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151.赤い紙、青い紙④(怖さレベル:★★★)
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さっきまではブルブルと震えていたクセに、
なんだか今は、落ち着いているようにすら見えます。
いや、違う。
おれがあまりにも動揺しているから、
かえってヤツが冷静になったのかもしれません。
おれは、必死に気を落ち着かせ、考えました。
赤い紙を選べば、血を噴き出して死ぬ。
青い紙を選べば、血を抜かれて死ぬ。
聞こえてくる声がただのおどかしであれば、
実際にそんなことは起きないでしょう。
でも、おれは。
今まさに、その声に問いかけられているおれには、
その声はまさしく本物の、幽霊の声としか思えませんでした。
「……くっ……」
おれが、なにも答えられず、ただただ黙り込んでいた時でした。
「……っ、あはっ、あははははっ!!」
突然、おれの腕をつかんでいた三ノ田が、
大爆笑し始めたんです。
「み……三ノ田……?」
まさか、あまりの恐怖に、気が狂ってしまったのか。
ゲラゲラ笑い出した三ノ田を振り返ると、
ヤツはニヤリと笑みを浮かべて、言いました。
「くっ、ふふ……あはは! たっくん、ビビりすぎだって……!」
「……三ノ田。お前……っ」
「あはは……っ、ぼく、この肝試しがあんまりにも怖くて……係員の人に頼んで、どういうおどかしがあるか、実は先に聞いてたんだよね」
「……は、はあ!?」
さっきまでのビビりっぷりはなりを潜め、
三ノ田は蔑むようにおれを見つめてきました。
「トイレットペーパーが置いてないのも、帰るときに音声データが流れることも……どっちも知ってたよ」
「……なっ……!」
「どっちも演出なんだってさ。怖いよね……でも、先に知ってれば、どうってことないね」
「……お、お前……!」
「あっはは! たっくん、いつもはへっちゃらな顔してるのに、こういうのは怖がるんだねぇ」
明らかに小馬鹿にしている笑みに、
おれはカーッと顔が赤くなりました。
まさか、見下していた三ノ田にからかわれるなんて!!
みっともなさと恥ずかしさとイラ立ちで、
おれは下唇をキューッとかみしめました。
「じ……じゃあ、なんだよ! 赤い紙も青い紙もねぇのは、最初っから仕込みだったってことかよ……っ!!」
「そうみたいだね。……ふふっ、実は、ここの掃除用具入れに入ってるんだって。あの音声データには続きがあって、ちゃんと最後まで聞けば在り処を話すみたいだよ。……つまり、ビビりは最後まで聞かずに逃げ出すから、トイレットペーパーは持って行けない、ってわけ」
と、三ノ田は楽しそうに笑いながら、
スタスタとトイレの手前、掃除用具入れへと向かいました。
『……赤い紙、青い紙……どっちがいいか、決まったかぇ……?』
例の、音声データが再び聞こえてきました。
もうおれも、その声にビビったりはしません。
なんだか魂が抜け落ちたような気分で、
ただただ、右から左へと流すだけです。
下田は、聞こえてくる音声にケラケラと笑いながら、
「あはは! 赤い紙も青い紙も、せっかくだからどっちももらっていきますよ! ……と、あれ?」
掃除用具入れの扉をパカッと開けた三ノ田は、
不意に、間の抜けた声を上げました。
「ここに置いてあるって聞いたのになぁ……入ってないじゃん」
「……え? そう、なのか?」
「ん~……下にでも落ちちゃったのかな」
三ノ田は、モップやらバケツやらをかきわけ、ガサゴソやっています。
少しの間呆けていたおれも、
ただトイレの入り口でつったっているわけにもいきません。
なんともいえない気まずい気分のまま、
ヤツの背中側から、掃除用具入れの中を覗きました。
「……それらしきモン、ねぇけど?」
モップ、バケツ、タワシ、あと洗剤。
掃除用具入れの中には、見慣れたセットくらいしか見当たりません。
床を懐中電灯で照らしてみても、
トイレットペーパーの予備すら置かれていませんでした。
「お前……もしかして、またおれを担いでるんじゃねぇだろうな」
「さすがに、二度も騙さないよ……それにしてもおかしいなぁ」
三ノ田はあきらめずにバケツをどかしたりモップをよけたりしていますが、
やっぱり、それらしきモノはありません。
「これ、やっぱ前のヤツらが全部持っていっちまったんじゃねぇの」
「うーん……そうかも。たっくん、さっきの張り紙とったんだっけ? もうそれでいいか」
「……結局、コレが証拠か」
と、おれと三ノ田がついに諦めて、
掃除用具入れから離れたときでした。
『……そうかい、そうかい……赤い紙と青い紙、どっちも欲しいのかぇ……』
と、しわがれた老人の声が響き渡りました。
一瞬ゾクッとしたものの、さっきの三ノ田の言葉を思い出し、
これも録音データの続きかと、おれは腑抜けた気分でヤツを見ました。
「おい、この声、最後まで聞いてくのか?」
「べつにいいんじゃない? 内容わかってるし……それに時間も遅いし、もう帰ろうか」
と、三ノ田が首を振って歩き出したときでした。
ははは、あははははは……
くぐもったような老人の笑い声が、トイレ内に低く響き渡りました。
「……な、なっ!?」
これも、恐怖演出のひとつなのか。
おれがとっさに三ノ田を見ると、さっきまで余裕の表情だったヤツの顔から、
サーッと血の気が引いていました。
「お、おい、三ノ田……」
「し、知らない……っ! こ、こんなの、き、聞いてない……!!」
ヤツがだだっこのように両手を振り回して、
ブンブンと首を左右に大きくゆすったとき、でした。
シュッ――ゴトン
おれの目の前で――三ノ田の首が、落ちました。
「……え?」
まるでだるま落としのように、
顔と首とのつなぎ目に赤い筋が走って、
ヤツの頭部が、ゴトン、と床に落ちたんです。
「…………え?」
固まったおれの目の前で、首から下、
三ノ田の胴体部分が、垂直にドサッと床にくずれました。
首と、体。
ヤツの体は真っ二つに分断され、
その頭部が、コロコロコロ、とトイレの床を転がっていきました。
「え……え?」
床に倒れた三ノ田の胴体は、ピクリとも動きません。
>>
なんだか今は、落ち着いているようにすら見えます。
いや、違う。
おれがあまりにも動揺しているから、
かえってヤツが冷静になったのかもしれません。
おれは、必死に気を落ち着かせ、考えました。
赤い紙を選べば、血を噴き出して死ぬ。
青い紙を選べば、血を抜かれて死ぬ。
聞こえてくる声がただのおどかしであれば、
実際にそんなことは起きないでしょう。
でも、おれは。
今まさに、その声に問いかけられているおれには、
その声はまさしく本物の、幽霊の声としか思えませんでした。
「……くっ……」
おれが、なにも答えられず、ただただ黙り込んでいた時でした。
「……っ、あはっ、あははははっ!!」
突然、おれの腕をつかんでいた三ノ田が、
大爆笑し始めたんです。
「み……三ノ田……?」
まさか、あまりの恐怖に、気が狂ってしまったのか。
ゲラゲラ笑い出した三ノ田を振り返ると、
ヤツはニヤリと笑みを浮かべて、言いました。
「くっ、ふふ……あはは! たっくん、ビビりすぎだって……!」
「……三ノ田。お前……っ」
「あはは……っ、ぼく、この肝試しがあんまりにも怖くて……係員の人に頼んで、どういうおどかしがあるか、実は先に聞いてたんだよね」
「……は、はあ!?」
さっきまでのビビりっぷりはなりを潜め、
三ノ田は蔑むようにおれを見つめてきました。
「トイレットペーパーが置いてないのも、帰るときに音声データが流れることも……どっちも知ってたよ」
「……なっ……!」
「どっちも演出なんだってさ。怖いよね……でも、先に知ってれば、どうってことないね」
「……お、お前……!」
「あっはは! たっくん、いつもはへっちゃらな顔してるのに、こういうのは怖がるんだねぇ」
明らかに小馬鹿にしている笑みに、
おれはカーッと顔が赤くなりました。
まさか、見下していた三ノ田にからかわれるなんて!!
みっともなさと恥ずかしさとイラ立ちで、
おれは下唇をキューッとかみしめました。
「じ……じゃあ、なんだよ! 赤い紙も青い紙もねぇのは、最初っから仕込みだったってことかよ……っ!!」
「そうみたいだね。……ふふっ、実は、ここの掃除用具入れに入ってるんだって。あの音声データには続きがあって、ちゃんと最後まで聞けば在り処を話すみたいだよ。……つまり、ビビりは最後まで聞かずに逃げ出すから、トイレットペーパーは持って行けない、ってわけ」
と、三ノ田は楽しそうに笑いながら、
スタスタとトイレの手前、掃除用具入れへと向かいました。
『……赤い紙、青い紙……どっちがいいか、決まったかぇ……?』
例の、音声データが再び聞こえてきました。
もうおれも、その声にビビったりはしません。
なんだか魂が抜け落ちたような気分で、
ただただ、右から左へと流すだけです。
下田は、聞こえてくる音声にケラケラと笑いながら、
「あはは! 赤い紙も青い紙も、せっかくだからどっちももらっていきますよ! ……と、あれ?」
掃除用具入れの扉をパカッと開けた三ノ田は、
不意に、間の抜けた声を上げました。
「ここに置いてあるって聞いたのになぁ……入ってないじゃん」
「……え? そう、なのか?」
「ん~……下にでも落ちちゃったのかな」
三ノ田は、モップやらバケツやらをかきわけ、ガサゴソやっています。
少しの間呆けていたおれも、
ただトイレの入り口でつったっているわけにもいきません。
なんともいえない気まずい気分のまま、
ヤツの背中側から、掃除用具入れの中を覗きました。
「……それらしきモン、ねぇけど?」
モップ、バケツ、タワシ、あと洗剤。
掃除用具入れの中には、見慣れたセットくらいしか見当たりません。
床を懐中電灯で照らしてみても、
トイレットペーパーの予備すら置かれていませんでした。
「お前……もしかして、またおれを担いでるんじゃねぇだろうな」
「さすがに、二度も騙さないよ……それにしてもおかしいなぁ」
三ノ田はあきらめずにバケツをどかしたりモップをよけたりしていますが、
やっぱり、それらしきモノはありません。
「これ、やっぱ前のヤツらが全部持っていっちまったんじゃねぇの」
「うーん……そうかも。たっくん、さっきの張り紙とったんだっけ? もうそれでいいか」
「……結局、コレが証拠か」
と、おれと三ノ田がついに諦めて、
掃除用具入れから離れたときでした。
『……そうかい、そうかい……赤い紙と青い紙、どっちも欲しいのかぇ……』
と、しわがれた老人の声が響き渡りました。
一瞬ゾクッとしたものの、さっきの三ノ田の言葉を思い出し、
これも録音データの続きかと、おれは腑抜けた気分でヤツを見ました。
「おい、この声、最後まで聞いてくのか?」
「べつにいいんじゃない? 内容わかってるし……それに時間も遅いし、もう帰ろうか」
と、三ノ田が首を振って歩き出したときでした。
ははは、あははははは……
くぐもったような老人の笑い声が、トイレ内に低く響き渡りました。
「……な、なっ!?」
これも、恐怖演出のひとつなのか。
おれがとっさに三ノ田を見ると、さっきまで余裕の表情だったヤツの顔から、
サーッと血の気が引いていました。
「お、おい、三ノ田……」
「し、知らない……っ! こ、こんなの、き、聞いてない……!!」
ヤツがだだっこのように両手を振り回して、
ブンブンと首を左右に大きくゆすったとき、でした。
シュッ――ゴトン
おれの目の前で――三ノ田の首が、落ちました。
「……え?」
まるでだるま落としのように、
顔と首とのつなぎ目に赤い筋が走って、
ヤツの頭部が、ゴトン、と床に落ちたんです。
「…………え?」
固まったおれの目の前で、首から下、
三ノ田の胴体部分が、垂直にドサッと床にくずれました。
首と、体。
ヤツの体は真っ二つに分断され、
その頭部が、コロコロコロ、とトイレの床を転がっていきました。
「え……え?」
床に倒れた三ノ田の胴体は、ピクリとも動きません。
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※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
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