【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
313 / 415

123.井戸の怪異①(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む
『30代男性・瀧本さん(仮)』

怖い話の定番といえば、忘れてはならないものがありますよね。
水にかかわっていて、薄暗く、冷たい石造り。

今は使われている場所はそうみかけない、
かつて一世を風靡した大ヒット作にも登場した、あれ。

ええ……井戸、ですよ、井戸。
今の若い世代じゃ、実物を見たこともない、
なんて人はザラにいるんじゃないでしょうか。

かく言う俺だって、ずーっと小さい頃から都会生活で、
井戸なんて一昔のモン、くらいの認識しかありませんでした。

そりゃあ、ホラーの定番としてテレビで見たり、
なにかの教科書で存在くらいは知っていましたけど。

しかしまぁ、何の巡り合わせやら、
いい歳になってからソイツに巡りあうなんて、思ってもいませんでしたよ。

あれは丁度転職したての頃でした。

新しく入った会社は、いわゆるワンマン経営の中小企業で、
そういうところにありがちな入社直後のスパルタ塾、
みたいなモンがあったんです。

あの頃は、今よりそういうモノに厳しくなくて、
パワハラ・モラハラ当たり前、みたいな研修、
ザラにあったんですよね。

同時期に入社した中途の同期一人と、
新入社員六名を含めた八人で、
山の方の合宿所を借りての研修が行われることになりました。

その施設はゆうに築六十年は超えているだろうとわかるほど、
かなり古ぼけていました。

壁にはあちこちに枯れた薄茶のツタがからみ、
トイレは屋外にしかないうえ、水流でない汲み取り式……
いわゆる、ボットン便所。

学生時代、帰宅部かつスパルタ教育を受けてきた覚えもない俺にとっては、
正直、この時点でものすごくイヤでイヤでたまりませんでした。

しかし、転職活動に苦心して、ようやく入社にこぎつけたのに、
研修がイヤだからといってすぐに辞めるわけにもいきません。

結局当日までぐだぐだ悩んだものの、
なんとか気持ちを奮い立たせ、その合宿所に足を踏み入れました。



「……しんどい」

一日目を終えて部屋に戻り、全身疲労に苛まれて、
おれは畳の上に大の字に寝転がりました。

先輩方からもキツイキツイとは聞いていたものの、
仏道で行う座禅から始まり、社訓の唱和暗記の繰り返し。

山中を走り回る特訓など、肉体的にも精神的にも予想以上の苦しみで、
他の四人も布団を引く前からそれぞれ畳の上に転がっています。

寝室は、とうぜん個室ではなく大広間での雑魚寝スタイル。

しばらく一休みした俺が、
さっさと寝ようと布団を敷き始めようと立ち上がった時、
丁度、開きっぱなしの窓に視線が向きました。

「……あれ?」

うす暗い、室内からの明かりがギリギリ届くか届かないかという位置に、
石造りの大きな置物が見えたのです。

「どした?」

同じ転職組の同期が、
俺の反応を気にして視線の先を覗きました。

「お……あれ、古井戸じゃないか」
「ふる…井戸?」

よくよく見てみれば、確かに造りは円柱型で、う
っすら灰色がかっています。

しかし、その上には木の板らしきもので覆われており、
今は使用されていないようでした。

「えっ、なんですか!? 井戸!?」

と、俺たちの後ろから、
若い新卒三人がワラワラと集ってきます。

「今は使われてなさそうだけどね」

同期が気をきかせて少し後ろにズレて、
彼らに窓の前を譲りました。

「えっ、お、俺、井戸って初めて見ました!」
「マジかよお前。うち、ジイちゃん家にあったわ」

などと、さっきまでの疲労困憊姿はいったいなんだったのかと思えるほど
元気な彼らに苦笑いしつつ、俺と同期の二人は布団を敷き始めました。

しかし、彼らは疲れて逆にテンションが上がってしまったのか、
井戸を前にまだギャアギャアとはしゃいでいます。

「ほらほら、早く寝とかねぇと、明日もキツいぞ」

と俺が声をかけてようやく、彼らも自分たちの布団にとりかかる始末。

普段の就寝時間に比べればかなり早い時刻ではありましたが、
俺はそのまま、すっかり朝まで眠りこけてしまいました。



「……あ~しんどかった」

それから、四日間が経過しました。

いくらまだ若いとはいえ、
肉体的にも精神的にも追い込まれる研修は地獄そのもの。

当初の絶対に根を上げるものかという誓いはすでにグラついて、
崩壊寸前まできていました。

八人いたメンバーのうち、三人の新卒は耐え切れずに去ってしまって、
残ったのは転職組の自分と同期、そして井戸で盛り上がっていた三人の新人だけ。

幸いなのは、その地獄の研修が今日でようやく終わりなこと。

明日には自宅に戻ってゆっくり休める。
そう思うと、あれほど苦しかった研修も妙な達成感が残ります。

「長かったなぁ~……一生で一番長い五日間だったわ」

同期も、敷かれた布団の上で両手両足をのばして大の字になっています。

「これに耐えられたんだから、これからなんにでも持ちこたえられるなぁ」
「いや~……むしろ問題はこれからじゃねぇかなぁ」

と、転職組の二人でごろごろと互いをねぎらっていると、

「……よし! じゃ、最終日を記念して、合宿所の肝試しでも行きましょうか!」

と、不意に新人たちがそんなことを言い出しました。

「き、肝試しって……まだ、指導員がるはずだぞ?」

さんざんしごき倒さした悪魔たちも、
今日一日、別室で休んでいるはずです。

ウロウロと夜中探索しているところを見つかりでもしたら……
想像するだけで恐ろしい。

「えっ、ビビってるんですか!?
 それこそバレないようにこっそり行くんでしょう!」

三人のうちの一人にあざけるように笑われて、内心イラっと思いつつ、

「この五日間の疲れがたまってるだろ?
 明日帰ってゆっくりするためにも、早く寝た方がいいんじゃないか」
「小学生じゃあるまいし。こんな田舎に来られるなんてまずないですよ」

そうまで言われてしまえば、年上という立場上、
引き下がるわけにもいきません。

俺が売り言葉に買い言葉で、彼らにのっかろうとした時、

「それこそ小学生じゃあるまいし、肝試しなんてやめとけって。
 せっかくの内定が取り消されてもしらねぇぞ」

と、こちらの肩をおさえつつ、
同期がたしなめるように声をかけてきました。

「……ヘッ」

三人は気分を害したように舌打ちすると、
敷いた布団そのままに部屋を出て行ってしまいました。

「……悪いな」
「いや……根性があり過ぎるってのも考えモンだな」

俺が誤ると、同期は苦笑しつつポン、とねぎらうように背を叩きました。

「せっかく今日まで無事にすごせたんだ。
 俺たちはちゃんと止めようとしたんだし、もう放っとこーぜ」
「……そーだな」

あきれ果てている彼の言葉に頷いて、
俺たちは静かに床につきました。

>>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

処理中です...