【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

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159.トイレのラクガキ①(怖さレベル:★★☆)

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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)

男子トイレあるあるだと思いますけど、
あんまり治安がヨロシクない地域だとか、
田舎のほぼ管理されてない公共トイレとかって、
よく、ラクガキがありませんか?

支離滅裂な内容から、政治批判だったり、
だれかの名指しの悪口や、性的な内容まで、幅広く。

ま、だいたい、個室のトイレのドアとか、
あとは壁なんかが多いですかね。

わざわざ、トイレに入るのに筆記用具を用意して――なんてやってると思うと、
まったくご苦労なモンだなぁ、なんて思っちまいますが。

と、話がちょっとズレましたが、
俺が今回話をすんのは、そんなトイレのラクガキ絡みの話なんですよ。

俺、転勤が多い会社に勤めてまして、
あの時も、中国地方に転勤になった後のことでした。

駅に近いアパートに住居を決めて、
そこから会社まで、徒歩で約十五分ほど。

その途中には、でかめの自然公園があるんですが、
帰宅する頃に横を通るとひと気があんまりなくて、
なんか、閑散としている雰囲気なんですよね。

ま、夜の公園なんて、いくら治安がよくったって、
うす暗いしちょっと怖いし、どこの地域だって、そんなに人はいないかもしれませんが。

ただ――俺はその日の仕事帰り、めっちゃ急いでたんです。

っつーのも、恥ずかしい話ですが……腹が痛くて、ですね。

なんとか早く家について……と思ったんですが、腹の痛みがひどくてね。

キリキリとズキズキが一緒にくる感じ、わかります?

あの痛みと苦しみが限界に達しかけたとき、
ちょうど、その公園の横に差し掛かったんです。

――うちに帰るより、ここのトイレに寄った方が近い!!

そう思った俺は、急ぎ足かつチョコチョコ歩きで、
例の自然公園の公共トイレに飛び込みました。

「……間に、合ったぁ……」

おれはもう、心からホッとしつつ用を足して、
一度水を流してから、腹を撫でつつもうひと踏ん張りしていると、
ちょうど、目の前の個室トイレのドアが目につきました。

いや、ドアというより、そこに書かれているラクガキに――ですね。

まあ、書かれているのは、ありがちなヤツ。

個人名を名指しした悪口らしきモンやら、
だれだれの芸能人は整形してるとかなんとか、
あとは、綴りの合ってねぇ英語の羅列、とかそういう。

まったく、ヒマなヤツもいるもんですよねぇ。
まぁ……それをこうやって読んでる、俺もたいがいですけど。

ボーっと眺めていると、次第に腹具合もマシになってきて、
俺はまた水を流すと、ズボンを上げつつ立ち上がりました。

「……お?」

と、その立ち上がった拍子に、
ドアの下の方にある、ラクガキが目に入りました。

それは、目線の位置にあったとりとめもないラクガキとは違って、
カタカナで書かれていてかつ、まるで筆文字のような、独特の筆記体でした。

オマケに……なんつーか、単語になってないんですよね。
呪文みたい、って言えばいいんでしょうか。

確か、そこに書かれていたのは、

『ニョギリ ギリ センジア バクラン』

みたいな……外国語っぽいというか、日本語としては意味が通らない言葉です。

上にあったただの暇つぶしのラクガキと一線を画しているというか、
どう見ても、ふつうじゃない感じなんですよ。

だって、それ見た瞬間、俺はゾクッとしちまいましてね。
悪寒っつーか……気色悪さ、みたいなものを感じちまって。

(スマホで撮影しようか)とも思ったんですが、
データに残しておくのがなんかイヤで……
結局そのまま、俺はそそくさとトイレを出て、うちに帰りました。

ええ、それだけ。それだけのことだったんです――その日は。

しばらくは、何事もない日々が続きました。

あのトイレのラクガキは、仕事の繁忙期とも重なってすっかり記憶から消えていて、
その後のことが無かったら――きっとあのまま、忘れ去っていたでしょうね。

ええ、その後のこと――後日、また、あのトイレに立ち寄ることがあったんです。

実はまた……あれから数か月後、腹を下しちまったんです、俺。

その日、まだ残暑の厳しい夜の道を、
脂汗をかきつつ速足で歩いてる最中、例の自然公園のとなりに通りかかりました。

(くっ……でもあのトイレ……確かラクガキひどかったよなぁ)

と、前回のことを思い出したものの、
背に腹は代えられないというか、人間の尊厳、という危機一髪の段階。

おれは前の時と同じく、速足かつチョコチョコ歩きで、
その日もまた、公共トイレに飛び込みました。

ひと通り用を足し終え、頭が冷静になってくると、
以前のラクガキが気になってきます。

また増えてんのかなぁ、と思いつつドアに目をやると、

「おっ? 消えてる」

あれだけ好き放題に書かれていたラクガキは、
キレイさっぱり、消え去っていました。

人の手で消した、にしてはキレイ過ぎたので、
もしかしたら、扉ごと交換されたのかもしれません。

(ふーん、ちゃんと役所がチェックしてんだなぁ)

一応公共施設だもんな、なんて感心しつつ、
ズボンを上げて立ち上がり――俺は”それ”を目にしました。

「……え?」

扉の、下の方。

すっかり消えたと思っていたラクガキが、一部、残っていたんです。

それも、あの――呪文のような、ラクガキが。

「えっ……つーか、なんか、違くね……?」

俺はラクガキを見下ろして、呆然と言いました。

以前は確か、筆記体のような字体で書かれていた、呪文ぽいカタカナ。

それが今は、赤黒いような色合いで、
文字がところどころつぶれて書かれていました。

そう、例えば。まるで指先に血をつけて、
擦りつけながら書き残したかのように。

『ジュモクノ ギリニ ゴク アタラン』

確か、書かれていたのは、そんな単語でした。

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