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25.まっしろ自販機②(怖さレベル:★☆☆)
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ふっ、と一週間前の記憶が蘇りました。
大好きな炭酸飲料、
一緒に出てきた謎の飲料缶。
サチコちゃんの食中毒――
まさか、まさか。
――ちゃり、ちゃりっ。
乱暴に硬貨を投入しました。
小学生のお小遣いの額なんてたかが知れていて、
ありったけの手持ちの硬貨を入れました。
しかし、ピカ、ピカ、と赤いランプが点滅し、
自販機に表示された金額は『90円』という無常なものです。
購入できる缶の最低金額は100円からでしたから、
あとほんの少しだけ、お金が足りなかったのです。
「うう……」
どこか泣きたい気持ちで釣銭戻しのフックを連打し、
ざらざらと流れてきた小銭を雑に財布に押し込みます。
なんだか自分がとてもバカな思い込みをしている気がして、
情けなさを振り切るように駆け出しました。
ぜぇはぁと息を切らしながら自宅に駆けこむと、
母が電話をしているところに遭遇しました。
「はい……そうですか……
それはお気の毒で……お通夜は明日?
ええ、うちも伺います……」
帰ってきた私に軽く目配せした後、
母は再び電話へと戻りました。
サチコちゃんのお葬式の話でしょう。
憂鬱な気分のままランドセルを置き、
バシャバシャと洗面台で手を洗います。
その勢いで、チャリ、
とポケットから何かが落ちました。
拾い上げてみれば、
それはどこか古びた10円玉でした。
「あっ……!」
そういえば、
お皿洗いのお駄賃をポケットにしまっていたのです。
これがあれば、
手持ちと合わせてちょうど100円になります。
慌ててリビングに戻って財布を探っていると、
電話を終えた母がやってきました。
「ユウ、聞いた?
サチコちゃんが亡くなったの……」
眉根を寄せる母に学校で聞いたことを伝えると、
しきりに頷きが返ってきました。
「うん、お母さんもね、
さっき聞いたんだけど……それだけじゃなくってね」
「えっと、それだけじゃない、って?」
「学校から帰るとき、田んぼの道を通るでしょ?
あそこの田んぼの持ち主のおじいさんもね……亡くなったの」
「……えっ」
さあっと血の気が引きました。
あの田んぼには、
あの白い自動販売機があります。
持ち主ならば、
きっと利用するでしょう。
二人も、
しかも連続して。
ただ偶然の一致とは思えません。
だから、おそるおそる、
母にあの日のことを話したんです。
そうしたら、
母の表情はみるみるうちに険しくなり、終いには、
「話してくれてありがとう、ユウ。
お母さん、また電話しなきゃいけないみたい」
そういって、
再びどこかへと電話をかけはじめました。
自分はといえば、正直に話をしたものの、
どこかいたたまれなさというか、
妙な罪悪感と緊張感を感じたことを覚えています。
そして――あの白いオブジェは撤去されました。
どうやら二人が亡くなった原因は、
やはりあの自動販売機の中から出てきたものが原因だったようです。
どうやったのか、あの缶の内容物のなかに、
重い食中毒菌だか、それに似た毒だかが入れられていて、
二人はそれで亡くなったのだとか。
そしてその缶は――
悪意を持った第三者が、
勝手に取り出し口へ入れておいたものらしい、とか。
うちの学校でも、
しばらくは自動販売機の使用禁止令がひかれ、
落ちている食料品などを勝手に持ち帰らないこと、
あやしい人物をみかけたら連絡すること、
などが徹底されました。
今年、もう年齢も四十歳を迎え、
あの頃の自分を四倍する年齢となっても思うことがあるのです。
あの帰り道、
私が彼女にあの缶をプレゼントしなければ、
その爆弾を受け取るのは私だったでしょう。
故意ではなかった。
知らなかった。
彼女もそれを欲しがった。
それでも、
それを渡してしまったのは、
まぎれもない私自身です。
――私は、人殺しなのでしょうか?
そして、恐ろしいことに――今なお、
その毒を仕込んだ犯人は捕まっていないのです。
大好きな炭酸飲料、
一緒に出てきた謎の飲料缶。
サチコちゃんの食中毒――
まさか、まさか。
――ちゃり、ちゃりっ。
乱暴に硬貨を投入しました。
小学生のお小遣いの額なんてたかが知れていて、
ありったけの手持ちの硬貨を入れました。
しかし、ピカ、ピカ、と赤いランプが点滅し、
自販機に表示された金額は『90円』という無常なものです。
購入できる缶の最低金額は100円からでしたから、
あとほんの少しだけ、お金が足りなかったのです。
「うう……」
どこか泣きたい気持ちで釣銭戻しのフックを連打し、
ざらざらと流れてきた小銭を雑に財布に押し込みます。
なんだか自分がとてもバカな思い込みをしている気がして、
情けなさを振り切るように駆け出しました。
ぜぇはぁと息を切らしながら自宅に駆けこむと、
母が電話をしているところに遭遇しました。
「はい……そうですか……
それはお気の毒で……お通夜は明日?
ええ、うちも伺います……」
帰ってきた私に軽く目配せした後、
母は再び電話へと戻りました。
サチコちゃんのお葬式の話でしょう。
憂鬱な気分のままランドセルを置き、
バシャバシャと洗面台で手を洗います。
その勢いで、チャリ、
とポケットから何かが落ちました。
拾い上げてみれば、
それはどこか古びた10円玉でした。
「あっ……!」
そういえば、
お皿洗いのお駄賃をポケットにしまっていたのです。
これがあれば、
手持ちと合わせてちょうど100円になります。
慌ててリビングに戻って財布を探っていると、
電話を終えた母がやってきました。
「ユウ、聞いた?
サチコちゃんが亡くなったの……」
眉根を寄せる母に学校で聞いたことを伝えると、
しきりに頷きが返ってきました。
「うん、お母さんもね、
さっき聞いたんだけど……それだけじゃなくってね」
「えっと、それだけじゃない、って?」
「学校から帰るとき、田んぼの道を通るでしょ?
あそこの田んぼの持ち主のおじいさんもね……亡くなったの」
「……えっ」
さあっと血の気が引きました。
あの田んぼには、
あの白い自動販売機があります。
持ち主ならば、
きっと利用するでしょう。
二人も、
しかも連続して。
ただ偶然の一致とは思えません。
だから、おそるおそる、
母にあの日のことを話したんです。
そうしたら、
母の表情はみるみるうちに険しくなり、終いには、
「話してくれてありがとう、ユウ。
お母さん、また電話しなきゃいけないみたい」
そういって、
再びどこかへと電話をかけはじめました。
自分はといえば、正直に話をしたものの、
どこかいたたまれなさというか、
妙な罪悪感と緊張感を感じたことを覚えています。
そして――あの白いオブジェは撤去されました。
どうやら二人が亡くなった原因は、
やはりあの自動販売機の中から出てきたものが原因だったようです。
どうやったのか、あの缶の内容物のなかに、
重い食中毒菌だか、それに似た毒だかが入れられていて、
二人はそれで亡くなったのだとか。
そしてその缶は――
悪意を持った第三者が、
勝手に取り出し口へ入れておいたものらしい、とか。
うちの学校でも、
しばらくは自動販売機の使用禁止令がひかれ、
落ちている食料品などを勝手に持ち帰らないこと、
あやしい人物をみかけたら連絡すること、
などが徹底されました。
今年、もう年齢も四十歳を迎え、
あの頃の自分を四倍する年齢となっても思うことがあるのです。
あの帰り道、
私が彼女にあの缶をプレゼントしなければ、
その爆弾を受け取るのは私だったでしょう。
故意ではなかった。
知らなかった。
彼女もそれを欲しがった。
それでも、
それを渡してしまったのは、
まぎれもない私自身です。
――私は、人殺しなのでしょうか?
そして、恐ろしいことに――今なお、
その毒を仕込んだ犯人は捕まっていないのです。
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