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90.合宿所の夜③(怖さレベル:★★☆)
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「なに言ってんの。昨日、私の布団に入りこもうとした怖がりが~」
昨夜のことを思い返し、
かけ布から突き出した頭をちょいちょいとつつくと、
「えっ? 布団に?」
ひょこっと布団からでた大きな目が、キョトンと弧を描きました。
「覚えてないの? 昨日、先生が見回りにくる直前、
壁のシミが怖くて起きちゃった、って言ってたじゃない」
寝ぼけて忘れたのか? と疑問に思いつつ問いかけると、
リカはうーん、と少し唸った後、
「……覚えてないなぁ。それに、壁のシミのこと、
今言われるまですっかり忘れてたしー」
などと言って、コテンコテンと首を傾げているのです。
「っていうか、先生、見回り来てたの?」
「うん。たぶん……十二時くらいだったのかなぁ」
「えーっ、なにそれ! チェックされてたなんて!」
「ま……まぁ、女の先生たちだったけどね」
私たちの会話を聞いていた他のメンバーたちが、
先生たちがこっそりと覗きに来ていたことにブーイングを上げました。
どうやら、他に夜のやり取りを聞いていた人もいないようです。
(ま……あんな時間だったし、半分寝てたんだろうなぁ)
寝ぼけ半分の時の記憶がとぶ、というのはよくあること。
それ以上追及することもなく、私も布団に潜り込みました。
全身が疲労でずっしりと重い今日は、
すんなりと眠りにつくことができそうです。
「みんなー、電気消すよー」
「はーい」
パチパチと消灯されていく室内で、
私はうとうとと睡魔に引きずり込まれて行きました。
「……、…………」
ブゥウン
扇風機の稼働音にまぎれる、人の囁き声。
深々と寝入ってしばらく。
ゆるゆると、意識だけが浮上しました。
(誰か……なにか、話してる……?)
覚醒と睡眠のあいだを行き来する脳は、
まだフワフワとわた菓子の雲の中を漂っています。
身体はまだどっしりとだるさを残し、
腕や足を動かすのも負担を感じました。
「…………、……」
「…………?」
音量が極力おさえられた、か細い声のやりとり、
まだ暗いまぶたの向こうが、いまだ夜明け前であることを伝えてきます。
(誰か……起きたの、かな)
昨夜の私とリカのように、眠れない夜に
たわいないおしゃべりに興じているのかもしれません。
それにしても、あれだけ運動してまた起きてしまうなんて。
枕が変わると眠れないのは辛いな、などと考え、
睡魔が再び訪れないかと、うとうとと耳を澄ましていると。
「……から、さぁ。……ねむ……なくて」
「ん~……そっかぁ……」
徐々にクリアになってきた脳内で、
ようやく誰かの会話が、文字として認識され始めました。
「なんか……どうにも、怖くってさ……」
「えー? ユキって……そんな怖がりだったっけぇ……?」
こそこそ、ぼそぼそと。
どこか既視感を覚えるやりとりが耳に入っていきます。
「だから、ちょっと……そっちに、一緒に入れてもらえないかなぁ……」
「えーっ……狭いよ……?」
「でも、こっちで一人……怖いんだもん……」
昨日のリカと自分の会話と、よく似ている。
ぼやけた頭が、不思議な酷似を伝えてきます。
(ユキ、って言ってた……? 一年の子……かぁ)
声から考えるに、後輩である彼女ともう一人、
なーちゃんという相性で親しまれている二人でしょう。
どちらも中学生当時からの付き合いだとかで普段からとても仲がよく、
卓球ではダブルスのチームも組んでいます。
(古い旅館だし……みんな、思うことは一緒なのかな……)
真夜中の時間帯、慣れない部屋での雑魚寝。
心細くなる心境というのも、確かによくわかります。
私はうつつの狭間を行ったり来たりしながら、
ごろん、と寝返りをうちました。
「……んー」
その拍子に、コツンと隣の布団に足があたり、
小さく抗議のような声が上がります。
(あっ……やば……)
起こしたら悪いな、と薄目をあけて様子を見るも、
隣の子はそれ以降、なにか言うわけでもなくスゥスゥと寝息を立てています。
(あぁ、よかった)
ヒヤっとしたなぁ、なんてホッと一安心しつつ、
もぞもぞと自分のかけ布団にくるまりました。
「もー……わかったよ……こっち来な……」
「……ありがとう」
二人の会話はまだ続いていて、
どうやら彼女たちは一緒に眠ることにしたようです。
私もふたたび訪れてきた睡魔に、そのままぼんやりと
意識を飛ばそうとした、そんな時。
(……あ、れ?)
ふっと浮かび上がった違和感に、パチリ、と瞬きしました。
(ユキ……ユキ、って)
さきほどからこそこそ話をしているユキ、それになーちゃん。
二人は、消灯された暗闇の中、起きて会話をしています。
(でも……ユキ、って……たしか)
私が今まさに、足をぶつけてしまったお隣。
真横でスゥスゥと寝息をたてているこの子こそ、
一年生のユキ、本人。
じゃあ、なーちゃんが今、
ユキと呼んでいるのは――誰?
「あれ……ユキ……痩せた……?」
ごそごそ、ごそごそと。
薄暗闇の中、目をこらします。
彼女の眠る布団には、たしかに二人ぶんのふくらみ。
「んー……」
「これなら……二人でも、眠れそうだね……」
なーちゃんの声が、場違いなほどに明るく室内に響きました。
(え……いや、おかしい……)
もう一度、傍らに眠るユキを確認します。
彼女はいたって平和そうな寝顔のまま、
手足をなげだして、グッスリと眠っていました。
「……え? ちょっと……ユキ、そんな押さないでよ……」
理解不能な事態に、私が身動きがとれずにいると、
彼女たち二人の布団から、不穏な言い合いが聞こえてきました。
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昨夜のことを思い返し、
かけ布から突き出した頭をちょいちょいとつつくと、
「えっ? 布団に?」
ひょこっと布団からでた大きな目が、キョトンと弧を描きました。
「覚えてないの? 昨日、先生が見回りにくる直前、
壁のシミが怖くて起きちゃった、って言ってたじゃない」
寝ぼけて忘れたのか? と疑問に思いつつ問いかけると、
リカはうーん、と少し唸った後、
「……覚えてないなぁ。それに、壁のシミのこと、
今言われるまですっかり忘れてたしー」
などと言って、コテンコテンと首を傾げているのです。
「っていうか、先生、見回り来てたの?」
「うん。たぶん……十二時くらいだったのかなぁ」
「えーっ、なにそれ! チェックされてたなんて!」
「ま……まぁ、女の先生たちだったけどね」
私たちの会話を聞いていた他のメンバーたちが、
先生たちがこっそりと覗きに来ていたことにブーイングを上げました。
どうやら、他に夜のやり取りを聞いていた人もいないようです。
(ま……あんな時間だったし、半分寝てたんだろうなぁ)
寝ぼけ半分の時の記憶がとぶ、というのはよくあること。
それ以上追及することもなく、私も布団に潜り込みました。
全身が疲労でずっしりと重い今日は、
すんなりと眠りにつくことができそうです。
「みんなー、電気消すよー」
「はーい」
パチパチと消灯されていく室内で、
私はうとうとと睡魔に引きずり込まれて行きました。
「……、…………」
ブゥウン
扇風機の稼働音にまぎれる、人の囁き声。
深々と寝入ってしばらく。
ゆるゆると、意識だけが浮上しました。
(誰か……なにか、話してる……?)
覚醒と睡眠のあいだを行き来する脳は、
まだフワフワとわた菓子の雲の中を漂っています。
身体はまだどっしりとだるさを残し、
腕や足を動かすのも負担を感じました。
「…………、……」
「…………?」
音量が極力おさえられた、か細い声のやりとり、
まだ暗いまぶたの向こうが、いまだ夜明け前であることを伝えてきます。
(誰か……起きたの、かな)
昨夜の私とリカのように、眠れない夜に
たわいないおしゃべりに興じているのかもしれません。
それにしても、あれだけ運動してまた起きてしまうなんて。
枕が変わると眠れないのは辛いな、などと考え、
睡魔が再び訪れないかと、うとうとと耳を澄ましていると。
「……から、さぁ。……ねむ……なくて」
「ん~……そっかぁ……」
徐々にクリアになってきた脳内で、
ようやく誰かの会話が、文字として認識され始めました。
「なんか……どうにも、怖くってさ……」
「えー? ユキって……そんな怖がりだったっけぇ……?」
こそこそ、ぼそぼそと。
どこか既視感を覚えるやりとりが耳に入っていきます。
「だから、ちょっと……そっちに、一緒に入れてもらえないかなぁ……」
「えーっ……狭いよ……?」
「でも、こっちで一人……怖いんだもん……」
昨日のリカと自分の会話と、よく似ている。
ぼやけた頭が、不思議な酷似を伝えてきます。
(ユキ、って言ってた……? 一年の子……かぁ)
声から考えるに、後輩である彼女ともう一人、
なーちゃんという相性で親しまれている二人でしょう。
どちらも中学生当時からの付き合いだとかで普段からとても仲がよく、
卓球ではダブルスのチームも組んでいます。
(古い旅館だし……みんな、思うことは一緒なのかな……)
真夜中の時間帯、慣れない部屋での雑魚寝。
心細くなる心境というのも、確かによくわかります。
私はうつつの狭間を行ったり来たりしながら、
ごろん、と寝返りをうちました。
「……んー」
その拍子に、コツンと隣の布団に足があたり、
小さく抗議のような声が上がります。
(あっ……やば……)
起こしたら悪いな、と薄目をあけて様子を見るも、
隣の子はそれ以降、なにか言うわけでもなくスゥスゥと寝息を立てています。
(あぁ、よかった)
ヒヤっとしたなぁ、なんてホッと一安心しつつ、
もぞもぞと自分のかけ布団にくるまりました。
「もー……わかったよ……こっち来な……」
「……ありがとう」
二人の会話はまだ続いていて、
どうやら彼女たちは一緒に眠ることにしたようです。
私もふたたび訪れてきた睡魔に、そのままぼんやりと
意識を飛ばそうとした、そんな時。
(……あ、れ?)
ふっと浮かび上がった違和感に、パチリ、と瞬きしました。
(ユキ……ユキ、って)
さきほどからこそこそ話をしているユキ、それになーちゃん。
二人は、消灯された暗闇の中、起きて会話をしています。
(でも……ユキ、って……たしか)
私が今まさに、足をぶつけてしまったお隣。
真横でスゥスゥと寝息をたてているこの子こそ、
一年生のユキ、本人。
じゃあ、なーちゃんが今、
ユキと呼んでいるのは――誰?
「あれ……ユキ……痩せた……?」
ごそごそ、ごそごそと。
薄暗闇の中、目をこらします。
彼女の眠る布団には、たしかに二人ぶんのふくらみ。
「んー……」
「これなら……二人でも、眠れそうだね……」
なーちゃんの声が、場違いなほどに明るく室内に響きました。
(え……いや、おかしい……)
もう一度、傍らに眠るユキを確認します。
彼女はいたって平和そうな寝顔のまま、
手足をなげだして、グッスリと眠っていました。
「……え? ちょっと……ユキ、そんな押さないでよ……」
理解不能な事態に、私が身動きがとれずにいると、
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