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44.校舎裏の壁のシミ・表①(怖さレベル:★☆☆)
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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
『30代男性 臼井さん(仮)』
壁のシミが人の顔に見える。
木のくぼみが人の形に見える。
蝶の模様が人の目に見える。
これらは、よく耳にする話ですよね。
先日、なにかで目にしたのですが、
人間の習性としては、いたった普通のことだそうですね。
仲間を遠くから見つけたりする上で、
このシミュラクラ現象と呼ばれるそれは、必要なことだったのでしょう。
……あ、すみません。
こんな世間話をしようっていうわけではなくて。
今回私がお話する内容が、
この一つ目――壁のシミが人の顔に見える、というのに関わっているんですよ。
私、小学校の教諭をやっていまして。
小学校というと、私立でもない限り、
たいがいどこも築数十年の建造物。
中には、百年くらい経っている、なんて校舎もあったりします。
となると、どうしてもシミやらひび割れやらが出てきまして。
そうすると、まぁ必然的に学校の七不思議の題材になるわけですよね。
私は、その年、春から新天地へと転勤が決まり、
さっそくその小学校の四年生の担任として、教鞭を振るうことになりました。
そして、赴任してから三か月も経った頃には、
ちょうど夏休み前のシーズン、この学校での暮らしも、
たいぶ慣れてきた頃合です。
「臼井先生、そういえば……聞きました?」
職員室で通知表のチェックをしていると、
隣の席の土岐という若い男性教諭が身を乗り出してきました。
「な、なにを?」
あまりの勢いに、思わず引き気味で尋ねると、
彼はキラキラとしたまなざしで、
「うちの学校の怪談ですよ! もー、今年もさっそく、
試した輩が出たでしょう?」
と、息まいて話す彼の言う通り、昨夜、
夜の学校に乗り込んで騒動を起こした子どもが三人、
校長室に呼び出されていました。
六年のクラスの子たちだったらしく、親も呼ばれて、
やたらとバタバタしていたのは聞き及んでいました。
「怪談、って……だいたい、どこも似たようなモンじゃないの。
前の学校だって、七つどころか、十はあったな」
いくつか学校を点々としているものの、だいたいの学校において
出回っているものはおおよそ決まっています。
とりあえず定番だから入れておけ、とばかりに使い古されたもの。
ごく稀に、よくこじつけたな……と感心するような阿呆なものもありますが、
大概どこの学校も、テンプレート化された怪談ばかりでした。
「まぁ、そうなんですけど……うちの学校も、音楽室で一人でに鳴るピアノとか、
体育館で深夜ボールをつく音がするとか、よく聞くヤツばっか。
……でもね、一個だけ、マジなヤツがあるんですよ」
「はぁ……マジなヤツ」
やたらと神妙な口調で、彼は頷きました。
「ええ。うちの学校の……職員用じゃなくて、奥の来客用の駐車場、あるでしょう」
と、彼の言うその駐車場を脳内で思い返します。
校舎裏、生徒用の校門の右方向に入ってさらに奥のその場所。
給食室の真横に隣接された、台数は十くらいしか置けない、狭い場所です。
「そっちの、隣接した給食室の壁……ブロック塀側のそこに、
人の顔みたいなシミがあるんですよ!」
「……は、あ?」
思わず、呆れ声が漏れました。
人の顔の、シミ?
このご時世、スプレーか何かで落書きされたという、
ただそれだけのモノじゃないのか。
私の声ににじむ、そんな気持ちを察したのでしょう。
土岐先生は、ピシッと胸を張って言いました。
「臼井先生、疑ってますね? でも、オレも見たけど、アレはマジです。
……落書きとか、ただの汚れとか、そんなんじゃないですよ、ゼッタイ」
その妙に潜めた声が、なお怪しく感じます。
「はぁ……で、そのシミがなんなんだ?
まさか、しゃべったりするのか」
と、呆れ半分に尋ねると、意外にも彼はコクコクと頷きました。
「ウワサでは、夜中にボソボソとしゃべる声が聞こえるんだとか」
「へぇ……ボソボソしゃべる、ねぇ」
「それで、なにを言っているか理解してしまったら、
大変なコトが起きるんだとか! いやー、どんなもんなんでしょうかねぇ」
まるで幼い子どものようにウキウキと両手を合わせるこの土岐は、
完全に面白がっている様子でした。
「で、いるんですか? その大変な目にあった奴らは」
「いやー……そこまでは。まぁ、ある意味、昨日の三人なんて、
親呼び出されて校長室に召喚される羽目になってるんだから、
まぁひどい目にはあってますよねぇ」
「はぁ……」
結局、始終その怪談とやらの話を聞きましたが、
なんの根拠もない、ただのウワサ話程度のモンです。
私は彼に半笑いで相槌だけ返し、その時はそのまま話は終わりました。
「……遅く、なったなぁ」
その日の夜。
通知表のチェックと、夏休みの宿題の準備に追われ、
すっかり外は夜の帳が落ちています。
私はさっさと自分の車へ乗り込もうとしたところで、
フッと、昼間土岐と話をした壁のシミ、とやらが気にかかりました。
「……ちょっと、見てみるか」
まだ夜中、とはとてもいえない時間帯。
少し見てみるくらいならば、なんともないだろう。
携帯を懐中電灯代わりに持って、
彼に聞いた、来客用駐車場の方へ向かいます。
職員用駐車場と隣り合っているそこは、
さすがに一台も車が停まっていません。
クラブ活動をする者もいない、夜の八時。
辺りはすっかりシンと静まり返っています。
(……明るい時に来れば良かったか)
いくら幽霊やらお化けやらを信じていないとはいえ、
夜間のひと気のない学校の裏手というのは、さすがに不気味です。
日を改めようか、とも考えたものの、
ここまで来て引き返すのも情けなく思えて、
結局携帯を握りしめて、伝え聞いた給食室の壁の方へ向かいます。
>>
『30代男性 臼井さん(仮)』
壁のシミが人の顔に見える。
木のくぼみが人の形に見える。
蝶の模様が人の目に見える。
これらは、よく耳にする話ですよね。
先日、なにかで目にしたのですが、
人間の習性としては、いたった普通のことだそうですね。
仲間を遠くから見つけたりする上で、
このシミュラクラ現象と呼ばれるそれは、必要なことだったのでしょう。
……あ、すみません。
こんな世間話をしようっていうわけではなくて。
今回私がお話する内容が、
この一つ目――壁のシミが人の顔に見える、というのに関わっているんですよ。
私、小学校の教諭をやっていまして。
小学校というと、私立でもない限り、
たいがいどこも築数十年の建造物。
中には、百年くらい経っている、なんて校舎もあったりします。
となると、どうしてもシミやらひび割れやらが出てきまして。
そうすると、まぁ必然的に学校の七不思議の題材になるわけですよね。
私は、その年、春から新天地へと転勤が決まり、
さっそくその小学校の四年生の担任として、教鞭を振るうことになりました。
そして、赴任してから三か月も経った頃には、
ちょうど夏休み前のシーズン、この学校での暮らしも、
たいぶ慣れてきた頃合です。
「臼井先生、そういえば……聞きました?」
職員室で通知表のチェックをしていると、
隣の席の土岐という若い男性教諭が身を乗り出してきました。
「な、なにを?」
あまりの勢いに、思わず引き気味で尋ねると、
彼はキラキラとしたまなざしで、
「うちの学校の怪談ですよ! もー、今年もさっそく、
試した輩が出たでしょう?」
と、息まいて話す彼の言う通り、昨夜、
夜の学校に乗り込んで騒動を起こした子どもが三人、
校長室に呼び出されていました。
六年のクラスの子たちだったらしく、親も呼ばれて、
やたらとバタバタしていたのは聞き及んでいました。
「怪談、って……だいたい、どこも似たようなモンじゃないの。
前の学校だって、七つどころか、十はあったな」
いくつか学校を点々としているものの、だいたいの学校において
出回っているものはおおよそ決まっています。
とりあえず定番だから入れておけ、とばかりに使い古されたもの。
ごく稀に、よくこじつけたな……と感心するような阿呆なものもありますが、
大概どこの学校も、テンプレート化された怪談ばかりでした。
「まぁ、そうなんですけど……うちの学校も、音楽室で一人でに鳴るピアノとか、
体育館で深夜ボールをつく音がするとか、よく聞くヤツばっか。
……でもね、一個だけ、マジなヤツがあるんですよ」
「はぁ……マジなヤツ」
やたらと神妙な口調で、彼は頷きました。
「ええ。うちの学校の……職員用じゃなくて、奥の来客用の駐車場、あるでしょう」
と、彼の言うその駐車場を脳内で思い返します。
校舎裏、生徒用の校門の右方向に入ってさらに奥のその場所。
給食室の真横に隣接された、台数は十くらいしか置けない、狭い場所です。
「そっちの、隣接した給食室の壁……ブロック塀側のそこに、
人の顔みたいなシミがあるんですよ!」
「……は、あ?」
思わず、呆れ声が漏れました。
人の顔の、シミ?
このご時世、スプレーか何かで落書きされたという、
ただそれだけのモノじゃないのか。
私の声ににじむ、そんな気持ちを察したのでしょう。
土岐先生は、ピシッと胸を張って言いました。
「臼井先生、疑ってますね? でも、オレも見たけど、アレはマジです。
……落書きとか、ただの汚れとか、そんなんじゃないですよ、ゼッタイ」
その妙に潜めた声が、なお怪しく感じます。
「はぁ……で、そのシミがなんなんだ?
まさか、しゃべったりするのか」
と、呆れ半分に尋ねると、意外にも彼はコクコクと頷きました。
「ウワサでは、夜中にボソボソとしゃべる声が聞こえるんだとか」
「へぇ……ボソボソしゃべる、ねぇ」
「それで、なにを言っているか理解してしまったら、
大変なコトが起きるんだとか! いやー、どんなもんなんでしょうかねぇ」
まるで幼い子どものようにウキウキと両手を合わせるこの土岐は、
完全に面白がっている様子でした。
「で、いるんですか? その大変な目にあった奴らは」
「いやー……そこまでは。まぁ、ある意味、昨日の三人なんて、
親呼び出されて校長室に召喚される羽目になってるんだから、
まぁひどい目にはあってますよねぇ」
「はぁ……」
結局、始終その怪談とやらの話を聞きましたが、
なんの根拠もない、ただのウワサ話程度のモンです。
私は彼に半笑いで相槌だけ返し、その時はそのまま話は終わりました。
「……遅く、なったなぁ」
その日の夜。
通知表のチェックと、夏休みの宿題の準備に追われ、
すっかり外は夜の帳が落ちています。
私はさっさと自分の車へ乗り込もうとしたところで、
フッと、昼間土岐と話をした壁のシミ、とやらが気にかかりました。
「……ちょっと、見てみるか」
まだ夜中、とはとてもいえない時間帯。
少し見てみるくらいならば、なんともないだろう。
携帯を懐中電灯代わりに持って、
彼に聞いた、来客用駐車場の方へ向かいます。
職員用駐車場と隣り合っているそこは、
さすがに一台も車が停まっていません。
クラブ活動をする者もいない、夜の八時。
辺りはすっかりシンと静まり返っています。
(……明るい時に来れば良かったか)
いくら幽霊やらお化けやらを信じていないとはいえ、
夜間のひと気のない学校の裏手というのは、さすがに不気味です。
日を改めようか、とも考えたものの、
ここまで来て引き返すのも情けなく思えて、
結局携帯を握りしめて、伝え聞いた給食室の壁の方へ向かいます。
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