駆流クン!」

 「亮クン~~来てくれて嬉しいよ!一緒に帰ろう」

 「うん!」


 逃げるように帰ってしまったけど、僕を待っていてくれた駆流クンの顔を見て、少しホッする。

 結人に声をかけられないのは、きっと中学時代のトラウマもあるのかもしれない……まだ普通の学生生活に慣れていないのもあるし、結人の周りにいる人って陽キャな感じの人が多いから。

 自分とは違う世界に思えてしまう。

 でもそんな僕を待っていてくれて、一緒に帰ろうと声をかけてくれる友達の存在に、心底安心感に包まれたのだった。

 二人で駅まで歩きながら他愛もない話をしながら電車に乗り込んだ。


 「そういえば途中の駅でいったん降りてもいい?とっても綺麗な海が遠目から見られる場所があるんだ~~」

 「海?!」

 「日も長くなってきたし」

 「行きたい!!」

 「んじゃ決まり~~」


 海かー……海は結人のお母さんがまだ生きていた頃、家族ぐるみで遊びに行っていたけど、おばさんが亡くなってからはもう行く事はなくなっていた。

 母さんも行こうって言わなくなったな。

 きっとおばさんとの思い出を思い出すのが辛かったのかもしれない。

 大好きな人との思い出ってキラキラしていて幸せな気持ちにさせてくれる時もあるけれど、失ったらとても辛い気持ちにさせられてしんどい時もある。

 今はもう気持ちも落ち着いて行けるだろうけど、もう僕も大きいし家族でって感じではないよね。

 ”気持ち”って、本当に一筋縄ではいかないものなんだなぁとしみじみ感じる。

 恋は幸せな気持ちと苦くて苦しい気持ち、両方くれるからいつも心が忙しい。

 だから今のこの時間みたいに、ゆったりと過ごせる時間がとても安心する。

 そんな事を考えていると、駅に着いたのか駆流クンに手を引かれながら電車から降りたのだった。


 「ここ?」

 「うん。小さい頃に来た事があって……電車で通り過ぎるたびに降りたいなって思ってたんだ」

 「そうなんだ。楽しみ!」

 「行こう」


 電車を降りる時に手を引かれたけど、駆流クンはその後もずっと手を繋いだまま……こういう時どうすればいいんだろう。

 
 「あの、駆流クン……手…………」

 「うん。亮クンとつなぎたいんだ。ダメ?」

 「ダメ、じゃないけど……」

 「亮クンに好きな人がいるのは知ってる。でもまだ付き合ってるわけじゃないんだし、この時間は僕にちょうだい?」


 夕焼けを背中に背負った駆流クンの笑顔が綺麗で、それ以上断る理由が見つからなかった僕は、頷く事しか出来なかった。

 駆流クンは「やった」と一言呟き、前を向いて歩き出した。

 こんなびんぞこ眼鏡で前髪長くてもっさりしている僕と歩いて、どこが嬉しいんだろうか……キラキラ男子の駆流クンとは誰がどう見ても世界線が同じになるとは思えない。

 どうしても自分の自己肯定感が低くて、好きだと言われてもピンとこない自分がいる。

 それはきっと結人に対しても同じで、自分の気持ちに気付いたものの、告白したところで迷惑だろうなとか、未だにキスされたのも熱で浮かされた自分の夢だったのではと思う時もある。

 そんな自分を変えたい……変えたいけど――――


 『お前の顔、マジでウケる』『女みて~~キモッ』『近寄んな』『こっち見んなよ』


 中学生時代に散々刷り込まれた記憶が、なかなか消えてくれない。

 周りはこんなにいい人ばかりなのに。

 皆が良くしてくれるのが、本当に奇跡のように感じる……今を壊したくないんだ。

 雫に心は自由だと言われたのに、こんなにも不自由でままならない自分の気持ち。

 ずっと下を向いて歩いていた僕の頭上から、駆流クンの嬉しそうな声が聞こえてくる。
 
 
 「着いたよ」


 顔を上げると、遠くに海が広がり、ちょうど水平線に日が沈む瞬間を見る事が出来た。

 日の光が水面に煌めき、こんな美しい世界があったのかと思うほど見惚れてしまう。


 「わぁぁ……綺麗…………」

 「凄いよね……海を見ていると自分がちっぽけに思える~~」

 
 いつも軽い口調で言う駆流クンだけど、彼の言葉が僕の心にとても刺さり、僕の悩みも良い意味でちっぽけに感じてくる。

 
 「元気出た?」
 
 「え?」

 「ずっと元気なかったでしょ」
 

 気付いてたんだ……僕が悩んでいた事。

 
 「もしかして今日もその為に?」


 僕の言葉に照れくさそうにニコリと笑った駆流クンは、夕日の光を受けてキラキラと輝いて見えた。

 目じりにじんわりと涙が滲んでくる――――僕の周りには本当にいい人が多いなぁ。

 眼鏡をしていて良かった。

 そう思っていたのに。

 駆流クンの手が僕の眼鏡に触れ、ゆっくりと外していった。


 「ふふっ、泣いてるの?」

 「や、ちがっ」


 恥ずかしくなって腕で咄嗟に顔を隠そうとしたけれど、駆流クンの手で阻まれてしまったのだった。


 「可愛いから隠すことないのに」

 「何言って……」


 頭がぐるぐる混乱してくる。

 確かに好きになったって言われたけど、あれ以来何もなかったし突然の甘い雰囲気に頭がついてこない。

 
 「可愛いよ」


 僕はこの雰囲気に耐えられなくなって顔を上げた。


 「駆流ク…………ッ!」


 次の瞬間、駆流クンに引き寄せられた僕の頬に、柔らかい唇が触れたのだった。
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