【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
97 / 415

44.校舎裏の壁のシミ・表①(怖さレベル:★☆☆)

しおりを挟む
(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
『30代男性 臼井さん(仮)』

壁のシミが人の顔に見える。

木のくぼみが人の形に見える。

蝶の模様が人の目に見える。

これらは、よく耳にする話ですよね。

先日、なにかで目にしたのですが、
人間の習性としては、いたった普通のことだそうですね。

仲間を遠くから見つけたりする上で、
このシミュラクラ現象と呼ばれるそれは、必要なことだったのでしょう。

……あ、すみません。
こんな世間話をしようっていうわけではなくて。

今回私がお話する内容が、
この一つ目――壁のシミが人の顔に見える、というのに関わっているんですよ。

私、小学校の教諭をやっていまして。

小学校というと、私立でもない限り、
たいがいどこも築数十年の建造物。

中には、百年くらい経っている、なんて校舎もあったりします。

となると、どうしてもシミやらひび割れやらが出てきまして。
そうすると、まぁ必然的に学校の七不思議の題材になるわけですよね。

私は、その年、春から新天地へと転勤が決まり、
さっそくその小学校の四年生の担任として、教鞭を振るうことになりました。

そして、赴任してから三か月も経った頃には、
ちょうど夏休み前のシーズン、この学校での暮らしも、
たいぶ慣れてきた頃合です。

「臼井先生、そういえば……聞きました?」

職員室で通知表のチェックをしていると、
隣の席の土岐という若い男性教諭が身を乗り出してきました。

「な、なにを?」

あまりの勢いに、思わず引き気味で尋ねると、
彼はキラキラとしたまなざしで、

「うちの学校の怪談ですよ! もー、今年もさっそく、
 試した輩が出たでしょう?」

と、息まいて話す彼の言う通り、昨夜、
夜の学校に乗り込んで騒動を起こした子どもが三人、
校長室に呼び出されていました。

六年のクラスの子たちだったらしく、親も呼ばれて、
やたらとバタバタしていたのは聞き及んでいました。

「怪談、って……だいたい、どこも似たようなモンじゃないの。
 前の学校だって、七つどころか、十はあったな」

いくつか学校を点々としているものの、だいたいの学校において
出回っているものはおおよそ決まっています。

とりあえず定番だから入れておけ、とばかりに使い古されたもの。

ごく稀に、よくこじつけたな……と感心するような阿呆なものもありますが、
大概どこの学校も、テンプレート化された怪談ばかりでした。

「まぁ、そうなんですけど……うちの学校も、音楽室で一人でに鳴るピアノとか、
 体育館で深夜ボールをつく音がするとか、よく聞くヤツばっか。
 ……でもね、一個だけ、マジなヤツがあるんですよ」
「はぁ……マジなヤツ」

 やたらと神妙な口調で、彼は頷きました。

「ええ。うちの学校の……職員用じゃなくて、奥の来客用の駐車場、あるでしょう」

と、彼の言うその駐車場を脳内で思い返します。

校舎裏、生徒用の校門の右方向に入ってさらに奥のその場所。
給食室の真横に隣接された、台数は十くらいしか置けない、狭い場所です。

「そっちの、隣接した給食室の壁……ブロック塀側のそこに、
 人の顔みたいなシミがあるんですよ!」
「……は、あ?」

思わず、呆れ声が漏れました。

人の顔の、シミ?

このご時世、スプレーか何かで落書きされたという、
ただそれだけのモノじゃないのか。

私の声ににじむ、そんな気持ちを察したのでしょう。
土岐先生は、ピシッと胸を張って言いました。

「臼井先生、疑ってますね? でも、オレも見たけど、アレはマジです。
 ……落書きとか、ただの汚れとか、そんなんじゃないですよ、ゼッタイ」

その妙に潜めた声が、なお怪しく感じます。

「はぁ……で、そのシミがなんなんだ?
 まさか、しゃべったりするのか」

と、呆れ半分に尋ねると、意外にも彼はコクコクと頷きました。

「ウワサでは、夜中にボソボソとしゃべる声が聞こえるんだとか」
「へぇ……ボソボソしゃべる、ねぇ」
「それで、なにを言っているか理解してしまったら、
 大変なコトが起きるんだとか! いやー、どんなもんなんでしょうかねぇ」

まるで幼い子どものようにウキウキと両手を合わせるこの土岐は、
完全に面白がっている様子でした。

「で、いるんですか? その大変な目にあった奴らは」
「いやー……そこまでは。まぁ、ある意味、昨日の三人なんて、
 親呼び出されて校長室に召喚される羽目になってるんだから、
 まぁひどい目にはあってますよねぇ」
「はぁ……」

結局、始終その怪談とやらの話を聞きましたが、
なんの根拠もない、ただのウワサ話程度のモンです。

私は彼に半笑いで相槌だけ返し、その時はそのまま話は終わりました。



「……遅く、なったなぁ」

その日の夜。

通知表のチェックと、夏休みの宿題の準備に追われ、
すっかり外は夜の帳が落ちています。

私はさっさと自分の車へ乗り込もうとしたところで、
フッと、昼間土岐と話をした壁のシミ、とやらが気にかかりました。

「……ちょっと、見てみるか」

まだ夜中、とはとてもいえない時間帯。
少し見てみるくらいならば、なんともないだろう。

携帯を懐中電灯代わりに持って、
彼に聞いた、来客用駐車場の方へ向かいます。

職員用駐車場と隣り合っているそこは、
さすがに一台も車が停まっていません。

クラブ活動をする者もいない、夜の八時。
辺りはすっかりシンと静まり返っています。

(……明るい時に来れば良かったか)

いくら幽霊やらお化けやらを信じていないとはいえ、
夜間のひと気のない学校の裏手というのは、さすがに不気味です。

日を改めようか、とも考えたものの、
ここまで来て引き返すのも情けなく思えて、
結局携帯を握りしめて、伝え聞いた給食室の壁の方へ向かいます。

>>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

本当にあった不思議なストーリー

AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

処理中です...