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26.スズメの報復②(怖さレベル:★☆☆)
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「こんなオモチャでも、バカな鳥とか、
クソ犬たちをなぶってんのは
面白かったが……やっぱ、人、だよなぁ」
銃口をこちらへ向け、
垂れた目が狂気の色を宿して笑っています。
「っ、い、ぐっ」
パスッ、パスッ。
あの黄色い弾丸が、
肩と膝を標的に容赦なく叩きつけられました。
ひるんでしゃがみこんだこちらを見下ろし、
逆光で暗く霞んだ男の赤い舌だけが妙に鮮やかです。
「猫から試そうと思ってたが……
ぶっつけ本番、ってのも悪くねェ」
スッ、と。
男は肩にかけていたスポーツバックの中に手を入れ、
ヌラリと細長いモノを取り出しました。
「……う、っ」
それは、
にぶい銀色の光を放つ包丁。
「……は、犯罪者っ……!」
僕の口から出るのはそんな拙い台詞くらいで、
ガクガクと震える両足は、
ちっとも役に立ちません。
「犯罪者ね……ま、バレなきゃ問題ねぇさ」
一歩、二歩。
しゃがんだままズリズリと惨めったらしく後ずさるも、
「う”っ……!」
パシュッ、
と足首にBB弾がさく裂します。
痛みに悶絶するこちらを見降ろし、
おじさんは満足げに口の端を吊り上げました。
「ははっ。こんな時間まで遊んで、イケナイガキだ。
ちょっと痛いけどな、すぐあの世に送ってやるよ」
ギラ、と頭上で鈍色の金属が振りかざされます。
――殺される。
身動きもできず、
振り下ろされる銀色の刃を呆然と見守った、
その瞬間。
バサバサバサッ
突如、
目前に茶色の吹雪が舞いました。
「え、っ……!?」
――鳥です。
それは、スズメの大群。
――それも、
十匹、ニ十匹どころでない、
まさに鳥の吹雪のような。
「な、あっ!? ぐ、クソッ」
足元にカチャンとBB弾の銃を取り落とし、
男は包丁を振り回して
スズメたちを追い払おうとしています。
「ぐっ、イテェ、このっ」
しかし、鳥たちはまるで攻勢を緩めようとはせず、
男の腕、足、頭――さまざまに襲い掛かりました。
呆然と見守るボクの視界の前で、
するどいクチバシの攻撃によって、
男の身体に赤い血が滲みだしてきます。
「このッ……ふざけんな、っ!」
逆上して振り上げた、その包丁。
それが、
空を舞う黒いスズメのクチバシにぶつかり、
くるり、
と宙で方向を変えて――
「あ、ぎ、ぎぃああぁぁあ!」
男の見開いたその右目に、
深々と突き刺さったのです。
「いぎ、っ……ぐ、う」
その刃はザックリとそこに差し込まれ、
男が必死に引き抜こうとするも、
脂汗でぬめるのか、なんどもなんども柄の部分から滑っています。
「う、あ、ぁあ……」
僕は両手で口を抑え、
目前で繰り広げられる男のあがきを
呆然と見守っていました。
この惨劇を引き起こした男が
やっとのことで包丁を引き抜いた目を
押さえてのたうち回る前で。
飛んでいた黒いスズメがチラリ、
とこちらを見たように思いました。
「あ……クロ……?」
まさか、という思いと共に、
そっと指先を伸ばそうとした時。
「ひ、悲鳴が聞こえたぞっ!」
「なんだ、なにがあった!?」
と、男のあまりの絶叫に、
近所の人たちが集まってきたのです。
「わっ、し、小学生がいるぞ!」
「こっちは、血が出てる……! あ、猫もいるぞ!!」
「ボク、大丈夫?」
わらわらと集ってきた大人たちに助け出され、
ボクはさきほどまでの恐怖と、突如訪れた安心のため、
ひと言もしゃべることができぬまま、病院へと連行されました。
それから数日後。
僕は、
スズメたちのお墓の前に立っていました。
僕の怪我は、BB弾が当たった所はまだ
紫色の打撲痕として残っているものの、
あとは軽い捻挫で済みました。
あのおじさん。
彼はやっぱりあのスズメや、
犬猫の虐待の犯人だったようで、
ずいぶんと前から、色々とやらかしていたようでした。
そして、包丁が突き刺さった彼の右目は、
病院の処置によって全摘出は免れたものの、
二度と元の視力には戻れない、そうです。
大人たちは口々に、
命を弄んだ報いだと噂をしていました。
そう、報い。
あの時。
あの、今にも殺されそうになったあの刹那。
まるで図ったかのように、
僕はスズメたちに救われました。
そして、その代わり、
僕を救ったことで失われた命もあって。
あのなん百というスズメたちは、
大人たちが助けに入ってから、
いつの間にか姿を消してしまっていました。
しかし、その場には、
何匹か男の凶器に傷つけられて倒れ伏した鳥たちが数羽、
絶命していて。
近所の人たちの計らいで小さなお墓が作られ、
ようやく親から外出許可を得た僕は、
森の傍に作られたお墓の前にやってきていたのです。
「……ありがとう」
僕は丁寧にお墓に手を合わせ、
小さく頭を下げました。
男性の目をくらませた、
ひときわ目立ったあの黒いスズメ。
仕事は果たした、とばかりに
路地の冷たい路面に転がって
死んでしまっていたあの子。
身を挺して僕を守ってくれたクロたちのことを、
僕は決して忘れません。
そして……ええ、そうなんです。
今年ようやく、
長年の夢であった野鳥の保護センターに
勤めることが決まりました。
僕のことを助けてくれた彼らを、
今度は僕が守る番だと、
道を示してくれた彼らに、今でも感謝しています。
クソ犬たちをなぶってんのは
面白かったが……やっぱ、人、だよなぁ」
銃口をこちらへ向け、
垂れた目が狂気の色を宿して笑っています。
「っ、い、ぐっ」
パスッ、パスッ。
あの黄色い弾丸が、
肩と膝を標的に容赦なく叩きつけられました。
ひるんでしゃがみこんだこちらを見下ろし、
逆光で暗く霞んだ男の赤い舌だけが妙に鮮やかです。
「猫から試そうと思ってたが……
ぶっつけ本番、ってのも悪くねェ」
スッ、と。
男は肩にかけていたスポーツバックの中に手を入れ、
ヌラリと細長いモノを取り出しました。
「……う、っ」
それは、
にぶい銀色の光を放つ包丁。
「……は、犯罪者っ……!」
僕の口から出るのはそんな拙い台詞くらいで、
ガクガクと震える両足は、
ちっとも役に立ちません。
「犯罪者ね……ま、バレなきゃ問題ねぇさ」
一歩、二歩。
しゃがんだままズリズリと惨めったらしく後ずさるも、
「う”っ……!」
パシュッ、
と足首にBB弾がさく裂します。
痛みに悶絶するこちらを見降ろし、
おじさんは満足げに口の端を吊り上げました。
「ははっ。こんな時間まで遊んで、イケナイガキだ。
ちょっと痛いけどな、すぐあの世に送ってやるよ」
ギラ、と頭上で鈍色の金属が振りかざされます。
――殺される。
身動きもできず、
振り下ろされる銀色の刃を呆然と見守った、
その瞬間。
バサバサバサッ
突如、
目前に茶色の吹雪が舞いました。
「え、っ……!?」
――鳥です。
それは、スズメの大群。
――それも、
十匹、ニ十匹どころでない、
まさに鳥の吹雪のような。
「な、あっ!? ぐ、クソッ」
足元にカチャンとBB弾の銃を取り落とし、
男は包丁を振り回して
スズメたちを追い払おうとしています。
「ぐっ、イテェ、このっ」
しかし、鳥たちはまるで攻勢を緩めようとはせず、
男の腕、足、頭――さまざまに襲い掛かりました。
呆然と見守るボクの視界の前で、
するどいクチバシの攻撃によって、
男の身体に赤い血が滲みだしてきます。
「このッ……ふざけんな、っ!」
逆上して振り上げた、その包丁。
それが、
空を舞う黒いスズメのクチバシにぶつかり、
くるり、
と宙で方向を変えて――
「あ、ぎ、ぎぃああぁぁあ!」
男の見開いたその右目に、
深々と突き刺さったのです。
「いぎ、っ……ぐ、う」
その刃はザックリとそこに差し込まれ、
男が必死に引き抜こうとするも、
脂汗でぬめるのか、なんどもなんども柄の部分から滑っています。
「う、あ、ぁあ……」
僕は両手で口を抑え、
目前で繰り広げられる男のあがきを
呆然と見守っていました。
この惨劇を引き起こした男が
やっとのことで包丁を引き抜いた目を
押さえてのたうち回る前で。
飛んでいた黒いスズメがチラリ、
とこちらを見たように思いました。
「あ……クロ……?」
まさか、という思いと共に、
そっと指先を伸ばそうとした時。
「ひ、悲鳴が聞こえたぞっ!」
「なんだ、なにがあった!?」
と、男のあまりの絶叫に、
近所の人たちが集まってきたのです。
「わっ、し、小学生がいるぞ!」
「こっちは、血が出てる……! あ、猫もいるぞ!!」
「ボク、大丈夫?」
わらわらと集ってきた大人たちに助け出され、
ボクはさきほどまでの恐怖と、突如訪れた安心のため、
ひと言もしゃべることができぬまま、病院へと連行されました。
それから数日後。
僕は、
スズメたちのお墓の前に立っていました。
僕の怪我は、BB弾が当たった所はまだ
紫色の打撲痕として残っているものの、
あとは軽い捻挫で済みました。
あのおじさん。
彼はやっぱりあのスズメや、
犬猫の虐待の犯人だったようで、
ずいぶんと前から、色々とやらかしていたようでした。
そして、包丁が突き刺さった彼の右目は、
病院の処置によって全摘出は免れたものの、
二度と元の視力には戻れない、そうです。
大人たちは口々に、
命を弄んだ報いだと噂をしていました。
そう、報い。
あの時。
あの、今にも殺されそうになったあの刹那。
まるで図ったかのように、
僕はスズメたちに救われました。
そして、その代わり、
僕を救ったことで失われた命もあって。
あのなん百というスズメたちは、
大人たちが助けに入ってから、
いつの間にか姿を消してしまっていました。
しかし、その場には、
何匹か男の凶器に傷つけられて倒れ伏した鳥たちが数羽、
絶命していて。
近所の人たちの計らいで小さなお墓が作られ、
ようやく親から外出許可を得た僕は、
森の傍に作られたお墓の前にやってきていたのです。
「……ありがとう」
僕は丁寧にお墓に手を合わせ、
小さく頭を下げました。
男性の目をくらませた、
ひときわ目立ったあの黒いスズメ。
仕事は果たした、とばかりに
路地の冷たい路面に転がって
死んでしまっていたあの子。
身を挺して僕を守ってくれたクロたちのことを、
僕は決して忘れません。
そして……ええ、そうなんです。
今年ようやく、
長年の夢であった野鳥の保護センターに
勤めることが決まりました。
僕のことを助けてくれた彼らを、
今度は僕が守る番だと、
道を示してくれた彼らに、今でも感謝しています。
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