96 / 415
43.裏山公園の幽霊②(怖さレベル:★☆☆)
しおりを挟む
「あ、久保ちゃんはホント、ついてきてくれるだけで良いの。
あたし、幽霊に謝りたくて……ユリカ、まだ目を覚ましてないの。
あの滑り台のところで謝るから……リンちゃんは、
あたしに何かあったら連絡してもらうのをお願いしたくて」
と、困ったように笑いました。
それだけ聞けば、確かにその程度であれば、
協力してあげるのも悪くないように思えました。
事実、ユリカちゃんはここ二、三日学校にきていません。
風邪というのだって、きっと嘘なのでしょう。
「……ついてくだけでいいんだね?」
「うん、お願い!」
パン! と両手を合わせた彼女に、
よし、と頷こうとした、その時。
ピリリリ。
「わっ」
私の持つコドモ携帯が鳴りました。
「マユちゃん、ちょっとごめん……お母さんからだ」
携帯の表示に出た名前に、慌てて電話へと出ました。
「もしもし、どしたの?」
『もしもし!? 実はね、おばあちゃんが……倒れて! すぐ病院行くから、すぐうちに戻ってきなさい!』
「えっ……おばあちゃんが!?」
県外に住む母方の祖母には、いつも非常にかわいがってもらっていました。
その一大事となれば、すぐさま向かわねばなりません。
「マユちゃん、ごめん! おばあちゃんが倒れて……
すぐうちに帰んなきゃいけなくて……悪いけど、別の子誘ってくれる?」
「えっ……く、久保ちゃん!?」
「ホント、ごめん!!」
未だ呆然と佇む彼女に頭だけ下げて、
私はわき目もふらずに自宅へと一直線で帰りました。
友情ももちろん大事ですが、
祖母が倒れたとなれば話は別です。
母はすでに支度も済んでいて、
とんで帰ってきた私を車へ放り込み、
県外の病院へと向かったのです。
「おばあちゃん、元気そうで良かったね」
「う……うん」
まさに飛ぶように急いて向かった祖母の入院先。
受付を済ませて病室に入れば、
危篤とは程遠い状態の朗らかな祖母の姿がありました。
拍子抜けする私と母に対し、
祖母の傍らにたたずむ叔父さん――祖母の弟がペコペコと頭を下げてきました。
なんでも、祖母はいわゆる食あたり、
つまり食中毒でぶっ倒れ、一時は本当に危険な状態だったそうですが、
胃洗浄と点滴などでだいぶ持ち直したのだそうです。
てっきり、脳か心臓の疾患だと思っていた私と母は、
安心してヘロヘロと病室に崩れ落ちたのでした。
(あれ……マユちゃん、お休み?)
翌日、学校へ顔を出すと、
昨日あんな話をした彼女の姿がありません。
(……まさか、一人でアレを実行しちゃったんじゃ……)
祖母の件でドタキャンしてしまった負い目が、
じわじわと私を苛みます。
まさか、私が一緒に行かなかったせいで、
もしかしたら、彼女は――と、
登校して早々、泣きそうな気分になっていると、
ガラッと勢いよくドアを開けて、ユリカちゃんが元気に登校してきました。
「おはよー!」
「あ、あれ……ユリカちゃん、大丈夫なの?」
私がマユちゃんから聞いていた、
彼女が幽霊によって呪われた、というような話を思い返し、思わず駆け寄りました。
「えー? あっ、風邪のこと? うん、ちょっと熱が長引いただけだし」
「え? い、いやそうじゃなくて……あの山の上の公園、行ったって聞いたけど」
笑う彼女の腕を引き、
教室の隅でそっと尋ねました。
「うん? 公園って……あの幽霊が出るトコ?」
「う、うん……行ったんでしょ?」
と、私はこそこそと問いかけましたが、彼女はキョトンとした表情を晒し、
「え、行ってないけど」
「……えっ?」
まるきりつじつまの合わないことを言うのです。
「行かないよぉ。あたし、お化けとか苦手だしー、
第一、行きたがる友だちもいないしさぁ」
と、少々気恥ずかし気につぶやく彼女に、
私はますます意味がわからなくなり、おずおずと口に出しました。
「え……だって、マユちゃんがユリカちゃんと一緒に行ったって言ってたよ」
昨日の記憶を思い返しつつ、ハッキリと彼女に伝えると、
「え? マユって……だって、あの子、今週いっぱいおじいちゃんち帰るって言ってたけど」
「……はっ?」
私はその言葉に、頭が真っ白になりました。
「え、う、ウソ……昨日、確かに」
「昨日? うーんと……あっ、これこれ。
携帯におじいちゃんちの写真、送ってくれてるよ」
ひょい、と彼女が子ども用携帯の画面を見せてくれました。
そこには、彼女の祖父母らしき人物と、
はにかみながら笑う本人の映像が、昨日の日付で記載されています。
「そ……そっか。ごめん、なんか勘違いしてたみたい……」
「そう?」
それ以上追及することもできず、私はフラフラと席に着きました。
(え、なに? ……どういう、こと?)
昨日会話した人物、それは間違いなく、
マユちゃん――そう、隣の席の彼女で間違いありません。
しかし、確かに記憶を思い返せば、
朝から彼女がいたかどうか、ハッキリと思い返せないのです。
(え……あ、れ?)
それどころか、私がマユちゃんと思い込んでいた彼女。
その彼女の顔がなぜか、ぼんやりとぼやけています。
そればかりではありません。
彼女の服装、声、表情に至るまで――
確かに言葉を交わしたはずであるのに、どこか曖昧に
ぼやけて、薄れて、思い返せないのです。
(え……じゃあ、マユちゃん……いや、あの子は)
彼女はいったい、誰だった?
いや――何だった?
そして、祖母の危篤の連絡が入らず、
誘われるがままについていっていたら――どうなっていた?
私を連れていこうとした彼女の様子をどうにか思い出そうとしても、
幻の向こうに掻き消えて、ろくに映像にすらなりませんでした。
翌週。
無事に学校に登校してきた本物のマユちゃんに、
先週のことを詳しく聞きました。
やはり、ユリカちゃんの話していた通り、
一週間まるまる遠方の祖父母のうちに行っていたそうで、
山の上の公園の話を出してみても、
ウワサ程度しか知らないようでした。
そして、その怪談――幽霊の出る滑り台の話は、
結局私が卒業するまで、ブームが去ったり再来したりながらも、
完全に消え去ることなく残っていました。
あの子――マユちゃんに扮していた少女は、
あの公園に現れるという幽霊、であったのでしょうか。
それとも、あの怪談に引き込まれてしまった、
被害者の一人であったのでしょうか。
もはやおぼろげな記憶としてしか残っていない彼女のことを、
成人し、子を成した今、再びこの子が誘われるのではないかと、
ただそればかりが恐ろしいのです。
あたし、幽霊に謝りたくて……ユリカ、まだ目を覚ましてないの。
あの滑り台のところで謝るから……リンちゃんは、
あたしに何かあったら連絡してもらうのをお願いしたくて」
と、困ったように笑いました。
それだけ聞けば、確かにその程度であれば、
協力してあげるのも悪くないように思えました。
事実、ユリカちゃんはここ二、三日学校にきていません。
風邪というのだって、きっと嘘なのでしょう。
「……ついてくだけでいいんだね?」
「うん、お願い!」
パン! と両手を合わせた彼女に、
よし、と頷こうとした、その時。
ピリリリ。
「わっ」
私の持つコドモ携帯が鳴りました。
「マユちゃん、ちょっとごめん……お母さんからだ」
携帯の表示に出た名前に、慌てて電話へと出ました。
「もしもし、どしたの?」
『もしもし!? 実はね、おばあちゃんが……倒れて! すぐ病院行くから、すぐうちに戻ってきなさい!』
「えっ……おばあちゃんが!?」
県外に住む母方の祖母には、いつも非常にかわいがってもらっていました。
その一大事となれば、すぐさま向かわねばなりません。
「マユちゃん、ごめん! おばあちゃんが倒れて……
すぐうちに帰んなきゃいけなくて……悪いけど、別の子誘ってくれる?」
「えっ……く、久保ちゃん!?」
「ホント、ごめん!!」
未だ呆然と佇む彼女に頭だけ下げて、
私はわき目もふらずに自宅へと一直線で帰りました。
友情ももちろん大事ですが、
祖母が倒れたとなれば話は別です。
母はすでに支度も済んでいて、
とんで帰ってきた私を車へ放り込み、
県外の病院へと向かったのです。
「おばあちゃん、元気そうで良かったね」
「う……うん」
まさに飛ぶように急いて向かった祖母の入院先。
受付を済ませて病室に入れば、
危篤とは程遠い状態の朗らかな祖母の姿がありました。
拍子抜けする私と母に対し、
祖母の傍らにたたずむ叔父さん――祖母の弟がペコペコと頭を下げてきました。
なんでも、祖母はいわゆる食あたり、
つまり食中毒でぶっ倒れ、一時は本当に危険な状態だったそうですが、
胃洗浄と点滴などでだいぶ持ち直したのだそうです。
てっきり、脳か心臓の疾患だと思っていた私と母は、
安心してヘロヘロと病室に崩れ落ちたのでした。
(あれ……マユちゃん、お休み?)
翌日、学校へ顔を出すと、
昨日あんな話をした彼女の姿がありません。
(……まさか、一人でアレを実行しちゃったんじゃ……)
祖母の件でドタキャンしてしまった負い目が、
じわじわと私を苛みます。
まさか、私が一緒に行かなかったせいで、
もしかしたら、彼女は――と、
登校して早々、泣きそうな気分になっていると、
ガラッと勢いよくドアを開けて、ユリカちゃんが元気に登校してきました。
「おはよー!」
「あ、あれ……ユリカちゃん、大丈夫なの?」
私がマユちゃんから聞いていた、
彼女が幽霊によって呪われた、というような話を思い返し、思わず駆け寄りました。
「えー? あっ、風邪のこと? うん、ちょっと熱が長引いただけだし」
「え? い、いやそうじゃなくて……あの山の上の公園、行ったって聞いたけど」
笑う彼女の腕を引き、
教室の隅でそっと尋ねました。
「うん? 公園って……あの幽霊が出るトコ?」
「う、うん……行ったんでしょ?」
と、私はこそこそと問いかけましたが、彼女はキョトンとした表情を晒し、
「え、行ってないけど」
「……えっ?」
まるきりつじつまの合わないことを言うのです。
「行かないよぉ。あたし、お化けとか苦手だしー、
第一、行きたがる友だちもいないしさぁ」
と、少々気恥ずかし気につぶやく彼女に、
私はますます意味がわからなくなり、おずおずと口に出しました。
「え……だって、マユちゃんがユリカちゃんと一緒に行ったって言ってたよ」
昨日の記憶を思い返しつつ、ハッキリと彼女に伝えると、
「え? マユって……だって、あの子、今週いっぱいおじいちゃんち帰るって言ってたけど」
「……はっ?」
私はその言葉に、頭が真っ白になりました。
「え、う、ウソ……昨日、確かに」
「昨日? うーんと……あっ、これこれ。
携帯におじいちゃんちの写真、送ってくれてるよ」
ひょい、と彼女が子ども用携帯の画面を見せてくれました。
そこには、彼女の祖父母らしき人物と、
はにかみながら笑う本人の映像が、昨日の日付で記載されています。
「そ……そっか。ごめん、なんか勘違いしてたみたい……」
「そう?」
それ以上追及することもできず、私はフラフラと席に着きました。
(え、なに? ……どういう、こと?)
昨日会話した人物、それは間違いなく、
マユちゃん――そう、隣の席の彼女で間違いありません。
しかし、確かに記憶を思い返せば、
朝から彼女がいたかどうか、ハッキリと思い返せないのです。
(え……あ、れ?)
それどころか、私がマユちゃんと思い込んでいた彼女。
その彼女の顔がなぜか、ぼんやりとぼやけています。
そればかりではありません。
彼女の服装、声、表情に至るまで――
確かに言葉を交わしたはずであるのに、どこか曖昧に
ぼやけて、薄れて、思い返せないのです。
(え……じゃあ、マユちゃん……いや、あの子は)
彼女はいったい、誰だった?
いや――何だった?
そして、祖母の危篤の連絡が入らず、
誘われるがままについていっていたら――どうなっていた?
私を連れていこうとした彼女の様子をどうにか思い出そうとしても、
幻の向こうに掻き消えて、ろくに映像にすらなりませんでした。
翌週。
無事に学校に登校してきた本物のマユちゃんに、
先週のことを詳しく聞きました。
やはり、ユリカちゃんの話していた通り、
一週間まるまる遠方の祖父母のうちに行っていたそうで、
山の上の公園の話を出してみても、
ウワサ程度しか知らないようでした。
そして、その怪談――幽霊の出る滑り台の話は、
結局私が卒業するまで、ブームが去ったり再来したりながらも、
完全に消え去ることなく残っていました。
あの子――マユちゃんに扮していた少女は、
あの公園に現れるという幽霊、であったのでしょうか。
それとも、あの怪談に引き込まれてしまった、
被害者の一人であったのでしょうか。
もはやおぼろげな記憶としてしか残っていない彼女のことを、
成人し、子を成した今、再びこの子が誘われるのではないかと、
ただそればかりが恐ろしいのです。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
霊和怪異譚 野花と野薔薇
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
本当にあった不思議なストーリー
AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる