公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

第二章

４６話

　馬鹿です。
　馬鹿の極みです！
　どのような罠を準備しようとも、ルークの莫大な魔力の前には、何の役にも立たないのです。
　その事は、過去に何度も繰り返された襲撃で知れ渡っているのに。
　人は、自分の望む報告しか耳に入れないのでしょうか？

　刺客は私が相対していたコレクト王国の使者だけではありませんでした。
　遠くに控えていた随行員も、襲い掛かってきました。
　凄腕の刺客なのでしょう、密かに暗器を隠し持っていたようです。
　時間差と角度差を使って、防ぎ切れない多様な攻撃を仕掛けたようです。
　魔法を使って防御魔法を無効にしようともしたようです。
　普通の相手なら、完璧な刺客陣だったのでしょう。

　ですが相手はルークなのです。
　圧倒的な魔力なのです。
　防御魔法を無効にしようとした攻撃も、全く役に立たなかったようです。
　見たくはなかったですが、ルークが常に展開している攻撃反射魔法によって、攻撃してきた刺客が爆ぜました！

　そう、爆ぜたのです！
　今までは変化の呪いを返していたのに、今度は攻撃してきた相手を殺してしまったのです。
　さっきルークが言った言葉は、脅しではなかったのです。
　そうですよね、ルークが駆け引きなどするわけがないのです。
　正直に気持ちのままに生きているのがルークです。

　防御魔法を崩す事が失敗したのです。
　私を狙う事で、ルークが盾となる事を予想し、防御魔法を無効にしてルークを刺殺するという計画だったのでしょう。
　ですが前提が崩れているのです。

　刺客の暗器は、ルークに届く前に防御魔法陣に止められました。
　何の表情も浮かべないと聞いていた刺客ですが、絶望が両眼に浮かんだ気がした瞬間に、爆ぜてしまいました。
　ルークが行っている事ではありますが、正直目を覆いたくなるような惨状です。
　余りに惨たらしくて、心が凍り付きそうです。

「うっ、ギゥウェェェェぇ」

　急激な吐き気を催し、我慢できずに嘔吐してしまいました。
　ですがそれも仕方ないと思うのです。
　目の前で人間が弾けとび、肉片となってしまったのです。
　私の前にはルークが張った防御魔法が展開されていますが、弾けた人間の肉片と血液で、防御魔法がどこにどのような形で展開されているか一目瞭然となっています。

「お姉ちゃんどうしたの？
　苦しいの？
　痛いの？
　辛いの？
　直ぐに回復魔法掛けるから！」

　ルークが気遣ってくれますが、私が苦しんでいる理由を理解してくれていません。
　なにより、私が初めてルークに恐怖している事に気がついていません。
　そう、なのです。
　私は、ルークが恐ろしくなってしまったのです！