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135.車の中の生首②(怖さレベル:★★★)
しおりを挟むササッ
「……ん?」
なにかが、視界の端をよぎりました。
白い、人の形をしたなにか。
それが素早く、車の後ろに回り込むように移動したんです。
オレは思わず動揺して、その場で硬直しました。
シン、と静かな沈黙。
今のは、いったいなんだ?
さっき見回したときは、人の姿なんてどこにも――。
と、動けないオレの後ろから、車が一台走ってきて、
そのまま横を通り過ぎていきました。
ぶぉん、と風が通り抜けていく音で、
オレは一気に、緊張がほどけまいsた。
(ハハ……なにビビッってんだよ。どうせ野生動物かなんかだろ。いくら田舎道だからって、幽霊が出るわけでもあるまいし)
何度も言う通り、この辺りは畑ばかりですし、
近くには有名な山もあります。
タヌキやらテンやらの動物は生息しているでしょうし、
もうまっくらの時間帯だから、恐怖を感じるだけ。
オレはそう自分自身に言い聞かせながら、
サッサと車に乗ってしまおうと運転席のドアを開けました。
「……え?」
車の下で、なにかが動きました。
白い、バレーボールくらいのサイズの、なにかが。
(オイオイ……なんだ? ネコか?)
車の下に居座られてしまったら面倒です。
オレはまいったなぁ、なんて思いつつ、
両手をパンパンとたたいて音を出しつつ、車の横にしゃがみこみました。
「ほーらほら。サッサと出てくれ……よ……?」
と、オレがスマホの懐中電灯機能をオンにして、
車の下を覗き込んだ瞬間です。
パチッ、と。
車の下にいたなにかの目が、瞬きしました。
「――ッ!?」
オレはもんどりうって、その場でしりもちをつきました。
だって、目が。
いや、顔が。
人間の生首が、車の下にあったんですから。
オレの手から離れた携帯が、
コツン、とアスファルトの上に落ちて、
明かりが暗闇をぽっかりと照らし上げました。
「あ……ぁ、あ……」
オレは下半身を引きずるようにして、ズルズルと後ずさりました。
今見えた、白い生首。
それが、まぶたの裏に焼き付いて離れません。
オレがそうして立ちあがれないでいた時。
ふいに、ピピピッ、と携帯が着信を告げました。
「ひ、……っ!? あ、っ」
電話の液晶には『会社』の文字。
オレは必死に手を伸ばして携帯をつかむと、
あわてて通話をタップしました。
「も、も、もしもし……?」
『おう、お疲れ。打ち合わせ、もう終わったか?』
電話の相手は会社の先輩でした。
聞きなれたその声に、オレはへなへなと気が抜けて、
「へはぁ」となんとも間の抜けた返事をしてしまいました。
『あ? おい、どうした。なんか声かすれてねぇか?』
「あ……い、いえ、すいません。えぇと……今会社に向かっているところで……たぶん、あと30分くらいかかるかなぁと」
『ああ、そうか。もうおせぇし、そのまま直帰していいぞ。報告書は明日でいいから』
「えっ? あ、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」
『おお。気をつけて帰れよ』
先輩の明るい声に頷いて、通話は終わりました。
シン、と再び静寂が訪れます。
でも、震えて動けなかった体はいくらかマシになり、
オレは電話を片手に、ゆっくりと立ち上がりました。
(は、はは……生首、なんてな。どうせ見間違いだろ。や、野生動物かなんかだろうし……)
先輩と話をしたことで、おれは少し冷静さを取り戻しました。
まさか、生首なんて見るはずがない。
どうせ、疲れによる幻覚かなにかだろう。
オレは自分自身にそうむりやり納得させながら、
開けっ放しの運転席のドアで体を支え、そっと車に乗り込みました。
キーを差してグッと回せば、
当然ながら、エンジンはすんなりかかります。
オレは念入りに、車のドアロックをすべてかけると、
そのまま、元通り田舎道を走り始めました。
タイヤはなんのひっかかりもなく動き、
走行するのに違和感もありません。
例の白い生首――幻覚か野生動物と思われるなにかも、
すでに消えたか移動したのでしょう。
あと10分も走り続ければコンビニが見えます。
軽い食事と、飲み物でも買って、うちに帰ってしまおう。
「はぁ……直帰できるのはありがたいけど、こんな体験したくなかったな……」
取引先で捕まって遅くまで残業、
のち、わけのわからないものを見てしまう、なんて。
誰も聞いていないのをいいことに、
オレは車内でブツブツと文句を垂れ流しながら、
アクセルを強めに踏みつつ、走っている、と。
べちょっ
「……ん?」
妙な音が聞こえてきました。
粘性のある液体を垂らしたような、
やけに重たい、ねばっこい音。
車に乗っているのはオレのカバンくらいで、
音の原因になるようなナマモノも当然ありません。
オレは助手席を見て、なにもないのを確認してから、
ふと、ルームミラーで後部座席を確認したんです。
そして『それ』を見てしまいました。
「……えっ……?」
白い。バレーボールくらいの、なにか。
楕円形の白い肌を覆うような、糸のような髪の毛。
その真下にある、空洞のような黒い両目。
のっぺらぼうのように凹凸のない鼻と、
まったく歯の存在しない、ただの真空としか思えない黒い口。
そして、ブツリ、と途中でちぎれた、首。
――生首。生首が、後部座席に転がっている。
「ひ、あ……!?」
オレの目はルームミラーにくぎ付けになり、
ハンドルを持つ手が汗ですべります。
なんで、車の外にいたはずの生首が。
いや、そもそも、アレは見間違いじゃなかったのか。
生首は、まるで死体そのもののように、
ポッカリと開いた空洞のまなこでおれを見ています。
(これはもしかして、オモチャとか……オレをビビらせようっていう、なんかそんなんじゃ……)
と、オレが現実逃避気味に思考を飛ばしていると、
生首の口が、パカリと大きく開きました。
カタカタカタ……
歯のない口が、まるで笑うかのように上下に揺れます。
オレの思考を、バカにでもするかのように。
「な、なんで……なん、で……??」
オレは呆然と、同じ言葉をくり返しました。
なんでどうして、こんなわけのわかないものが、車に?
生首は、オレの声が聞こえているのか、
ググッと白い頬をつりあげて、顔全体を揺らしました。
ぐちゃっ、ぐちゃっ
生首が左右に揺れると、あの水っぽい音が響きます。
びちゃびちゃと、重たい音が。
オレは奥歯をかみしめてむりやりルームミラーから視線を離し、
ハンドルをつよく握りしめました。
ここで止まったら、どうなるかわからない。
それなら、一刻も早く、人がいるコンビニに――!
しかし、そんなオレの決意をあざ笑うかのように、
後部座席から、濁った声が聞こえてきました。
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