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135.車の中の生首①(怖さレベル:★★★)

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(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)

それじゃ、お話させていただきましょうか。

オレがこれからするのは、運転中に起きた出来事です。
そう、運転中。もちろん車の、です。

いやぁ、ひとりで運転しているときって、
なんというか……ちょっと、無防備じゃないですか。

そりゃあ信号だとか歩行者には注意をしますし、
右折左折、対向車にも注意は払いますよ。

でも、逆に言えば、そっちに意識が向いていると、
ふと、車の中の、妙な寒々しさに驚くことがあったりして。

深夜ひとりでドライブをしていると、
オレはよくそんなことがあります。

ライトが道を明るく照らす反面、
誰もいないまっくらな後部座席に恐怖を感じた、
なんて体験したことある人、いるんじゃないでしょうか。

そこになにもいないとわかっていても、ね。
まぁ……オレがこの体験をした時は『いた』んですけどね。

オレはその頃IT関係の会社の営業をやっていまして、
その日、打ち合わせのためにちょっと遠い会社へ行く予定がありまして。

いつもだったら、会社の使い慣れた社用車で行くんですが、
あいにくその日は車検とかぶっていて、
貸してもらった別の代車を使うことになったんです。

「うわっ……ボロいな」

いつも使っている社用車もけっして新しいものではありません。
でも、今回レンタルすることになった代車はそれより十年は古いもので。

車の端の塗装がちょっと剥がれかけていたり、
オーディオがいっさいついていなかったり、
エンジンのかけ方が、キーを差し込んで回す昔ながらのタイプだったりと、
いかにも年代を感じさせるシロモノだったんです。

とはいえ、オレは一介の平社員。

車に文句を言う権利もなく、
その日は、その代車を使って取引先の会社に移動することなりました。



「うわ……もう9時かよ」

システムの仕様についての打ち合わせを終え、
取引先から出たときには、すでに月がだいぶ上っていました。

これからまた会社に戻って報告書を作る、と思うと、
ただでさえ疲れ切った心には、しんどいものがあります。

はあ~、と深いため息をつきながら代車に乗り込み、
キーを差し込んで、エンジンを回しました。

いつもの社用車だったらカーステレオでラジオでもかけるんですが、
この代車にはオーディオ関係がいっさいありません。

携帯の電池残量も心もとなく、
オレは仕方なしに無音で車を走らせ始めました。

(いくら代車とはいえ、もうちょっとマシなヤツ貸してくれりゃいいのになぁ)

なんて、車会社にぶつくさ文句を言いつつ、
アクセルを押し込みます。

平日の水曜日、午後の9時。

国道や県道ではさすがに車は途切れないものの、
細い市道になってくると、ガクッと車通りが減ってきます。

(にしても……あの金額でシステム改修、なぁ……無茶言ってくれるよ。オレがシステムの連中にドヤされちまうっての)

赤信号を見上げながら、
オレはハンドルをトントンとたたきました。

脳内には、さっきの取引先からアレコレ言われた、
無理難題がいくつもよみがえってきます。

(最初はアレでOKっつってたのに、後からやっぱり変更って言ってくるのがなぁ……追加料金を倍にするぞ、って言ってやればよかったか)

オレは、脳内でわきあがってくるイライラに意識が向いていて、
信号が青に変わったのに気づくのが、やや遅れてしまったんです。

ブブッ

「あっヤベッ」

後ろからクラクションを鳴らされて、
慌ててアクセルを踏み込みました。

(あー、ヤバい。集中力切れてるわ……)

なにか飲み物でも、とドリンクホルダーを見ても、
買っておいたカフェオレはすでにからっぽ。

どこかのコンビニか自販機にでも寄って、と思ったものの、
この辺のコンビニはすでに通り過ぎてしまっています。

それに、後ろの車から、
煽り気味に近寄ってくるプレッシャーもあり、
俺は車通りの少ない道へハンドルを切りました。

これから二十分くらい車を走らせないと、
コンビニはおろか、自販機もないような道です。

暗闇を照らすヘッドライトの、まぶしい光。

県道と国道のさかいにある田舎道では、
すれ違う車もほとんどありません。

(あー……多少大回りになっても、違う道から行くべきだったかな)

俺が走ってきた道は、会社までかなり短縮になるルートではあるものの、
細い田舎道ばかりを通過するため、真っ暗なこの時間では、かなり心細さを感じます。

オレはうっすらとした恐怖を感じつつ、
信号のない道を、ずーっとまっすぐ走らせていた、そんな時でした。

キラッ

「んっ……!?」

道路の中央で、白いなにかが光を反射したんです。

キュキィーッ!!

反射的にかけた急ブレーキとハンドル操作のせいで、
タイヤが甲高い音を響かせながら車が止まりました。

(っ……当たった感触はないけど……今の、人か!?)

一瞬、白く光ったなにか。
それは一見、人の形をしているように思えました。

全身の緊張がほどけ、止まった車の中で
ドクドクと心臓の鼓動を感じます。

しかし、車道で止まったオレの目の前には、
ただただ、なにもない道路が広がっていました。

(ギリセーフ……か? でも、一応見ておくべき、だよな……)

ライトに照らされた正面には、人や動物の姿はありません。

でも、万が一、ということもあります。
オレは後ろから車がこないのを確認してから、
ゆっくりと路肩に寄せて車を停め、車道へ降りました。

「やっぱなにもない……誰もいない、よな?」

前と後ろの道路をグルッと見回しても、
道端で誰か倒れていたり、獣の死骸などもありません。

道の両脇には広い畑が広がっていて、
遠くに民家らしき明かりがぽつりぽつりと見えるくらい。

人が横断するような場所ではないし、
ただの見間違いだったか、それとも徘徊老人でもいたのかもしれません。

オレは安心して深々と息を吐き出しつつ、
念入りにもう一度ぐるりと周囲を見回しました。

時間は、もう9時半を回った頃合い。
きっと疲れていて、看板かなにかに光が当たったのを見間違えただけなのでしょう。

オレはそう結論をつけて、
車に乗り込もうと運転席のドアを開けようとしました。
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