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133.マクラが合わない話④(怖さレベル:★★☆)
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「……ひ、ィッ!?」
オレは喉の奥からつぶれたような悲鳴を上げると、
ソファに放り投げていた毛布を、マクラの上へ投げつけました。
しかし、それでも。
ゴソゴソッ……ガサッ……
毛布の下から、くぐもったような例の音は鳴りやみません。
「くっ……う、ぉおおおっ!!」
オレはもう、半狂乱の状態で、台所にあったゴミ袋を三枚ほどひっつかむと、
その中に毛布ごとマクラを放り込みました。
ギュギュギュッとかたく厳重にしばり、
視界から見えないようにキッチンの一番奥へ放り投げると――
オレは混乱と恐怖と気持ちの悪さでトイレへかけこんで、
眠ることなく、そのまま朝までトイレで夜を明かしました。
朝、古暮が用を足しにトイレに入ってきて、マヌケな顔で驚くもんだから、
あまりのイラつきに、思わず一発引っぱたいちまいましたよ。
まぁ、今思えば、別にアイツは悪くないんですけどね。
半ギレしつつ事情を離すと、ヤツは叩かれた頭を抱えつつ半信半疑だったものの、
キッチンの奥に置かれている例のモノを見て、逆に好奇心をそそられたようでした。
古暮は「どーせ夢でも見たんだろ?」なんて言って、
包まれたマクラをビニールから取り出そうとしたので、
「バカ野郎!! やるなら外で……せめてベランダでやれ!!」
と、オレはヤツをつまみ上げ、そのままベランダへと放り出しました。
「お前なぁ……泊めてもらっといて……」
古暮が恨むような目でにらんできたものの、
オレは例のマクラを二度とみたくなかったので、
「それ、マジでやべーからな!! 開けたらほんと後悔するぞ!!」
と、ベランダのガラス扉を半分締めながら叫びました。
「ハイハイ。ったく、リーダーがくれたモンが、そんなヤベェ代物のワケねぇだろ」
ブツブツ文句を言いつつ、朝の陽ざしをぞんぶんに浴びながら、
ヤツは三重になった袋を開けました。
毛布の中から出てきたマクラは、いたってふつう。
パッと見た限りでは、なんでもないただのマクラのようでした。
「で、なんだっけ? マクラの中から妙な音がする、だっけか?」
完全にバカにしきった表情で、古暮はそれに耳を近づけます。
「バッカ、やめろって!」
「大丈夫だって。どうせなにも……」
と、半笑いで答えていた古暮の声が途切れました。
「古暮、どうした?」
「……いや、これ……」
ぽかん、とヤツの口が開きます。
「おい……どうなんだよ。音、したのか?」
室内から、おそるおそる見つめるオレを、
古暮が振り返りました。
その時の、ヤツの顔。
それは、いつものおちゃらけて人好きのする表情ではない、
真っ青で血の気の引いた、みたことのない恐怖の顔でした。
その形相のすさまじさは、オレまでゾッと背筋が粟立つほどです。
「音……聞こえたんだな?」
慎重に問いかけると、ヤツはハッとマクラから耳を離し、
コクコクと人形のようにうなづきました。
しかし、その直後にとった行動は、
オレが想像したのとまったく真逆だったんです。
「っだこれ、気色悪ィ!! つーか、中にいったい何が入ってんだ!?」
「え、おい、お前……まさか!」
古暮はベランダの室外機の上にあったハサミを手に取ると、
「うりゃっ!!」
と、思いっきりマクラに突き刺したんです。
「おっまえ!! それ、呪われんぞ!!」
「もとはリーダーのだし、呪いがいくならそっちだろ? それより、どんなモンが入ってるんだが、よく確認し……ん?」
ヤツは、布のちぎれた部分をさらに広げるように、
片手でビリッと勢いよく破きました。
その瞬間。
ゴソッ……ガサガサガサッ
朝の明るい日差しに照らされて、布の内側から、
真っ黒くてとんでもない量の、なにかの物体が現れて――。
…………。
あの後、オレたちは二人そろって悲鳴を上げて、
近所を散歩していた住人たちから、迷惑そうな顔を向けられましたよ。
でも、オレたちはそんなのを気にしている場合じゃなくって、
マクラと毛布をビニール袋でさらに五重巻きくらいにして、
即刻ゴミ処理場へと持ち込んだのは、言うまでもありません。
オレはそれで終わったんですが、
古暮の方は果敢にも、
例のネトゲのギルドリーダーとやらに連絡とったみたいなんですよね。
まぁ、詳しく問い詰めたものの、
『そんなの知らない』の一点張りで、話にならなかったようですが。
その上、せっかく組んでいた彼女のチームから除名されてしまったらしく、
ネット関係の軽い人間不信にまでなってしまったらしいです。
それを機にか、ヤツはネトゲをすっぱりやめて、
大学の講義にマジメに取り組むようになりました。
不幸中の幸い? いや、災い転じて、か……
アレだけひどい目にあったんですしね。
ま、オレには、なにもいいことは起きちゃいませんが。
いやぁ本当に、あの中身を見たときの衝撃たるや……ね。
マクラって、意外とけっこう、モノを詰め込めるんだなぁ、って感心したくらいですよ。
え? 結局、なにが入っていたのかって?
……真っ黒な。……真っ黒な、大量の、た……。
いや……うん、えぇ。
なんというか、あまりこう、
口に出したくないことって、ありますよね。
心の平穏を保つためにも。
でも、オレはあれを目にしてから、
外出先でマクラを使うことはいっさいなくなりましたよ。
だって、あんな……びっしり。
つぶつぶの、黒い……ちょっと孵化してるのまであった、あんな……。
いえ……すみません。このくらいにしておきましょうか。
どうも、聞いてくださって、ありがとうございました。
オレは喉の奥からつぶれたような悲鳴を上げると、
ソファに放り投げていた毛布を、マクラの上へ投げつけました。
しかし、それでも。
ゴソゴソッ……ガサッ……
毛布の下から、くぐもったような例の音は鳴りやみません。
「くっ……う、ぉおおおっ!!」
オレはもう、半狂乱の状態で、台所にあったゴミ袋を三枚ほどひっつかむと、
その中に毛布ごとマクラを放り込みました。
ギュギュギュッとかたく厳重にしばり、
視界から見えないようにキッチンの一番奥へ放り投げると――
オレは混乱と恐怖と気持ちの悪さでトイレへかけこんで、
眠ることなく、そのまま朝までトイレで夜を明かしました。
朝、古暮が用を足しにトイレに入ってきて、マヌケな顔で驚くもんだから、
あまりのイラつきに、思わず一発引っぱたいちまいましたよ。
まぁ、今思えば、別にアイツは悪くないんですけどね。
半ギレしつつ事情を離すと、ヤツは叩かれた頭を抱えつつ半信半疑だったものの、
キッチンの奥に置かれている例のモノを見て、逆に好奇心をそそられたようでした。
古暮は「どーせ夢でも見たんだろ?」なんて言って、
包まれたマクラをビニールから取り出そうとしたので、
「バカ野郎!! やるなら外で……せめてベランダでやれ!!」
と、オレはヤツをつまみ上げ、そのままベランダへと放り出しました。
「お前なぁ……泊めてもらっといて……」
古暮が恨むような目でにらんできたものの、
オレは例のマクラを二度とみたくなかったので、
「それ、マジでやべーからな!! 開けたらほんと後悔するぞ!!」
と、ベランダのガラス扉を半分締めながら叫びました。
「ハイハイ。ったく、リーダーがくれたモンが、そんなヤベェ代物のワケねぇだろ」
ブツブツ文句を言いつつ、朝の陽ざしをぞんぶんに浴びながら、
ヤツは三重になった袋を開けました。
毛布の中から出てきたマクラは、いたってふつう。
パッと見た限りでは、なんでもないただのマクラのようでした。
「で、なんだっけ? マクラの中から妙な音がする、だっけか?」
完全にバカにしきった表情で、古暮はそれに耳を近づけます。
「バッカ、やめろって!」
「大丈夫だって。どうせなにも……」
と、半笑いで答えていた古暮の声が途切れました。
「古暮、どうした?」
「……いや、これ……」
ぽかん、とヤツの口が開きます。
「おい……どうなんだよ。音、したのか?」
室内から、おそるおそる見つめるオレを、
古暮が振り返りました。
その時の、ヤツの顔。
それは、いつものおちゃらけて人好きのする表情ではない、
真っ青で血の気の引いた、みたことのない恐怖の顔でした。
その形相のすさまじさは、オレまでゾッと背筋が粟立つほどです。
「音……聞こえたんだな?」
慎重に問いかけると、ヤツはハッとマクラから耳を離し、
コクコクと人形のようにうなづきました。
しかし、その直後にとった行動は、
オレが想像したのとまったく真逆だったんです。
「っだこれ、気色悪ィ!! つーか、中にいったい何が入ってんだ!?」
「え、おい、お前……まさか!」
古暮はベランダの室外機の上にあったハサミを手に取ると、
「うりゃっ!!」
と、思いっきりマクラに突き刺したんです。
「おっまえ!! それ、呪われんぞ!!」
「もとはリーダーのだし、呪いがいくならそっちだろ? それより、どんなモンが入ってるんだが、よく確認し……ん?」
ヤツは、布のちぎれた部分をさらに広げるように、
片手でビリッと勢いよく破きました。
その瞬間。
ゴソッ……ガサガサガサッ
朝の明るい日差しに照らされて、布の内側から、
真っ黒くてとんでもない量の、なにかの物体が現れて――。
…………。
あの後、オレたちは二人そろって悲鳴を上げて、
近所を散歩していた住人たちから、迷惑そうな顔を向けられましたよ。
でも、オレたちはそんなのを気にしている場合じゃなくって、
マクラと毛布をビニール袋でさらに五重巻きくらいにして、
即刻ゴミ処理場へと持ち込んだのは、言うまでもありません。
オレはそれで終わったんですが、
古暮の方は果敢にも、
例のネトゲのギルドリーダーとやらに連絡とったみたいなんですよね。
まぁ、詳しく問い詰めたものの、
『そんなの知らない』の一点張りで、話にならなかったようですが。
その上、せっかく組んでいた彼女のチームから除名されてしまったらしく、
ネット関係の軽い人間不信にまでなってしまったらしいです。
それを機にか、ヤツはネトゲをすっぱりやめて、
大学の講義にマジメに取り組むようになりました。
不幸中の幸い? いや、災い転じて、か……
アレだけひどい目にあったんですしね。
ま、オレには、なにもいいことは起きちゃいませんが。
いやぁ本当に、あの中身を見たときの衝撃たるや……ね。
マクラって、意外とけっこう、モノを詰め込めるんだなぁ、って感心したくらいですよ。
え? 結局、なにが入っていたのかって?
……真っ黒な。……真っ黒な、大量の、た……。
いや……うん、えぇ。
なんというか、あまりこう、
口に出したくないことって、ありますよね。
心の平穏を保つためにも。
でも、オレはあれを目にしてから、
外出先でマクラを使うことはいっさいなくなりましたよ。
だって、あんな……びっしり。
つぶつぶの、黒い……ちょっと孵化してるのまであった、あんな……。
いえ……すみません。このくらいにしておきましょうか。
どうも、聞いてくださって、ありがとうございました。
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