あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ

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「ちょっと!あんた!最近アインス様とずっと一緒にいるって、どういうことなのよ!」
「アンナ様を差し置いて、どういう関係なのよ!!」

 授業終わり、いつも通り図書館に向かおうとしていたところ、いきなり数人の女の子に呼び止められ、そのまま流されるように噴水のある広場まで連れてこられてしまった。

 そして、その場所にいたのは僕のことを軽蔑するような目で見つめる、例の図書館で騒いでいた人物だった。

「ちゃんと説明しなさいよ!なんで、あんたみたいな地味で平凡で、なんの取り柄もないやつが、アインス様と絡んでるのよ!」

 どうやら、僕とアインスの関係が熱烈なファンに見られてしまってらしい。そういえば、この人......アンナっていう名前だったな。

「そんなこと、僕に言われても知らないよ。直接アインスに聞いたらどうなの?」

「わたくしだって、それが叶うのならそうしてますわ!!でも、アインス様はお忙しい方なの。わたくしごときが時間をとって、お手を煩わせるわけにもいかないでしょう?」

 ふ~ん、追いかけまわしてたくせに、そういうところは配慮してるんだ。そう思うと変なところで気を遣ってるんだなと思い、つい小さく、くすっと笑ってしまった。

「なにがおかしいのよ!!!」

 顔を真っ赤にしたアンナが僕のことをドンっ、と強く突き飛ばしてきた。その反動で、僕は背後にあった噴水に落ちてしまった。

 水深はそれほどでもなく、溺れることはなかったが、そのせいで服はすっかりびしょ濡れになってしまった。......まぁ笑ってしまったのは僕に落ち度があるかな。

 少しだけ胸の内で反省していると、アンナの取り巻きの一人が声を発した。

「私、見たんだから!アインス様とあなたが、キスしてたの!関係ないなんて言わせないわ!」

 キ、ス?
 なにを言っているんだ。あまりにも心当たりがなさすぎる。そんな言いがかりをつけてまで、僕がアインスといるのが気に食わないのかな。そもそも、誰かとキスなんて一度もしたことがないし、されたことなんて、なおさらだ。

「勘違いだと思うよ?僕とアインスは、本当にただの友達......だから。」

「はっ!どうだかね?でも、アインス様も迷惑してるんじゃないかしら?あんたみたいなやつに勉強まで教えて、同情かなにかで誘ったのか知らないけど......アインス様も気の毒だわ。あんたみたいな出来損ないに、時間を取られてしまって。」

 アインスが僕に同情する理由なんてどこにもないのに。出来損ないだの、平民のくせにだの......この人は他人を貶めることでしか自分を保てないのかな。アインスのどこがいいか聞いたときも外面だけだったし。

 それに、どちらかというとーーアインスが苦労しているのは君たちのせいなんだけどね。

 そう、喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。これ以上、面倒なことになるのはごめんだ。

「まぁ、いいわ。これに懲りたら今後は自分の行動を改めることね。行きましょ。」

 ふんっ、と高らかに鼻を鳴らしながらアンナは踵を返した。取り巻きの女の子たちも、濡れた僕を見てくすくすと笑いながら、アンナの後に続いていった。

「今日は散々だなぁ......。これじゃあ図書館に行けなそうにないな......うわぁ、しかも下着まで濡れてる......。」

 はぁ、と深くため息をついた。アインスがもしすでに図書館に来ていたら、という申し訳なさもあったが、それ以前にーー自分の趣味の時間が潰れてしまったことの方が、正直ショックだった。

 幸いなことに、教科書やノートの入ったリュックは濡れていなかったので、そこだけは不幸中の幸いだと、ほっとした。

 濡れたまま、とぼとぼと寮へ向かっているとーー今、一番会ってはまずい人と、ばったり蜂合わせてしまった。

「あれシューン?どうしたの?ずぶ濡れだけど。」

「アインス......あはは。ちょっとドジしちゃって。」

 僕とアインスが話していると、隣にいたアインスの友人らしき人物が、不思議そうにこちらを見ていた。

「シューン??あぁ、アインスのお気に入......」

「ラウド。余計なことは言うな。」

「ごめんごめん、そんな怒んなよな。」

「シューン、とりあえず俺の部屋に行こう。服も貸す。」

「えっ、いいって!僕、今から自分の部屋に取りに......」

 僕が半歩後ずさって引き返そうとしたとき、アインスの友人に肩を掴まれ、そのまま強引に連行された。

「まぁまぁそう言わずに、行こうぜシューン。あ、ちなみに俺は騎士科のラウドな!よろしく!」

「よ、よろしく。」

 なんだかアインスとはタイプが真逆だな。

「風邪引いちゃうから早く。」

 アインスはやや早歩きで、僕の手を握りながら歩いていく。本当に大丈夫なんだけどな......そう思いつつも、僕はアインスとラウドに大人しくついていくしかなかった。

 


































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