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58.コテージの蝶々②(怖さレベル:★☆☆)
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「なぁ……これ以上なんか起こる前に、止めた方がいいって」
あまりにもおれが必死だったからでしょうか。
周りの皆は、返ってうんざりしてしまったようで、
「あー……じゃあ、オレたちだけでつづけるから。朝倉、帰って良いぞ」
「せっかくここまで続けたんだから、百個やりてぇしな」
友人たちはどこかシラけた表情を浮かべ、
おれのことをお邪魔虫扱いする始末です。
確かに、中途半端なところで終わらせたくない、
という彼らの気持ちもわかります。
この日の為にホラーを仕入れて、コテージまで借りているのです。
しかし、もうおれはイヤでイヤで仕方なく、諦めてスッと立ちあがりました。
「わかった。……おれは抜ける」
「おい、朝倉、マジかよ!」
「ああ。……悪ィけど」
おれがこれ以上ここにいても、空気を悪くするだけ。
そう思い、置いていた荷物を肩に引っかけ、
コテージのドアに手をかけました。
(ん? ……重い)
カギはかけていないはずなのに。
やたらノブにひっかかりを覚え、おれはグッと指に力を込めて、
思い切り扉を押し開けると――
「う、っわ……!!」
バサバサバサッ
戸の外側にびっしりと貼りついていたらしき蝶たちが、
一目散に逃げ去っていきました。
「…………っ」
おれはゾッと寒気を催しつつ、すぐに外に飛び出し、
バタン! と勢いよくドアを閉めました。
鱗粉だか、残っている蝶だかが未だ扉にへばりついていて、
少しコテージから離れても、ドクドクと心臓が脈打っています。
「っ、はぁ……」
更に一歩、二歩とその場から離れ、
あの場から抜け出た安心で、ホッと息をついた時。
ぞぞぞっ、と、不意に全身に鳥肌が立ちました。
「……!?」
ゾクゾクと。
まるで高熱が出た時のような、激しい悪寒。
(なんだ……怖い、すげぇ、怖い)
ブルブルと震える身体を抱きしめ、落ち着こうと深呼吸します。
急に訪れた尋常でない恐怖感。
おれはなにが原因なのかと、よせばよいのに、
おそるおそるあたりを見回しました。
「ひ、っ……」
びっしりと。
窓ガラス、扉、屋根から壁に至るまで。
つい先ほどまで中にいた、あのコテージを覆うように、
あり得ない数の蝶や蛾たちが、ひらひらと建物を囲んでいるのです。
内側から見つけたのとはまた違う、
不気味さとおぞましさの混じった、あまりにも異様な光景。
(……これ、マジでヤバいんじゃ……)
しかし、例え今止めに入ったところで、
さきほどのように邪見にされるのが目に見えています。
その上、ガタガタと震え続ける全身は、
とてもその根源であるあのコテージに戻ることなんて出来ません。
(……明日、改めて連絡すればいいか)
おれは現実逃避のように己に言い聞かせ、
キャンプ場の駐車場に停めておいた、自分の車へと乗り込みました。
翌日。
――といっても、深夜を回っていたため、
その日の昼、ということになるのでしょうか。
眠れぬ夜を過ごしたおれは、
どこかためらいの気持ちを覚えつつ、携帯を握りしめていました。
(あいつらに何か連絡を……でも、なぁ)
昨日、ケンカ別れのような流れで出てきた手前、
なんとメッセージを入れればいいやら。
文面をどうしようかと悩んでいると、
ピロッ、と軽快な音が鳴り、
サークル仲間の一人から通知が入ってきたのです。
『よっ朝倉。今日、大学来るか?』
(……え?)
昨日の、百物語のことに一切触れられていない、
至っていつも通りの、なんてことのない内容。
(あれから何もなかったのか? ……それとも逆に、怒ってるのか?)
だとしたら、逆に連絡もよこさないか、と少々疑問に思いつつ、
『午後から行くよ。つーか昨日、あの後、終わったのか?』
と、それとなく例の百物語のことを訊ねたものの、
『OK』
とコメントが入ったのみで、やはり一切それには反応がありません。
「……なんだよ」
あの後、なにかが起きたのでしょうか。
おれは妙な胸騒ぎを覚えつつ、大学へ行く準備を始めました。
「おっ、朝倉!」
「遅ェじゃん!」
サークル仲間たちが、おれが来るのを待ちわびていたかのように、
門のところで近寄ってきました。
「お、おお……悪い……」
おれは、駆け寄ってきた彼らの顔を見て、
思わず動きを止めました。
その七人のメンバー。
彼らのその、表情がおかしいのです。
まちがいなく、友だちであった彼ら。
短くない時間を共有していたはずなのに、
そこにいたその皆は――
今まで一度たりとも見たことのないほどの、満面の笑みを浮かべていました。
目元をにっこりと半月形にして、頬をむくりと膨らませ、
唇の端をつう、と持ち上げた、いっそ作り物めいた薄気味悪い歪な笑顔。
「講義行こーぜ!」
「あ……あ、ああ……」
そしてやはり。
昨日の百物語のことは一切、口に出しません。
会ったら即聞いてやろう、と思っていたおれも、
その皆のあまりの異様さに引いてしまい、
とても尋ねることなどできませんでした。
そして……その後。
彼らとは、疎遠になってしまいました。
はは……薄情と思いますか?
でも、もう……どうにも耐えられなかったんです。
彼ら、おれと話をするとき、いっつもあの笑顔なんです。
能面のような、貼りついた一定の、笑顔。
今までのような軽口を交わすことも、
喧嘩をすることすら無くなって、
彼らの本心がいったいドコにあるのかさえ、
いっさいわからないような、そんな。
一体、あの百物語の続きで、いったい何が起きたのか。
大量の蝶々、そして蛾が集うほどの、何かが。
……その謎は、おれにはもう決して、解けぬ謎です。
あまりにもおれが必死だったからでしょうか。
周りの皆は、返ってうんざりしてしまったようで、
「あー……じゃあ、オレたちだけでつづけるから。朝倉、帰って良いぞ」
「せっかくここまで続けたんだから、百個やりてぇしな」
友人たちはどこかシラけた表情を浮かべ、
おれのことをお邪魔虫扱いする始末です。
確かに、中途半端なところで終わらせたくない、
という彼らの気持ちもわかります。
この日の為にホラーを仕入れて、コテージまで借りているのです。
しかし、もうおれはイヤでイヤで仕方なく、諦めてスッと立ちあがりました。
「わかった。……おれは抜ける」
「おい、朝倉、マジかよ!」
「ああ。……悪ィけど」
おれがこれ以上ここにいても、空気を悪くするだけ。
そう思い、置いていた荷物を肩に引っかけ、
コテージのドアに手をかけました。
(ん? ……重い)
カギはかけていないはずなのに。
やたらノブにひっかかりを覚え、おれはグッと指に力を込めて、
思い切り扉を押し開けると――
「う、っわ……!!」
バサバサバサッ
戸の外側にびっしりと貼りついていたらしき蝶たちが、
一目散に逃げ去っていきました。
「…………っ」
おれはゾッと寒気を催しつつ、すぐに外に飛び出し、
バタン! と勢いよくドアを閉めました。
鱗粉だか、残っている蝶だかが未だ扉にへばりついていて、
少しコテージから離れても、ドクドクと心臓が脈打っています。
「っ、はぁ……」
更に一歩、二歩とその場から離れ、
あの場から抜け出た安心で、ホッと息をついた時。
ぞぞぞっ、と、不意に全身に鳥肌が立ちました。
「……!?」
ゾクゾクと。
まるで高熱が出た時のような、激しい悪寒。
(なんだ……怖い、すげぇ、怖い)
ブルブルと震える身体を抱きしめ、落ち着こうと深呼吸します。
急に訪れた尋常でない恐怖感。
おれはなにが原因なのかと、よせばよいのに、
おそるおそるあたりを見回しました。
「ひ、っ……」
びっしりと。
窓ガラス、扉、屋根から壁に至るまで。
つい先ほどまで中にいた、あのコテージを覆うように、
あり得ない数の蝶や蛾たちが、ひらひらと建物を囲んでいるのです。
内側から見つけたのとはまた違う、
不気味さとおぞましさの混じった、あまりにも異様な光景。
(……これ、マジでヤバいんじゃ……)
しかし、例え今止めに入ったところで、
さきほどのように邪見にされるのが目に見えています。
その上、ガタガタと震え続ける全身は、
とてもその根源であるあのコテージに戻ることなんて出来ません。
(……明日、改めて連絡すればいいか)
おれは現実逃避のように己に言い聞かせ、
キャンプ場の駐車場に停めておいた、自分の車へと乗り込みました。
翌日。
――といっても、深夜を回っていたため、
その日の昼、ということになるのでしょうか。
眠れぬ夜を過ごしたおれは、
どこかためらいの気持ちを覚えつつ、携帯を握りしめていました。
(あいつらに何か連絡を……でも、なぁ)
昨日、ケンカ別れのような流れで出てきた手前、
なんとメッセージを入れればいいやら。
文面をどうしようかと悩んでいると、
ピロッ、と軽快な音が鳴り、
サークル仲間の一人から通知が入ってきたのです。
『よっ朝倉。今日、大学来るか?』
(……え?)
昨日の、百物語のことに一切触れられていない、
至っていつも通りの、なんてことのない内容。
(あれから何もなかったのか? ……それとも逆に、怒ってるのか?)
だとしたら、逆に連絡もよこさないか、と少々疑問に思いつつ、
『午後から行くよ。つーか昨日、あの後、終わったのか?』
と、それとなく例の百物語のことを訊ねたものの、
『OK』
とコメントが入ったのみで、やはり一切それには反応がありません。
「……なんだよ」
あの後、なにかが起きたのでしょうか。
おれは妙な胸騒ぎを覚えつつ、大学へ行く準備を始めました。
「おっ、朝倉!」
「遅ェじゃん!」
サークル仲間たちが、おれが来るのを待ちわびていたかのように、
門のところで近寄ってきました。
「お、おお……悪い……」
おれは、駆け寄ってきた彼らの顔を見て、
思わず動きを止めました。
その七人のメンバー。
彼らのその、表情がおかしいのです。
まちがいなく、友だちであった彼ら。
短くない時間を共有していたはずなのに、
そこにいたその皆は――
今まで一度たりとも見たことのないほどの、満面の笑みを浮かべていました。
目元をにっこりと半月形にして、頬をむくりと膨らませ、
唇の端をつう、と持ち上げた、いっそ作り物めいた薄気味悪い歪な笑顔。
「講義行こーぜ!」
「あ……あ、ああ……」
そしてやはり。
昨日の百物語のことは一切、口に出しません。
会ったら即聞いてやろう、と思っていたおれも、
その皆のあまりの異様さに引いてしまい、
とても尋ねることなどできませんでした。
そして……その後。
彼らとは、疎遠になってしまいました。
はは……薄情と思いますか?
でも、もう……どうにも耐えられなかったんです。
彼ら、おれと話をするとき、いっつもあの笑顔なんです。
能面のような、貼りついた一定の、笑顔。
今までのような軽口を交わすことも、
喧嘩をすることすら無くなって、
彼らの本心がいったいドコにあるのかさえ、
いっさいわからないような、そんな。
一体、あの百物語の続きで、いったい何が起きたのか。
大量の蝶々、そして蛾が集うほどの、何かが。
……その謎は、おれにはもう決して、解けぬ謎です。
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