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155.通学路のワナ②(怖さレベル:★★☆)
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見えないのに。
聞こえないのに。
でも、確実になにかが『いる』。
なんだかヤバい。
――私ひとりでは、どうにもできない!
しかし、その瞬間。
「ひっかかった、ひっかかった」
すぐそばで、そんな声が聞こえました。
耳のすぐ裏でささやかれたかのような声に、
私はバッと振り返りました。
でも、誰もいません。
「ひっかかった、ひっかかった」
また聞こえた声には、隠しようもない悪意がにじんでいます。
それは、私と同じくらいの年齢の、子どもの声でした。
そして――助けて、と救いを求めていたあの声に、ソックリでもありました。
――だま、された!?
さっきの『助けて』は、きっと、私を呼び込むための罠だったのでしょう。
なんだか、ヤバい。
私はとっさに、逃げだそうとしました。
「……っ!? 足が、どうして……!?」
両足が、急に、動かなくなりました。
いや、動かないんじゃなく、動けない。
足首と、ふくらはぎ。
そこが、ギュッ、と誰かにつかまれている感触があるのです。
誰もいないのに、なにも見えないのに。
心臓が縮み上がるような恐怖。
明らかに異質な現象に、私の頭は真っ白になりました。
五つの指が食い込むほどきつく足を掴む感触に、
私はパニックになって、両手をブンブンと振り回しました。
すると『なにか』がひるんだかのように、一瞬足が動くようになって、
私の目に、あるものが映りました。
黒い、小さな、細い腕。
それが、霧のように姿を変えながら、
いくつもいくつも、私の足をひっしと掴んでいる、その映像を。
「きゃははは、ぎゃははは」
突然、笑い声が聞こえました。
甲高く耳障りで、底に悪意が潜んでいるかのような、邪悪な笑い声。
それは一つではなく、いくつもいくつもが、重なり合って反響して、
こちらを取り囲むかのように聞こえてきます。
黒い霧のような手と、聞こえてくる笑い声。
恐怖と混乱で動けない私の視界に、
フッ、と、白いものが浮かんで見えました。
うす暗い夕闇の中に、冷たい光を放つ白いなにか。
よくよく見ると、それはニヤッと笑みの形に歪んだ、人間の歯でした。
周囲の景色から、どこかいびつに浮き上がった真っ白い歯が、
カチカチを音を打ち鳴らし、ゲラゲラと不気味に笑っているんです。
バカな獲物が捕まった。
そう、あざけるかのように。
(たす……たす、けて……!!)
喉は震えるのに、声が出ません。
つかまれた足を、振りほどくこともできません。
誰か。誰かが、この道を通ってくれさえすれば。
一刻も早く逃げたいのに、体がまったく言うことを聞かないのです。
そんな私を、ゲラゲラと、浮かぶ白い歯は笑っています。
カチカチカチカチと、歯を打ち鳴らして。蔑むように、見下すように。
「えっ……あっ?」
ガッ
今まで足にまとわりついていた黒い霧が、
急に、私の体を家の方へと引っ張り始めました。
ズズッ、ズズズッ
靴がアスファルトに擦れ、傾いた体は無理やりに体勢を崩されて、
どんどん、家の庭へと引きずり込まれていきます。
マズイ、このままじゃ、あの家に。
私は、動かない体を、それでも必死で抵抗しようとしました、
気合いで腕を振り回し、なんとか、周りのなにかから逃れようと。
でも、その瞬間でした。
ガンッ!!
背中に、ものすごい衝撃が走ったんです。
真上から殴られたかのような強烈なショックに、一瞬、息が止まったほど。
ヨロめいた私の足から黒い霧が離れ、
支えるもののなくなった体は、そのままドサッと庭先に倒れこみました。
激痛が背中からじわじわと全身に広がって、
逆に、指先はどんどん冷たく、血の気がなくなっていきます。
クルクルと回る視界の先には、まっぷたつに割れた植木鉢。
(あれが……上から……?)
植木鉢が、二階から背中に直撃した。
それを理解するかしないかのうちに、私はそのまま、意識を失ってしまったんです。
その後は……ええ、陳腐な話ですが、気が付いたら私は病院にいました。
あの家の庭先に倒れていたのを、通行人に発見されて、運ばれたようです。
怪我としては、背中の打撲と軽いヒビ。
植木鉢の落下が原因ということで、
事件性を考えて警察にも事情聴取をされました。
あの家の持ち主はすでに亡くなっていて、あそこは空き家。
だから、ずっと放置されていた植木鉢が、
風に吹かれて『偶然』下にいた私に当たった――と、そのように処理されたと聞きました。
『幽霊に騙されて、上から植木鉢を落とされた』という私の主張は、
まったく聞き入れられることがないままに。
例の家は、持ち主不在のまま、
今でも取り壊されることなく存在しています。
まあ、あんなことがあったから、
庭やドアにもテープが貼られて、いかにもな空き家になっていましたけど。
あれから時が流れて、私が大学生になった今でも、
あの通学路でなにかが起きた、って話、たまに聞くんですよね。
中学生が自転車で横転して大怪我した、とか、
風の強い日に、ブロックが落ちてきた子どもに当たった、だとか……。
全部が全部、アレのせい、とは言い切れません。
偶然の場合もあるでしょう。
ただ、よく事故の起こる交差点があるように、
あの家の付近には、なにか恐ろしいものが棲んでいる。そう、思うんです。
だって、大人になった今でも、たまに思い出すんですよ。
あの『ひっかかった、ひっかかった』という底知れぬ悪意を含んだ声と、
おぞましく歪んだ、あの恐ろしい笑い声を。
===
※ 次回更新 → 6/9(月) ~ 3話
聞こえないのに。
でも、確実になにかが『いる』。
なんだかヤバい。
――私ひとりでは、どうにもできない!
しかし、その瞬間。
「ひっかかった、ひっかかった」
すぐそばで、そんな声が聞こえました。
耳のすぐ裏でささやかれたかのような声に、
私はバッと振り返りました。
でも、誰もいません。
「ひっかかった、ひっかかった」
また聞こえた声には、隠しようもない悪意がにじんでいます。
それは、私と同じくらいの年齢の、子どもの声でした。
そして――助けて、と救いを求めていたあの声に、ソックリでもありました。
――だま、された!?
さっきの『助けて』は、きっと、私を呼び込むための罠だったのでしょう。
なんだか、ヤバい。
私はとっさに、逃げだそうとしました。
「……っ!? 足が、どうして……!?」
両足が、急に、動かなくなりました。
いや、動かないんじゃなく、動けない。
足首と、ふくらはぎ。
そこが、ギュッ、と誰かにつかまれている感触があるのです。
誰もいないのに、なにも見えないのに。
心臓が縮み上がるような恐怖。
明らかに異質な現象に、私の頭は真っ白になりました。
五つの指が食い込むほどきつく足を掴む感触に、
私はパニックになって、両手をブンブンと振り回しました。
すると『なにか』がひるんだかのように、一瞬足が動くようになって、
私の目に、あるものが映りました。
黒い、小さな、細い腕。
それが、霧のように姿を変えながら、
いくつもいくつも、私の足をひっしと掴んでいる、その映像を。
「きゃははは、ぎゃははは」
突然、笑い声が聞こえました。
甲高く耳障りで、底に悪意が潜んでいるかのような、邪悪な笑い声。
それは一つではなく、いくつもいくつもが、重なり合って反響して、
こちらを取り囲むかのように聞こえてきます。
黒い霧のような手と、聞こえてくる笑い声。
恐怖と混乱で動けない私の視界に、
フッ、と、白いものが浮かんで見えました。
うす暗い夕闇の中に、冷たい光を放つ白いなにか。
よくよく見ると、それはニヤッと笑みの形に歪んだ、人間の歯でした。
周囲の景色から、どこかいびつに浮き上がった真っ白い歯が、
カチカチを音を打ち鳴らし、ゲラゲラと不気味に笑っているんです。
バカな獲物が捕まった。
そう、あざけるかのように。
(たす……たす、けて……!!)
喉は震えるのに、声が出ません。
つかまれた足を、振りほどくこともできません。
誰か。誰かが、この道を通ってくれさえすれば。
一刻も早く逃げたいのに、体がまったく言うことを聞かないのです。
そんな私を、ゲラゲラと、浮かぶ白い歯は笑っています。
カチカチカチカチと、歯を打ち鳴らして。蔑むように、見下すように。
「えっ……あっ?」
ガッ
今まで足にまとわりついていた黒い霧が、
急に、私の体を家の方へと引っ張り始めました。
ズズッ、ズズズッ
靴がアスファルトに擦れ、傾いた体は無理やりに体勢を崩されて、
どんどん、家の庭へと引きずり込まれていきます。
マズイ、このままじゃ、あの家に。
私は、動かない体を、それでも必死で抵抗しようとしました、
気合いで腕を振り回し、なんとか、周りのなにかから逃れようと。
でも、その瞬間でした。
ガンッ!!
背中に、ものすごい衝撃が走ったんです。
真上から殴られたかのような強烈なショックに、一瞬、息が止まったほど。
ヨロめいた私の足から黒い霧が離れ、
支えるもののなくなった体は、そのままドサッと庭先に倒れこみました。
激痛が背中からじわじわと全身に広がって、
逆に、指先はどんどん冷たく、血の気がなくなっていきます。
クルクルと回る視界の先には、まっぷたつに割れた植木鉢。
(あれが……上から……?)
植木鉢が、二階から背中に直撃した。
それを理解するかしないかのうちに、私はそのまま、意識を失ってしまったんです。
その後は……ええ、陳腐な話ですが、気が付いたら私は病院にいました。
あの家の庭先に倒れていたのを、通行人に発見されて、運ばれたようです。
怪我としては、背中の打撲と軽いヒビ。
植木鉢の落下が原因ということで、
事件性を考えて警察にも事情聴取をされました。
あの家の持ち主はすでに亡くなっていて、あそこは空き家。
だから、ずっと放置されていた植木鉢が、
風に吹かれて『偶然』下にいた私に当たった――と、そのように処理されたと聞きました。
『幽霊に騙されて、上から植木鉢を落とされた』という私の主張は、
まったく聞き入れられることがないままに。
例の家は、持ち主不在のまま、
今でも取り壊されることなく存在しています。
まあ、あんなことがあったから、
庭やドアにもテープが貼られて、いかにもな空き家になっていましたけど。
あれから時が流れて、私が大学生になった今でも、
あの通学路でなにかが起きた、って話、たまに聞くんですよね。
中学生が自転車で横転して大怪我した、とか、
風の強い日に、ブロックが落ちてきた子どもに当たった、だとか……。
全部が全部、アレのせい、とは言い切れません。
偶然の場合もあるでしょう。
ただ、よく事故の起こる交差点があるように、
あの家の付近には、なにか恐ろしいものが棲んでいる。そう、思うんです。
だって、大人になった今でも、たまに思い出すんですよ。
あの『ひっかかった、ひっかかった』という底知れぬ悪意を含んだ声と、
おぞましく歪んだ、あの恐ろしい笑い声を。
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※ 次回更新 → 6/9(月) ~ 3話
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