【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
81 / 415

37.片足だけのハイヒール②(怖さレベル:★☆☆)

しおりを挟む
中途半端に開いたカバンから何かが転がったようです。
財布でも飛び出したか、と目線を落とすと、

「……ひ、ぃっ」

私は立ったまま足がもつれ、
ドスン、と思わず尻もちをつきました。

そのカバンからこぼれたもの。

それは、今日なんども道端で見かけた、
あの黄色いハイヒールだったのです。

「な……なん、なんで」

カラカラの喉からヒューヒューと呼気がこぼれ、
ズリズリとその物体から後ずさります。

会社を出てからうちにたどり着くまで、
一度たりともカバンなど開けていないのに。

帰る時だって、他に残業していたのは男の社員二人だけで、
とてもイタズラをするような人たちではないし、
帰り道でも誰一人としてすれ違う人もいなかったのです。

そう、誰も、
私のそばには近寄っていない。

それこそ、姿も気配もない、
幽霊でもなければ――。

と、そう考えた瞬間。

カツ、カツ、カツ。

ハイヒールのかかとを鳴らす高らかな音が、
扉の外、アパートの廊下の方から聞こえてきました。

尻もちをつき、のけ反った中途半端な姿勢で、
一気に全身に緊張が走りました。

(ま……さか……)

カツ、カツ、カツ。

一定の間隔で鳴るその音。

私の脳内では、あの少し薄ボケた黄色い靴が、
ゆっくりと履く人もなしに一人歩きしているという、
イヤな映像がありありと浮かびました。

(そ、そんなわけない。偶然、偶然……)

落ち着こうと深呼吸をくりかえした私の目の前には、
あの、カバンからこぼれたハイヒール。

「う……っ」

そうだ。これだって、
いったいどうして私のカバンに。

自分の私物、ということは考えられません。

私は、黄色いハイヒールなんて、
今まで一度も所有したことすらないのです。

カツカツと扉の外で響く音に怯えつつ、
私は、ためらいつつもその靴をそっと摘まみました。

やはり、擦り切れた靴のかかと。
布地にわずかに残る砂汚れ。

まさか、無意識のうちに拾っていた?

でも、あれには近寄らなかったはず……。

と。

カツ、カツ――カツン。

「…………!」

一定の間隔で聞こえていた足音が、
不意に止まりました。

「え……」

それは、すぐそばで。

そう、まさに、
この部屋の真正面に止まったのです。

「ひ、ぃ……っ」

私は身体を縮こまらせて、必死に息を殺しました。

中にいることを、
気づかれてはいけない。

玄関先で、身じろぎすることすら恐ろしく、
ブルブルとただただ身体を震わせていた時。

カンカンカン。

扉が、叩かれます。

「う"っ……」

その音は、拳で叩いたにしては妙に高く、
まるで、そう、ヒールの底を、
そのまま扉に打ち付けでもしているかのような――。

「だ……だめ」

私は、息を潜めてもムダなのか、
と絶望的な気分で、しゃがみこんだままズルズルと後退しました。

そして、足元に散らばったカバンの中身、
転がっていた例の黄色のハイヒールに、
スッと視線が吸い寄せられました。

「こ、のッ……!」

その時、今となっては
どうしてそのような行動をとったのかわかりません。

私は、その見るも恐ろしいハイヒールを、
怒りに任せて引っ掴み――

全力をもって、
べランダから外へと放り投げたのです。

ボギィッ

靴が折れるにしては異様な音がした次の瞬間。

シン――
と、突如、その場を静寂が支配しました。

「……は、はぁ、はぁ……」

扉をノックする音も止み、
夜のアパートはいつもの静かな雰囲気を取り戻しています。

「……はあー」

私は全身から力が抜け落ち、
その場に大の字に寝転んでしまいました。



翌日。

私はあの放り投げた靴の行方が気にかかり、
日の差し始めた明け方に、そっと探しに部屋を出ました。

あれだけの音を立てたので、
きっとバラバラの状態で落ちているのだろう、と
投げた方角を探したのですが、
それらしき物体はどこにも見つかりませんでした。

アパートの入り口付近に転がっていたアレも、
コンビニの敷地にあったものも、
あの、会社帰りの道にあったものすらも――
何一つ、キレイさっぱり消え去っていたのです。

その日、それとなく社内に黄色のハイヒールを
履いている人がいないかもチェックしましたが、
もともと男性の多い会社ゆえに、該当者もおりませんでした。

あの日、どうしてあんなコトが私の身に起きたのか。
いったいアレはなんだったのか。

なにもかも謎のまま。

今となっては荒れ果てていた
自分自身が見せた幻だったのか――と思っています。

しかし、あの脳裏に焼け付くコツコツという音は
今でも記憶に刻みついて、
あの靴の音を聞くたびに、ゾッと全身に悪寒が走ってしまうんです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...