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98.社員寮の女③(怖さレベル:★★★)
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「ただいまー……って、あれ」
ガチャッ、ギッ
ドアが五センチほど開いて、止まりました。
(堀口のヤツ……! チェーンかけてやがる!!)
ガチャガチャとノブを押したり引いたりしても、
チェーンで引っかかったドアは、それ以上開くことはありません。
「ッオイ! 堀口、聞こえてるかー!?」
奥にいるのであろう彼の名を呼び、バンバンと扉を殴打します。
(ったく……いくら酔ってたにしたって、ひどすぎる!)
明日だって仕事があるのに、
このまま締め出しをされたらたまったもんじゃありません。
「おーい、開けてくれー!!」
しかし、おれがしつこいほどに叫んだり扉を叩いても、
彼はいっこうに姿を現しません。
「ったく……!!」
懐から携帯端末を取り出して、
怒りに震える指先で堀口の連絡先をタップします。
これで出なかったら管理人さんに連絡してやる、
というおれの念が通じたか、数コール鳴らされたのち、
プツッ、と電話は繋がりました。
「オイッ、おれ、今部屋の前にいるんだけど!
チェーン、さっさと開けてくれよ!!」
相手がしゃべりだすのも待たず、
イラついた口調のまま、言い募りました。
「これじゃ部屋入れないだろーが! いい加減にしてくれよ!!」
『…………』
しかし、堀口は電話の向こうでむっつりと押し黙っています。
その態度になお怒りがヒートアップして、怒鳴るように続けました。
「おい、聞いてんのかよ!! さっさと開けろって!!」
『……いいの?』
「開け……は?」
ポツリ、とようやく返ってきた言葉は、短く一言。
それも――堀口の声ではありえない、か細い女性の声でした。
「おっま……女連れ込んでんのかよ!? ふっざけんな!!」
頭に血が上ったおれは、彼女を部屋に連れ込んで自分を閉め出しやがったと、
さらに何度もドアを殴りつけました。
いつの間にか、携帯の通話を切っていたことすら忘れる程に。
「よろしくやるんなら外でラブホでも行けっての!
おれはさっさと部屋で休みたいんだよッ!!」
「……おーい、こんな時間になにやってんだよ」
ガチャッ、と隣室の扉が開き、
同じ新人の同期の男が顔を覗かせました。
完全に怒り狂っていたおれは、チェーンをガチャガチャと乱暴に鳴らしながら、
ガッと勢いよく振り返りました。
「堀口が……ルームメイトが、女連れ込んで部屋にチェーンかけてやがるんだよ!!」
「えっ……? 女?」
同期は怪訝な表情を浮かべて、
おれとうっすら開いているドアとを見比べるように首をひねりました。
「女って……その子?」
「……えっ?」
ヒョイ、と。
同期が指さした、その向こう。
薄く開いたドアとチェーンの間。
暗い玄関のその隙間から、ぬるりと目玉が現れました。
「うわっ!!」
度肝をぬかれました。思わず尻もちをついてしまうほどに。
その目玉は、そんなおれをあざ笑うかのように、
ニュッとその白い顔を証明の元につき出しました。
「……え、あ……」
「…………」
暗いせいか、やたら顔色の悪く見える、幸薄そうな顔の女性。
あの軽薄な堀口と付き合っているにしては、
生気にかけた印象の女性。
彼女は一言も発することなく、ジーっとおれの顔に焦点を当てています。
「あっ……あの……堀口は、中に?」
おれは怒りの出鼻をくじかれて、しどろもどろに尋ねました。
「…………」
「あ、あのー……?」
女性はいっさい口を開きません。
夜闇の中、ブゥウン、と低音を響かせる蛍光灯の下、
無表情のままこちらを見るのみです。
(……気味悪いな、この人)
堀口との逢瀬を邪魔されて不機嫌、といえばわからなくもありませんが、
それにしても、度が過ぎるほどに身じろぎしないのです。
不気味さにそれ以上声がかけられずまごついていると、
ポンポン、と肩を叩かれました。
「ぅおっ……な、なんだよ」
「おいおい、ビビりすぎ」
さきほどの隣の部屋の同期が、苦笑しながら後ろに立っていました。
女性相手に強く出られないおれの代わりに、
困ったような表情を浮かべて、彼はコン、と床を蹴りました。
「おじょーさん。ここ、女の人立ち入り禁止なんだけど」
「…………」
「困ったなぁ。管理人さん、呼ぶよ?」
「…………」
なにを話しかけても無反応です。
そのなんの表情も浮かばない面は、まるでマネキンのよう。
やれやれ、と首をふった同期は、
ラチがあかないと思ったか、管理人室に電話を入れ始めました。
おれは元来の気の弱さが戻ってきて、
オロオロと再び扉の隙間の女性に話しかけました。
「あの、さ……堀口、寝てるのかな? さっき電話でたのも、君?」
「…………」
「え、えーっと……もしかして、しゃべれない、の?」
人形かロボットと会話しているのかと思うほど、
表情、そして姿勢すらも変わらない女性。
扉の向こう、隙間からしか姿が見えないとはいえ、
顔だけしか見えていない、というのもひどく不安感をあおります。
(ん? 顔、だけ……)
そういえば。
先週、寮の階下でも顔だけの女性を見たことを思い出しました。
ぼんやりと。薄暗闇の中、輪郭だけぼやけたように見えた顔。
(……この、人)
ほの白いその顔が、闇の中から覗いていたあの姿と重なります。
>>
ガチャッ、ギッ
ドアが五センチほど開いて、止まりました。
(堀口のヤツ……! チェーンかけてやがる!!)
ガチャガチャとノブを押したり引いたりしても、
チェーンで引っかかったドアは、それ以上開くことはありません。
「ッオイ! 堀口、聞こえてるかー!?」
奥にいるのであろう彼の名を呼び、バンバンと扉を殴打します。
(ったく……いくら酔ってたにしたって、ひどすぎる!)
明日だって仕事があるのに、
このまま締め出しをされたらたまったもんじゃありません。
「おーい、開けてくれー!!」
しかし、おれがしつこいほどに叫んだり扉を叩いても、
彼はいっこうに姿を現しません。
「ったく……!!」
懐から携帯端末を取り出して、
怒りに震える指先で堀口の連絡先をタップします。
これで出なかったら管理人さんに連絡してやる、
というおれの念が通じたか、数コール鳴らされたのち、
プツッ、と電話は繋がりました。
「オイッ、おれ、今部屋の前にいるんだけど!
チェーン、さっさと開けてくれよ!!」
相手がしゃべりだすのも待たず、
イラついた口調のまま、言い募りました。
「これじゃ部屋入れないだろーが! いい加減にしてくれよ!!」
『…………』
しかし、堀口は電話の向こうでむっつりと押し黙っています。
その態度になお怒りがヒートアップして、怒鳴るように続けました。
「おい、聞いてんのかよ!! さっさと開けろって!!」
『……いいの?』
「開け……は?」
ポツリ、とようやく返ってきた言葉は、短く一言。
それも――堀口の声ではありえない、か細い女性の声でした。
「おっま……女連れ込んでんのかよ!? ふっざけんな!!」
頭に血が上ったおれは、彼女を部屋に連れ込んで自分を閉め出しやがったと、
さらに何度もドアを殴りつけました。
いつの間にか、携帯の通話を切っていたことすら忘れる程に。
「よろしくやるんなら外でラブホでも行けっての!
おれはさっさと部屋で休みたいんだよッ!!」
「……おーい、こんな時間になにやってんだよ」
ガチャッ、と隣室の扉が開き、
同じ新人の同期の男が顔を覗かせました。
完全に怒り狂っていたおれは、チェーンをガチャガチャと乱暴に鳴らしながら、
ガッと勢いよく振り返りました。
「堀口が……ルームメイトが、女連れ込んで部屋にチェーンかけてやがるんだよ!!」
「えっ……? 女?」
同期は怪訝な表情を浮かべて、
おれとうっすら開いているドアとを見比べるように首をひねりました。
「女って……その子?」
「……えっ?」
ヒョイ、と。
同期が指さした、その向こう。
薄く開いたドアとチェーンの間。
暗い玄関のその隙間から、ぬるりと目玉が現れました。
「うわっ!!」
度肝をぬかれました。思わず尻もちをついてしまうほどに。
その目玉は、そんなおれをあざ笑うかのように、
ニュッとその白い顔を証明の元につき出しました。
「……え、あ……」
「…………」
暗いせいか、やたら顔色の悪く見える、幸薄そうな顔の女性。
あの軽薄な堀口と付き合っているにしては、
生気にかけた印象の女性。
彼女は一言も発することなく、ジーっとおれの顔に焦点を当てています。
「あっ……あの……堀口は、中に?」
おれは怒りの出鼻をくじかれて、しどろもどろに尋ねました。
「…………」
「あ、あのー……?」
女性はいっさい口を開きません。
夜闇の中、ブゥウン、と低音を響かせる蛍光灯の下、
無表情のままこちらを見るのみです。
(……気味悪いな、この人)
堀口との逢瀬を邪魔されて不機嫌、といえばわからなくもありませんが、
それにしても、度が過ぎるほどに身じろぎしないのです。
不気味さにそれ以上声がかけられずまごついていると、
ポンポン、と肩を叩かれました。
「ぅおっ……な、なんだよ」
「おいおい、ビビりすぎ」
さきほどの隣の部屋の同期が、苦笑しながら後ろに立っていました。
女性相手に強く出られないおれの代わりに、
困ったような表情を浮かべて、彼はコン、と床を蹴りました。
「おじょーさん。ここ、女の人立ち入り禁止なんだけど」
「…………」
「困ったなぁ。管理人さん、呼ぶよ?」
「…………」
なにを話しかけても無反応です。
そのなんの表情も浮かばない面は、まるでマネキンのよう。
やれやれ、と首をふった同期は、
ラチがあかないと思ったか、管理人室に電話を入れ始めました。
おれは元来の気の弱さが戻ってきて、
オロオロと再び扉の隙間の女性に話しかけました。
「あの、さ……堀口、寝てるのかな? さっき電話でたのも、君?」
「…………」
「え、えーっと……もしかして、しゃべれない、の?」
人形かロボットと会話しているのかと思うほど、
表情、そして姿勢すらも変わらない女性。
扉の向こう、隙間からしか姿が見えないとはいえ、
顔だけしか見えていない、というのもひどく不安感をあおります。
(ん? 顔、だけ……)
そういえば。
先週、寮の階下でも顔だけの女性を見たことを思い出しました。
ぼんやりと。薄暗闇の中、輪郭だけぼやけたように見えた顔。
(……この、人)
ほの白いその顔が、闇の中から覗いていたあの姿と重なります。
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