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155.通学路のワナ①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
小学生の頃って、登下校の時には決められた道――通学路を使いますよね。
自宅から学校までの道のりで『この道を通ってください』ってルートが決められている、アレ。
私は運が悪く、仲のいい友達とは違う方向に住んでいたので、
いつもひとりで登下校をしていました。
ええ、あの頃は、集団登校とか集団下校という習慣はなかったんですよね。
そして、私が通学路には、一か所だけ、変な場所があったんです。
いえ、見た目は別に、ふつうなんです。
ただ、なんというか――雰囲気が、おかしかったんですよね。
一軒家が並ぶ住宅街の中にある、とある家。
古びた雰囲気の一軒家。そこがその『変な場所』でした。
駐車場に一台も車はなく、
洗濯ものも干されていないし、電気がついているのも見たことがない。
窓はカーテンで覆われていて中が見えないし、
表札も外されていて、庭も雑草が生えまくっているんです。
まあ……そういう家は、あっちこっちにあるでしょうね。
よくある空き家といえばそれまでです。
私も、登校し始めた頃は、全然気にならなかったんですよ。
でも、だんだんと。
登下校で何度も家の前を通るについれて、
モヤモヤとわだかまるような、イヤな感じを覚えるようになったんです。
その家の前を通るたびに、
なんだか、人に囲まれているような気がするんです。
ええ……見回しても、ひとっこひとりいないのに、ですよ?
前、うしろ、右と左。
四方向から囲まれているような、そんな気配を感じるんです。
決まって、その家の前を通った時にだけ。
おんなじ道を通るクラスメイトに聞いてみましたが、
わかる子とわからない子、だいたい半々くらいでした。
不気味に思いはしていたものの、通学路ですから、変えることはできません。
もう、そこは『そういう場所』なのだと、気にしないようにしていたんです。
でも、私が五年生になった年の、秋ぐらいのことでした。
クラブ活動を終えて、だんだんと赤くなってきた空を眺めながら、
いつもの通学路を下校していました。
後ろの学校からは『遠き山に日は落ちて』のメロディが、
ややひび割れた音響で聞こえています。
太陽が傾き、自分の影がゆらゆらとアスファルトを伸びて、
ひとり帰る私は、なんとはなしに影ふみをしていました。
通学路には、他に人はいません。
うす暗いどこか物寂しい道を、
ぴょんぴょんと飛び跳ねるように進んでいる、と。
「……て……たす、け……」
どこからか、か細い声が聞こえてきました。
その声は幼い子どものようでもあり、今にも死にそうな老婆の声にも思えて、
足元からゾワッと冷たいものが這いあがってくるのを感じます。
「……けて……たすけ、て……」
今度は、もう少しハッキリと声がしました。
――誰かが、助けを求めている。
慌てて、声の聞こえた方へ走っていくと、
「え……ここ、って……!」
息を飲みました。
あの、いつも誰かの気配を感じる誰もいない家。
窓という窓が厚いカーテンで覆われて、家自体が死んでしまっているようなその家から、あの声は聞こえていたんです。
私は家の前で、立ちすくみました。
かぼそいながら、声は途切れることなく聞こえてきます。
例の、家の中から。
私は立ち止まり、一瞬、考え込みました。
誰かが助けを求めているなら、手助けしなくては。
でも、怖い。近づいたらまずいと、そう、本能が叫んでいる気がするのです。
『知らない人に声をかけられても、ついていかない』
というのは、学校でも教えられていること。
でも、今聞こえているのは、自分と同い年くらいの子どもの声です。
それも、助けを求めるような、頼りない声。
もしかしたら――誘拐でもされて、必死に助けを求めているのかもしれません。
このまま放っておいたら――殺されてしまうかも、しれない。
もし本当に危なそうだったら、
学校へ行って、先生をよんでくれば、きっと大丈夫。
あの頃は、まだ携帯電話が普及していなかった時代です。
だから、私はそのままそーっと、助けを呼ぶ声のする家に、
一歩一歩、近づいていきました。
例の家は、いつも通りひと気がありません。
玄関のドアには、クモの巣が絡みついていて、
生えっぱなしの木の枝が、パキパキと風に揺れて音を立てています。
家の中は、夕暮れ時だというのに明かりひとつ点いていないし、
赤い光で照らされた壁面が、妙に禍々しく、恐ろしいもののように見えました。
「…………っ」
怯える足が、ドアの前で止まりました。
さっきまでの『助けて』の声も、今はまったく聞こえません。
木の枝や雑草が揺れる音以外、
いくら耳を凝らしても、なにも聞こえないんです。
もしかして、いよいよ、危ない状態なんだろうか?
私が焦り始めた、そんな時でした。
フッ――と、周囲に人の気配を感じたのは。
「え……?」
キョロキョロと周りを見ても、誰もいません。
他に下校中の生徒の姿もなく、
正真正銘、この場には私しかいないのです。
それなのに。
それなのに、私を囲むように、人の気配がある。
なにもないのに、視線が刺さってくるような気配と、
人が笑っているような、独特の空気の揺れ動きを感じるんです。
怖い――気持ち悪い。
ぞわぞわと感じる悪寒。
腕に鳥肌が立って、急に恐怖を感じました。
>>
小学生の頃って、登下校の時には決められた道――通学路を使いますよね。
自宅から学校までの道のりで『この道を通ってください』ってルートが決められている、アレ。
私は運が悪く、仲のいい友達とは違う方向に住んでいたので、
いつもひとりで登下校をしていました。
ええ、あの頃は、集団登校とか集団下校という習慣はなかったんですよね。
そして、私が通学路には、一か所だけ、変な場所があったんです。
いえ、見た目は別に、ふつうなんです。
ただ、なんというか――雰囲気が、おかしかったんですよね。
一軒家が並ぶ住宅街の中にある、とある家。
古びた雰囲気の一軒家。そこがその『変な場所』でした。
駐車場に一台も車はなく、
洗濯ものも干されていないし、電気がついているのも見たことがない。
窓はカーテンで覆われていて中が見えないし、
表札も外されていて、庭も雑草が生えまくっているんです。
まあ……そういう家は、あっちこっちにあるでしょうね。
よくある空き家といえばそれまでです。
私も、登校し始めた頃は、全然気にならなかったんですよ。
でも、だんだんと。
登下校で何度も家の前を通るについれて、
モヤモヤとわだかまるような、イヤな感じを覚えるようになったんです。
その家の前を通るたびに、
なんだか、人に囲まれているような気がするんです。
ええ……見回しても、ひとっこひとりいないのに、ですよ?
前、うしろ、右と左。
四方向から囲まれているような、そんな気配を感じるんです。
決まって、その家の前を通った時にだけ。
おんなじ道を通るクラスメイトに聞いてみましたが、
わかる子とわからない子、だいたい半々くらいでした。
不気味に思いはしていたものの、通学路ですから、変えることはできません。
もう、そこは『そういう場所』なのだと、気にしないようにしていたんです。
でも、私が五年生になった年の、秋ぐらいのことでした。
クラブ活動を終えて、だんだんと赤くなってきた空を眺めながら、
いつもの通学路を下校していました。
後ろの学校からは『遠き山に日は落ちて』のメロディが、
ややひび割れた音響で聞こえています。
太陽が傾き、自分の影がゆらゆらとアスファルトを伸びて、
ひとり帰る私は、なんとはなしに影ふみをしていました。
通学路には、他に人はいません。
うす暗いどこか物寂しい道を、
ぴょんぴょんと飛び跳ねるように進んでいる、と。
「……て……たす、け……」
どこからか、か細い声が聞こえてきました。
その声は幼い子どものようでもあり、今にも死にそうな老婆の声にも思えて、
足元からゾワッと冷たいものが這いあがってくるのを感じます。
「……けて……たすけ、て……」
今度は、もう少しハッキリと声がしました。
――誰かが、助けを求めている。
慌てて、声の聞こえた方へ走っていくと、
「え……ここ、って……!」
息を飲みました。
あの、いつも誰かの気配を感じる誰もいない家。
窓という窓が厚いカーテンで覆われて、家自体が死んでしまっているようなその家から、あの声は聞こえていたんです。
私は家の前で、立ちすくみました。
かぼそいながら、声は途切れることなく聞こえてきます。
例の、家の中から。
私は立ち止まり、一瞬、考え込みました。
誰かが助けを求めているなら、手助けしなくては。
でも、怖い。近づいたらまずいと、そう、本能が叫んでいる気がするのです。
『知らない人に声をかけられても、ついていかない』
というのは、学校でも教えられていること。
でも、今聞こえているのは、自分と同い年くらいの子どもの声です。
それも、助けを求めるような、頼りない声。
もしかしたら――誘拐でもされて、必死に助けを求めているのかもしれません。
このまま放っておいたら――殺されてしまうかも、しれない。
もし本当に危なそうだったら、
学校へ行って、先生をよんでくれば、きっと大丈夫。
あの頃は、まだ携帯電話が普及していなかった時代です。
だから、私はそのままそーっと、助けを呼ぶ声のする家に、
一歩一歩、近づいていきました。
例の家は、いつも通りひと気がありません。
玄関のドアには、クモの巣が絡みついていて、
生えっぱなしの木の枝が、パキパキと風に揺れて音を立てています。
家の中は、夕暮れ時だというのに明かりひとつ点いていないし、
赤い光で照らされた壁面が、妙に禍々しく、恐ろしいもののように見えました。
「…………っ」
怯える足が、ドアの前で止まりました。
さっきまでの『助けて』の声も、今はまったく聞こえません。
木の枝や雑草が揺れる音以外、
いくら耳を凝らしても、なにも聞こえないんです。
もしかして、いよいよ、危ない状態なんだろうか?
私が焦り始めた、そんな時でした。
フッ――と、周囲に人の気配を感じたのは。
「え……?」
キョロキョロと周りを見ても、誰もいません。
他に下校中の生徒の姿もなく、
正真正銘、この場には私しかいないのです。
それなのに。
それなのに、私を囲むように、人の気配がある。
なにもないのに、視線が刺さってくるような気配と、
人が笑っているような、独特の空気の揺れ動きを感じるんです。
怖い――気持ち悪い。
ぞわぞわと感じる悪寒。
腕に鳥肌が立って、急に恐怖を感じました。
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