月乙女の伯爵令嬢が婚約破棄させられるそうです。

克全

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第2章

13話

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 アリスは心底困惑していた。
 どうしていいか分からなかった。
 いや、やらねばならない事は分かっていた。
 だがそれは、心底したくない事だった。
 しかし、絶対にやらなければならない事だった。

「爺。
 これはお断りする訳にはいかない事よね」

「はい。
 公爵家からの直々の招待状を断るには、相当の理由と覚悟が必要でございます」

「でも、今まで全く来なかったフィリップス公爵家から招待状よ。
 目的は家が手に入れた財産よね」

「フィリップス公爵家には数多くの悪い噂がございます。
 その中には、借財の噂も多くございます。
 残念ながらお嬢様は、婚約破棄された弱い立場と思われております。
 そこに付け込んで、一族から婿を送るからと、支援を要求するものと思われます」

「地位を笠に着た、返す気の全くない支援よね」

「恐らくは」

 フィリップス公爵家は、当主と一族の浪費で借財の山だった。
 下々の商人から借りた借財は踏み倒してきたが、それが噂になり、商人からは借りれなくなった。
 それで生活を改めればよかったのだが、今まで通り浪費を続けた。
 今度はその金を貴族から借りるようになった。

 貴族から借りた金は流石に返さなければならない。
 だが生活を改めないので、返せるはずがない。
 王家につながる名門とは言え、このままでは処罰の対象だった。
 そこにスミス伯爵家が婚約破棄で大金を得たと言う噂が、公爵家に伝わった。
 フィリップス公爵家当主のヘンリーはチャンスだと思った。

 そこで色々と調べさせた。
 スミス伯爵家が大金を得たと言う話は本当だった。
 本当どころか、たかが婚約破棄では信じられないような、莫大な額だった
 何が何でも一門の者を婿入りさせたいと考えた。
 だが問題もあった。

 ヴラド大公が肩入れしたと言う点だった。
 馬鹿で浪費家のヘンリーだが、ヴラド大公を敵に回すのが危険な事くらいは分かる。
 だからあまりに理不尽な縁組を押し付けるわけにはいかない。
 相手は傷者ではあるが、それなりの礼はとらねばならない。
 腹立たしい話だが、ヴラド大公が怖かったのだ。

 だから色々と準備を整えた。
 馬鹿は馬鹿なりに、悪知恵を働かせて、アリスを罠に嵌めようとした。
 まあ実際には家臣に考えさせたのだが、それなりの罠が完成した。
 舞踏会への招待状がその手始めだった。
 だが問題もあった。

 公式な舞踏会である以上、礼儀としてヴラド大公にも招待状を送らねばならない。
 格下の公爵家が舞踏会を開催するのに、格上の大公家に招待状を送らない訳にはいかないのだ。
 フィリップス公爵家当主のヘンリーはそれだけが心配で、ヴラド大公をもてなして動けなくするために、一族の令嬢と侍女を総動員する事にしていた。

 そして舞踏会の日がやってきた。
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